マーベル映画『アントマン』感想、小さな男の大きな逆転劇
2015/11/26
この『アントマン』をもって「マーベル・シネマティック」ユニバース」は第二フェイズが終了し、次作の『アベンジャーズ:シビルウォー』から第三フェイズの開始となる。
そういう背景を考えて、映画も最近のマーベルに顕著な他作品と強固な繋がりを持つ「腹にドスン」とくる重いものかと思いきや、これが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のように、笑えて泣ける、そしてどこか懐かしい感じの物語だった。
感想(ネタバレなし)
もちろん、トニー・スタークのお父さんやらハイドラの出現といった他のマーベル映画と関係はあるが、そうした文脈はサラッと描かれて作品としては実に身軽な感覚。
初代アントマンを務めたハンク・ピム博士もサポート役にまわり、あくまで焦点は主役のスコット・ラングにある。義憤に駆られて勤め先の悪事を暴いたものの、そのことが原因で刑務所に入れられ&妻子とも別れることとなり、現在「サーティワン」でアイスを売る仕事に就くスコット。彼を演じるポール・ラッドの哀愁漂う雰囲気は抜群だ。
前科者のため「サーティワン」の仕事すらクビになってしまうバツイチ男が娘のために奮起する流れは王道の展開、この辺に『チアーズ』などを監督したペイトン・リードの昨今の大作映画らしからぬこじんまりした感じが出ており、懐かしさが素晴らしい。
本作の見所として、チームを組んでアントマンスーツを盗み出すあたりから始まる「ミッション・インポッシブル」なアクション・シーンがある。掃除機の中や排水管など我々にとって身近な世界を、身長1.5cmのアントマンが電磁波を用いて仲間にしたアリをお供に渡り歩いていく。今まで見たことがない表現の連続に終始ワクワク状態。
「世界の危機だからアベンジャーズに頼めばいいのでは」
スコットにこう言わせているあたり脚本も抜かりはない。
ピム博士がそうしないのは、彼の発明した有機物を縮小させるピム粒子がかつて平和のためにとスターク父に代表される組織に盗まれたことに対する不信ゆえ、さらに世界の混乱をもたらす敵も元弟子だから『アベンジャーズ』の出番はないのだ。マーベルの各作品を繋ぐときに出てくる微妙な違和感、例えば『アイアンマン3』でスタークがピンチだったとき他のメンバーはどこへ?といったような疑問は今回の『アントマン』にない。
うだつの上がらない普通の男が、世界の危機という大きな戦いに小さなヒーローとなって身を投じていく。
そういう身軽さが売りの『アントマン』は、今後アベンジャーズメンバーの中で一番親しみを感じさせるキャラクターとなるのではないか、映画館はそんなことを感じさせるぐらい笑いに包まれていた。
↓スクリーンを闊歩する蟻の群れを見ていて思い出した作品。
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(感想ネタバレあり)
ピム博士の組織に頼らない泥臭い戦いとスコットの庶民的感覚ゆえに「アベンジャーズ」のアジトに侵入したアントマンが一瞬でその正体を見破られしまう流れは、この組織が持っている膨大なテクノロジーの力を思い知り、まだヒーローとしては無名のアントマンがファルコンに挑んでいくあたりに、なんというかみんなが知っている「あの」アベンジャーズへの反骨精神がむくむくと湧いてきてアントマン頑張れー!!と心の中で立ち上がって応援する自分であった。
こういうデカいものに対する反抗は作風とマッチしている。
アントマンのスーツに似た力を持つ「イエロージャケット」を作った敵は人を人として見ない有用性のみで何でも判断してしまう奴ら、つまり企業及び政治家。それでも物語がシリアスさを免れているのは、ピム博士と娘のホープが和解してる場面を茶化す間の取り方や、大事な場面にふざけるルイス(マイケル・ペーニャ)含むオバカ3人組のおかげ。
友人が失業してもマイケル・ペーニャのような精神を持って接したいと心から思った。
世界の命運を賭けた戦いが、愛する娘の目の前で行われているラストのバトルシーンは「それも大きくなるの!?」な緩急のつけ方も含め素晴らしく、娘にとってのヒーローと世界にとってのヒーローが合致し、量子世界からの生還を果たしたとき娘さんの一瞬見せる表情の変化が格別。
妻と娘の信頼を取り戻すために頑張るうだつのあがらない男という王道の物語を進みつつも、新しい警官の父親バクストンを悪く描かない終わりには新たな家族観を提示してもらったように感じ新鮮な気分で映画館を後にした。
スタッフロールの最後に出てきた人物は「ウインターソルジャー」のバッキー。
ヒーローのあり方を巡って「アベンジャーズ」が分裂する『シビルウォー』に向けて、アントマンがキャプテン・アメリカ陣営に組み込まれる伏線と思われる。ということは、アントマンとアイアンマンが敵同士のやり取りをするかもしれない・・・さらにスパイダーマン・・・その豪華な絵面を考えるだけでニヤニヤしてしまうオマケシーン。
(以下、つらつらと補足)
*作中に登場するルイスの長話はエドガー・ライトのオリジナル脚本には含まれてないらしい。けれど三人組の馬鹿っぷりには『ショーン・オブ・ザ・デッド』においてサイモン・ペッグの語る妄想気味の逃走作戦会議に近い間抜けさが色濃く現れていたように思う。ちなみに『アベンジャーズ』のジョス・ウェドン監督は、降板したエドガー・ライト版『アントマン』の脚本を「マーベル・スタジオがこれまで手にした脚本の中で最高のものだったのに」(シネマトゥデイより)とまで言っている。契約の関係で不可能に近いかもしれないが、たまらなく読んでみたい。
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