映画『キングスマン』感想、紳士服ならコリン・ファース
2015/11/26
一週間ぶりの記事となります、スイマセン。
『キングスマン』を観てきた帰りにテンションが上がりまくってしまい、
黒い傘で映画の場面場面を真似していたら職務質問され&翌日病院の検査で改造人間よろしく身体をいじられ高熱を出して寝ておりました。
『キングスマン』の感想:最高。まだドキドキがおさまらない。
Manners maketh man
「行儀作法が人をつくる」
感想(ネタバレなし)
ロンドンの高級テーラー店の地下には、どこの国にも属さない国際的スパイ組織があって
日夜世界の平和のために戦う騎士たちがいる・・・。
まるで夢見る少年少女の妄想を具現化したような設定で、ベテランスパイのハリー(コリン・ファース)が自分を救ってくれた男の息子エグジー(タロン・エガートン)をまるで上質のスーツを仕立てるように育て上げていくこの作品。
つまりスパイ映画だけど『プリティ・ウーマン』and『マイ・フェア・レディ』なのだ。(ご丁寧に劇中でコリン・ファースが説明してくれる)エグジーの父親もハリーと同じく「キングスマン」というエリートスパイだったが、任務中の死亡により幼いエグジーはイギリスの階級の最下層へと下っていき、荒んだ生活を送る。
父親がなぜ死んだのかを知らないまま成長し鬱々としているエグジーの階級を抜け出そうと一念発起する姿は、ハリーを疑似的な父親とする構造含め古典的ではある。しかしこのテーマと気高く生きるとはどういうことかを体現しているコリン・ファースの演技は震えが起きるぐらい美しい。ためいき。
スッと立つ、スッと座る、騙し合いのユーモアに厳しい表情、『高慢と偏見』『英国王のスピーチ』『シングルマン』などで存じ上げている格好良いコリン・ファースが見せるアクションシーンにここまでときめくとは思わなかった。なんせ激しい戦闘の時でも背筋はピンとしていて体幹のぶれはまったくない。
『キック・アス』のマシュー・ヴォーン監督らしく過剰さが過剰なまま正しく抑制された最高のエンターテイメントである。途中、スパイ養成学校におけるエグジーの訓練シーンは『陸軍中野学校』&『ジョーカーゲーム』なみのハッタリは欲しいと思ってしまう中だるみ感覚はあるが、物語全体に漂うほら吹き展開は近頃どんどん真面目になっていくスパイ映画へ逆襲するような先祖回帰で、登場人物の台詞含めて映画の真似をしたくなる楽しさに満ちていた。
だから映画鑑賞後、黒い傘で遊んでしまい職務質問をされてもしょうがないのである。
感想(ネタバレあり)
その美しさゆえに見た人誰もが語るコリン・ファースの約四分間続く「教会暴走シーン」、すべての瞬間にため息が出てしまうこの場面は聞いたところによると一発撮りらしい。ババアの頭を射ち抜くところから始まる激しい音楽の鳴り響くなかで繰り広げられるミュージカルのような戦闘は、うはは、ドン引き、格好良い、ひゃー、でも楽しいと見る側の感情が実に忙しく動く映画史に残る名シーンだ。
そしてそのすぐ後にコリン・ファースが死んだときの喪失感はそれゆえに凄まじく、世代交代はしなければならない。悲しいけれど仕方ない、悲しいけれど仕方ないと念仏のように繰り返し心の中で唱えていた。
ということで、オジサンの代わりに若者がスーツを着る。
似合わない。
スーツがまったく似合ってない。
しかし新入社員のように似合わないスーツを身に着け、世界を守る騎士として巨大な敵と戦う選択をするエグジーだからこそ心を動かされるのだ。その敵が人類の救済ではなく地球の救済を考える漫画的な悪の組織のように見えて、人体埋め込み型の格安SIMによって人の感情を操作し、結局は一部の特権階級のみを生き延びさせる欺瞞に満ちた時代を反映している悪だからなおさらである。
彼ら特権階級がなんぼのもんじゃいという叫びが伝わってくるラストの首爆破と威風堂々の曲には拍手喝采、階級が上だからといって品位はまた別というハリーがエグジーに言ったヘミングウェイの言葉が響く。
There is nothing noble in being superior to your fellow man; true nobility is being superior to your former self.
「他人より優れていることが気高いのではなく、本当の気高さとは過去の自分自身より優れていることにある」
冒頭で音楽、そしてManners maketh man「行儀作法が人をつくる」と繰り返される言葉と音楽に笑いつつ、時代は変わっても騎士は引き継がれることを強く印象付ける終わりも素晴らしい。大ヒット作の宿命ゆえに続編も検討されているようだが、この作品の荒いエモーショナルさを考えるとどうか続編も気高くあれと願わずにはいられない。
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