評価は高いが、テーマ含めて問題ありの続編『ヒックとドラゴン2』感想(ネタバレあり)
2015/11/26
アカデミー賞長編アニメーションノミネート、海外の評価もべらぼうに高い『ヒックとドラゴン2』、日本では上映嘆願運動が起きるも劇場未公開のままDVDでの発売となった。
まあ、いいんじゃないですか。とも言えず、やはり前作と比べるとどうしても辛口になってしまう。
前作から五年後、いまやドラゴンを乗りこなすようになったバーク島の人々の活動範囲は格段に広がった。鍛冶屋は武器の代わりにドラゴン用のサドルを作ったり、ドラゴン乗りの腕前を競う競技が開かれている。
この前作を見てなくても大丈夫なように最初の場面だけできっちり世界観を把握させる冒頭の作り方はうまい。
そして、バーク島の長となることを父ストイックから望まれるヒックの悩み、それを日々トゥースを乗り回し世界の地図を作ることで逃避している展開も良い。わかりやすい自分探しのテーマである。
この映画の問題点は中盤からテーマが分散することにある。
「ドラゴ・ブラッドフィスト」というドラゴンを強制的に従わせ軍隊を組織している存在をヒックが知る。
ヒックはドラゴンに対する彼の考えを変えたい。しかし、父のストイックは話してもどうしようもならない奴もいると言って、「あいつは戦争をしたいだけなんだ」という残忍な彼の性格を語る。
ここで村の長になることの悩み、わかりあえない価値観を持つものとの対話というテーマが出揃うのだが、ドラゴへの説得に向かう途中、死んだはずの母親ヴァルカが出てくるあたりから展開がごちゃごちゃする。
ヒックが幼いころドラゴンに連れ去られた母は、ヒックと同じようにドラゴンが良い生き物であるという思想を持っておりドラゴンの桃源郷でドラゴに囚われたドラゴンを解放するなどの活動に従事していたのだ。バーク島に戻らなかった理由は人々のドラゴンに対する偏見は変わるころがないと思っていたから。
しかし母と子の、父と母の失われた時間を回復するここからの物語はそれなりに感動するが、全体の中で浮いてしまっている。さらに問題なのは最終的にヴァルカは母の役目を回復することが父から求められ、それに応じる点にある。
母と父と子の価値観がそれぞれ違うことを描けば、自由と帰属の問題をより浮かび上がらせることが出来たのに、そのテーマは徐々に薄れドラゴとの戦闘において決定的になくなる。この場面においてドラゴの思想はドラゴンによって村が滅ぼされた過去、身体を傷つけられた負の感情から生まれたのだと判明する。恐怖によってドラゴンを征服する考えの彼に率いられたドラゴンは圧倒的な力で他のドラゴンを従わせ、暴走したトゥースはストイックを殺してしまう。ヒックをかばってである。
そもそも、この世界のドラゴンという設定は難しい。ヒックは本来的には優しいと信じているがドラゴは信じていない。ドラゴンは付き合う人によってその性格が変わる、強力な力を持つドラゴンは悪に染まれば悪になる。本来的な優しさを説いたとしても、その本来性を信じてないドラゴはある意味でヒックの影である。この溝が埋まらないまま、実際に大事な家族がドラゴンに殺された際にヒックはそこでさしたる葛藤もせず、すべてをドラゴのせいにすることで解決を図る。
村の長となることの苦悩やドラゴンへの価値観が平行線のまま、あくまでトゥースとの信頼関係のみが強調され、トゥースが覚醒しドラゴを撃退することで物語は終わる。恐怖や憎しみによって隷属させるドラゴと話し合えばわかるといった最初のテーマはどこへいったのか。トゥースの洗脳を解いたことのみで、ドラゴの思想と対話しているとはどうしても思えない、なし崩し的にヒックが村の長となったことも釈然としない終わりに拍車をかける。
テーマだけでなく脚本的にも前作が「ナイトフューリー」というスゴイものを発見した高揚感、そのドラゴンとの交流、村人も徐々にドラゴンを理解していくも最後にはヒックの足の欠損という苦みを感じさせる完璧な流れに対し、この続編は物語が「ぶちぶち」と切れてる感覚を抱いてしまう。
母親の突然の出現やドラゴがバーク島を攻める前にドラゴンの桃源郷へ来た理由は、未公開シーンのなかで語られているものの、それを削ってしまったため物語の流れがあまりに唐突なのだ。母親の帰属の問題をしっかり描き、元の家族には戻れないという苦みの描き方もあったはずなのに、今回の続編は苦みを書こうとする脚本の「必要上」から父ストイックを殺したように思えてあまりに安易。「ドリームワークス」の作品にはしばしば苦みを書こうとして脚本がまとまらない傾向があるが、この作品にもそれを強く感じた。
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