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スターウォーズ最新作の前に見るべき爆笑ドキュメンタリー映画『ピープルVSジョージ・ルーカス』

      2015/11/26

「ピープルVSジョージ・ルーカス」は名作『スター・ウォーズ』を巡るファンの狂騒を描き、偉大な作品は人生を狂わすということを徹底的に教えてくれるドキュメンタリー映画である。

ピープルVSジョージ・ルーカス [DVD]
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これからスターウォーズの新作が続々と公開されるということで旧作をおさらいがてら見ている人は是非こちらも見てほしい。げらげら笑えるが内容は深い。

エピソード1「業界への挑戦者」

本家に敬意を表してこのドキュメンタリーは3つのエピソードに分かれている。当時の映画業界においてジョージ・ルーカスはそのシステムへの果敢な挑戦者であったことが紹介されるのが「エピソード1」だ。

彼はほとんどの人が売れないと思っていた自伝的要素の強い「スターウォーズ」を完成に導く。光と闇の物語、フォース、ジェダイ・・・といった用語に人々は崇高なものを感じたちまち夢中となり、映画館に観客は殺到した。

ルーカスは一躍、時代の寵児となった。

そして目覚めた先輩のボンクラたちは、身近にあるもので想像力を高め、それぞれがそれぞれの物語を紡いでいった。ペットボトル、ガムテープやごみ袋を着込んで作られたファンたちによる画質の荒い二次創作は「あちゃあ」感もあるが、幸福感に包まれている。フィギュアや飲み物といった巧みなマーケティング戦略もそれを後押しした。

s_スターウォーズファン2

エピソード2「偉大なる修理屋」

しかし、97年に状況は一変する。

あの「スターウォーズ特別編」が生まれたからだ。

我々が今レンタルなどで「スターウォーズ」を借りたときに見る映像は、公開当時の映像ではなく修復されたこの「特別編」のものである。それを巡る論争が「偉大なる修理屋」と題されたエピソード2だ。

フィルムからデジタルに治す際に、ルーカスは不完全なままで本来のビジョンではない映像を「修理」したのだ。しかし、当時できなかったことや技術的拙さを現段階での特殊効果で追加する行為、それは「創造主」とはいえ許されるのか。たとえ当時の視覚効果が拙くとも、大勢の人が携わった情熱の結果をそれは無視した行為ではないのか?

作品は時代に属すものだ、いや中世の芸術家たちも作品を修正していった・・・論争は激しくなり、「聖典」を巡る信徒たちの混乱も増していく。

s_ハンソロ

ファンが何より激怒したハン・ソロがグリードに対して騙し討ちをしないシーン

 

そして1999年。創造主への反逆は始まる。

 

エピソード3「オタクの復讐」

「スターウォーズ エピソード1ファントム・メナス」

1999年5月。映画館は長い長い列が出来ていた。スターウォーズの完全新作を求め興奮する人々の群れで。

彼らが、約二時間後にどうなるのか。我々は知っている。

絶対面白いはずだと確信している顔が、どういうことになるのかを知っている。

だから彼らには本当に申し訳ないが・・・ここは一番笑える・・・。映画が終わった後の、彼らの何かを信じられない表情。

どうだったと聞かれて、

「えっと・・・うーん・・・。あの、もう一回見てみるかな・・・。」と語るこの場面は何度見てもおかしい。

s_サイモンペッグ

ドラマ「spaced」(邦題「俺たちルームシェアリング」)で「ファントム・メナス」の悪口をぶちまけるサイモンペッグの姿。

 

フォースと共にあらんことを

こうして観られたんだ、ありがとう。と感謝し新世代をあくまで擁護する人もいる一方で、自らの教えを信じられなくなりおもちゃを壊す人、影の芸術とも呼ぶべき再編集した「海賊版」を作り聖典の書き換えを行う人々、俺にアイデアがあるんだと叫ぶオタク。

これはルーカスの罪深さなのか、彼ら自身の罪深さなのか、聖典を創造主によって捻じ曲げられ自身の教えが否定されたファンの言動はまるでフォースの暗黒面にとらわれていく過程を見ているようだ。

しかし、ジョージ・ルーカスは偉大な人物だということで彼らの見解は一致する。一生続く遊びを与えてくれた、

そして、みんな楽しんでるじゃないかと!

偶然や運命や才能によって恐るべきことに、資本主義的な現実と神話的フィクションとルーカスの個人的な物語、それらすべての善と悪を含み壮大なアナロジーとして「スターウォーズ」という巨大な作品は形作られた。映画の終わりにあるのは株主や業界という映画の暗黒面に囚われたルーカスの内部に眠る少年の心が勝ってほしいというファンの願いだ。彼が、そしてスター・ウォーズがこの先どうなるのか、答えはまだわからない。

それを見届けるのは私たち一人ひとり「ザ・ピープル」なのだ。

 

映画ドットコムの情報によるとなんと第二弾が制作中とのこと。

「第2弾のテーマは、ずばり「ジョージ・ルーカスの手を離れた『スター・ウォーズ』の未来はどうなるのか?」。ルーカスフィルムがウォルト・ディズニー傘下に入り、今後のシリーズの発展に期待が寄せられる一方で、遥か彼方の銀河系が“ディズニー化”されてしまうことに不安を感じるファンの心理などにスポットをあてるようだ。」(映画ドットコムhttp://eiga.com/news/20140624/20/より)

スターウォーズEP7の予告を見るファンのリアクションBEST5(個人的には第四位の男が好き。これを見ていると「スターウォーズ」という神話は終わらないと理解できる)

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