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『GONIN』&『GONIN2』感想、すぐ傍に漂っている暴力の香り

      2015/11/26

GONIN

『GONIN』

2015年9月26日から『GONIN』シリーズの19年ぶりの新作である『GONINサーガ』が公開されるということで過去作を鑑賞、徐々に徐々に心が冷えていき今自分の生きている地盤の心細さを怖いと感じ、同時にラストシーンの静謐さを美しいと思った。

筋としては実に単純である。莫大な借金を背負っているディスコのオーナーのもとにそれぞれの思惑で癖のある面子が結集し、ヤクザの金を盗む計画を立てる。計画は成功するものの、そのために殺し屋が派遣されてしまい彼らは命を狙われることになるといった物語だ。

この単純な筋にもかかわらず、なぜ一部の人が「伝説の作品」「90年代バイオレンス」と言及し続けているのか、見るとすぐさま理解できるだろう。化粧をした本木雅弘の顔にめまいを感じ新宿のバッティング・センターでバットを振り続ける佐藤浩市、そしてそれを見る竹中直人、その普通ではない表情の連鎖に、これはただ事ではないという思いを抱いたまま終わりに至るまで映画に吸いこまれてしまう強烈な癖を持つ作品なのだ。

竹中直人といえば、定番のお笑いのネタに笑いながら怒る人の演技がある、笑える場面は怒り、怒る場面は笑うという、この冗長不安定さが作品に落とし込まれることで全体に不気味な感覚を醸し出す。そしてそれが連鎖していく、男娼の本木雅弘、元刑事の根津甚八、パンチドランカーの椎名桔平、成り行きで集った彼らに連帯感はない。異物が異物のまま存在している生の感覚ゆえに、狂ってるでしょうこれ?みたいな道化に走る作品と『GONIN』は一線を画す、地に足の着いた狂気の描き方に凄味がある。

そして、あるとき突然一般人が暴力に巻き込まれるかもしれないといった不穏な感覚が怖い。右半分と左半分、動と静、一枚隔てた向こうで何かが展開するカメラワークはホラーに近く、すぐ横で起こっているかもしれない匂いたつ暴力の香りに自らの足場の脆弱さを意識し恐怖した。

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まじりあわない狂気の感覚は殺し屋であるビートたけしの出現によって最高潮となる。しかしそれと同時に登場人物たちの死によって徐々に狂気は沈静化していく。終盤の佐藤浩市と本木雅弘の色気に満ちたキスシーンは血にまみれていながらも静謐でとても綺麗だ。

「GONIN」という作品の魅力は、演技の良し悪しだけではなく、役者が見せる狂気の不協和音が徐々におさまっていき、このような静の状態へ移行するバランス感覚にある。

『GONIN2』

「2」はうって変わって、宝石店を襲撃した強盗団の手柄を横取りしてしまった「五人」の女性の話。セーラー服を着て売春する大竹しのぶ、肉を解体する際に血を洗い流すホースで仁王立ちで全身の血を洗い流す喜多嶋舞ら女性陣、そこに平和な日々をヤクザの手によって奪われ復讐を決意する緒方拳が交じり前作と同じように偶然集った者同士の異物感はある。

しかし1の震えるような怖さはない。前作にも出てきた廃墟となったディスコで「主婦してまーす」と自己紹介をしながら踊り、宝石を分け合う女性たちと、妻のため亡霊のように宝石を求める緒方拳を見ていたら哀しくなった。バブル崩壊後、日々を普通に生きている人が巻き込まれた金と暴力の刻印を強く感じたからだ。

そして『GONINサーガ』

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『GONINサーガ』。『GONIN』の正統続編であり、あらすじをチラと見たところによると極道物の息子たちが主役とのこと。

19年の時を経て「東出昌大」「桐谷健太」「土屋アンナ」「柄本佑」「安藤政信」といった面々が、どのように『GONIN』の暴力と美しさ、異物を提出してくるか、本作でのみスクリーンの復帰を果たすという根津甚八は映画のどの場面で現れるのか、非常に期待をしている。

 

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 - おさらいシリーズ

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