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吸血鬼が出てこない映画『吸血鬼ボボラカ』評

      2015/12/02

今回取り上げるのは上映時間72分のこの映画「吸血鬼ボボラカ」

近所のゲオがつぶれるため、その中古DVDコーナーに安く置かれていたのを拾い上げてきたわけです。

で、これがかなり面白かった。

映画監督・黒沢清推薦文で

『1940年代!RKO!しかもホラーだ。このすさまじい6本を見よ。 6本ともまったく違っているのにも関わらず、どれもが完璧で、カミソリのような映画美と超高度なストーリーテリングを達成している。映画ファンは、もう一度ここから学び直さねばならない』

こう書いてある通り、ふざける感じで見て最後には正座するような作品だった。

この映画

なんとタイトルに反して

吸血鬼が出ない

それに加えてジャンルが確定できない。てっきり、驚かせる系・怪奇映画の一種かと思ったらそういうことではなく、何というかまだ「ジャンル」が確固としたものになる前のような混沌とした感じで非常に新鮮であった。


『吸血鬼ボボラカ』のあらすじ

映画の舞台はバルカン戦争中のギリシャ、老齢で厳格な将軍ニコラスは近くに埋葬した妻の墓参りのため従軍記者とともに戦場をつっきりある小島へ向かう。

しかし、到着してみると墓荒らしの手によって墓は暴かれていた。近くの館へ話を聞くために立ち寄るが次の日そこで伝染性の敗血症が発生してしまう。

戦場への蔓延を防ぐため将軍は館の人たちに島から出ることを禁止する命令を出す。閉鎖的状況下で取り残される人々、そのうちに迷信深い老女はこの伝染病を「吸血鬼ボボラカ」の仕業だと考え、その場にいた若い娘テアこそボボラカだと言い始める・・・。


『吸血鬼ボボラカ』の感想

死体が散らばる戦場を突っ切って島に入っていく唐突さ。繋がっているようでいて繋がっていない要素(妻の墓荒らし、女性の歌声など)もあるが、72分と言う短さで強引に進むストーリーとバタバタ人が死んでいくあっけなさが合わさって作品は異様なリアリティを獲得している。

そして、この物語の迫力を支えているのは何と言ってもボリス・カーロフ演じる将軍ニコライだ。

ボリス・カーロフ演じる将軍ニコライ

ボリス・カーロフ演じる将軍ニコライ

軍に被害を広げない措置として、風向きが変わって敗血症が霧消するまで島の人々を閉じ込める「見たものしか信じない」理性の狂気から徐々に「ボボラカがシアに宿っている」と信じ始める演技が何とも言えず怖い。

周りもだんだん神を信仰しだし老女の話に力がみなぎってくるの「あの」胸糞悪い映画『ミスト』みたいな感じでいやーな感覚に包まれる。

見る側は神の視点であるから、シアがボボラカではないととりあえずは確定できるが、物語内においては死者の発生にシアがたまたま居合わせてしまうからこそ登場人物に疑心暗鬼が発生してしまう。

「疑心暗鬼こそボボラカの正体である」

そう結論付けることもできる。しかしそれだけでは納得できない要素多数なのだ。。

「もしかしたら最後のあの人物こそボボラカなのではないか」

と理性と迷信入り混じる未確定のどっちつかずをさまよい物語は終わり、見る側は不気味な感覚に包まれる。この辺はなんだか日本的ホラーに近いものがある。RKOホラー作品はこういう未確定の感覚を呼び起こす作品が多い。

「吸血鬼ボボラカ」に話は戻るが、原題の「Isle of the Dead」は間違いなくベックリーンの「死の島」に着想を得ている。(上陸する際の小島の形が絵の構図とまったく同じである)

『死の島』(同名のタイトルで何種類かある)

『死の島』

島全体が死の感覚に包まれているのは上陸した際の肌感覚で理解できたのだが、これは何故だろうと考え思ったのは、たぶん「風」によるものだろう。伝染性の敗血症、悪霊の感覚、理性迷信一体となったそれらさまざまなイヤーな雰囲気をこの映画の「風」は見事に体現している。

迷信が払拭されていく世界の中で閉鎖状況においては迷信が再生産される怖さ。しかし外では戦争も進行している。この二重構造に何か色々と思うことがあった。けれど残念ながらそれはまだ言語化できていない。いずれにしてもそういう物語だけではない「何か」についてがよぎること、撮影中に俳優ボリス・カーロフが奇病にかかるといった、きなくささも含めて『吸血鬼ボボラカ』は傑作ホラー映画だった。

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