賛否両論のリメイク作『ファンタスティック・フォー』(2015)試写感想
2015/11/26
ジョシュ・トランク監督の手によってリメイクされたマーベル映画『ファンタスティック・フォー』は実に興味深い映画だった。
監督の出世作『クロニクル』は、主人公が超能力を使ってカメラを飛ばし、自らを映していく行為が必然性あるPOV手法となって革新的な映像を生みだすに至った。物語のほうも能力を得たがゆえに変容する男たちの友情を描き、その青春の切り取り方はせつなく胸が痛かった。
同様に『ファンタスティック・フォー』においても能力を持ってしまったがゆえに変容する友情というテーマが見られる。
見られるのだ、一応は。
長すぎる。
頭が良すぎて周囲から認められない発明オタクであるリード、彼の才能を認める幼馴染で不良のベン。大人になって彼と別れ街を出ていったリードが出会う庇護者的存在のストーム博士、彼の子供スーとジョニー、後に敵となってしまう兄貴分のヴィクター。異世界にある謎の力の存在を解明しようと葛藤し反発しあいながらも彼らは友情を育んでいく。それはいつしか自らの手で異世界へたどり着きたいという思いになり、悲劇へとつながっていく。
大体ここまでで物語の半分。いつヒーローが出るのか見ていて不安だけが増していく鑑賞体験は初めてだった。
この映画のすべてが駄目みたいな感想も見かけるが、それは違う。最初は『クロニクル』を作った監督らしく青春の葛藤をうまく描いていた。後半に突然生じる投げやり感覚が異常なのだ。
ここまで制作現場の混乱ぶりが映画に現れている作品も珍しい。
ハリウッドはもはやそこまでひどい作品を作れないように個々の作業は細分化されているから、その接続がたまにうまくいかないことがあっても、ここまでおかしな作品は出てこないのだ。
このリメイクに関しては、こんな発言もある。
20th Century Foxは、「ファンタスティック・フォー」(“Fantastic Four”,2015年)から、3ヶ所の主要なアクションシーンを撮影開始直前にカットさせていたらしい。また、エンディングの編集もジョシュ・トランク監督を排除して行われたようだ。(Blastr)
— cinepre//topics (@cinepre_topics) 2015, 8月 10
つまり、なんといえばよいのか・・・料理に重要な調味料を抜かれた状態で何か食べ物らしきものが目の前に出された感じなのだ。異能と化した友人たちの疎外されていく様子や孤独の感情、自らの能力を軍に使われてしまう悲哀をサササッと流し、大事なことが解決されないままのなし崩し的なラストには調味料の問題だけではなく、調理法を間違えていたり、まだ生焼け状態の料理を「出来ました」と提出されたような・・・スクリーンを見ていてそんな幻覚に襲われた。
おそらく一人一人が力を合わせれば、何倍ものパワーになるということでファンタスティックなのだろう。しかし、この映画は1+1+1+1=4で単純にフォーだった、ファンタスティックじゃないフォーなのだ。もはや、こんなのが出てきてしまったことを全力で楽しむしかないと私には思われる。多くの人が精いっぱいに仕事をしていた、そんな形跡もひたすら泣かせる。
本作において特筆すべきなのはMr.ファンタスティックの演技である。『セッション』の主演も務めたマイルズ・テラーの終始顔に浮かべている不満そうな表情は忘れられない。いったいなにがそんな不満なのか、完全に役柄をとびぬけた不機嫌具合が本当に素晴らしい。
これからジョシュ・トランクはずっと「あのファンタスティック・フォーの監督だ」と言われるのだろう。企画が二転三転していくなかで大作を任せられたことのプレッシャー、それに失敗したら監督の名のもとにすべての責任が負わされてしまう理不尽さ、それを考えると『ファンタスティック・フォー』は一人一人が「映画」とは何なのかについて考えざるをえない貴重な作品である。
そして見た人みんなが待ち望むのは間違いなくこの映画の舞台裏を描いた作品だろう。たぶん、それはこの映画よりもファンタスティックなものに違いない。
(試写会の様子)
最後に「ファンタスティック・フォー」ファン、そしてアメコミファンとしての仲間入りをすべく、会場中に「わたし、松井玲奈は、ファンタスティック・フォーやアメコミをもっと好きになるように努めていきます!」と高らかと宣言!見事アメコミファンの仲間入りを果たした松井さんには、配給会社20世紀フォックス映画認定の”アメコミファンになりました認定証”が授与されました。その後、会場のファン達と「ファンタスティック」「フォー!」という掛け声と共に記念撮影。大勢のアメコミファンとの一体感に嬉しさが隠せないほどの笑みを浮かべ、ファンタスティックなイベントは終了しました。(公式サイトより)
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