『ジュラシック・ワールド』のコリン・トレボロウ初監督作『彼女はパートタイムトラベラー』感想
2015/11/26
SFコメディというジャンルに分類されたためにヒドい邦題だがコリン・トレボロウの長編初監督『彼女はパートタイム・トラベラー』(原題:SAFETY NOT GUARANTEED)は、2012年のサンダンス映画祭に出品され見事大賞を受賞した作品である。
これによって彼は日本でもこの夏に公開される大作映画『ジュラシック・ワールド』の監督を任せられた。異例の大抜擢である。
あらすじ
「子供の頃がいちばん良かった」「今は悪い予感しかしない」と面接で言ってしまうダリアス(オーブリー・プラザ)はインターン先の出版社で、「過去へのタイムトラベルの同行者募集」という広告について取材することになる。
その募集に書かれていた条件は3つ。
①「報酬後払い」、②「武器持参」、そして最後が③「安全は保障しない」=(SAFETY NOT GUARANTEED)というものであった。
ダリアスは先輩社員のジェフ(ジェイク・ジョンソン)、常にパソコンをいじっている同じインターン生のアーナウ(カラン・ソーニ)とともに広告に書かれていた住所のある私書箱へと向かう。そして、広告の主がケネス(マーク・デュプラス)という地元のスーパーで働く人物だとわかったが、彼はしきりに何かを警戒していた・・・。
感想
邦題のせいで誤解されるが、この作品は過去に戻ってタイムパラドックスがうんたら等という大がかりなSFではない。焦点となるのは「過去」に傷持てる人たちの現在との向き合い方である。
スーパーで働くケネスは同僚を捕まえては相対性理論についての話をする変わり者であった。最初は嘘をついて彼に接近したダリウスだが、彼女もまた現状にずっとズレを感じ生きてきたため徐々にケネスとの距離が縮まっていく。その過程の描き方は実直で上手い。彼女は過去へのタイムトラベルを信じ始め、ある時期から何もかもおかしくなったと自分の過去をケネスに語り、母の死を止めたいと打ち明ける。
しかし、「タイムマシン」は全然出てこない。
それとともに完全に蚊帳の外におかれた仕事をしない先輩社員ジェフとアーナウの物語も同時に描かれる、昔の彼女との想い出が忘れられずフェイスブックを使い再び彼女と出会おうとするジェフ、それを応援するアーナウ、大筋の物語のそばで別の物語も始まる構造は傑作コメディ『スーパーバッド 童貞ウォーズ』を思い出す。
登場人物の過去に何があったのかは詳しく説明されないので一歩間違えれば杜撰になりかねない脚本だが、ブルーカラーとホワイトカラーの対立なども暗に描き、それぞれの「今」の物語がしっかり地に足がついているからこそ、見る側は彼らの過去を様々に想像することが出来る。
たとえば、ケネスが過去への旅をいよいよ決行すると決めたとき、自分の相対性理論に関する話を延々と聞いてくれた同僚にダリウスを通して、おそらく全財産であろうお金を渡す。その時の同僚の表情が良い、突き返すわけでも狼狽するわけでもなく、ただ「どこに行っても応援している」と一言告げる。
また冒頭ダリウスの回想シーンにシュークボックスが一瞬映る、好きな音楽は?とケネスに聞かれダリウスは「虹の彼方に」と答える。もしかしたら「虹の彼方に」は母親とともにこのジュークボックスで聞いた幸せな時代の曲なのかもしれない。
Somewhere over the rainbow Way up high
There’s a land that I heard of Once in a lullaby
虹の向こうの空高く、むかし子守歌で聞いた国がある
Somewhere over the rainbow Skies are blue
And the dreams that you dare to dream Really do come true
虹の向こうは空青く、信じた夢はすべて叶えられる
~Over the Rainbow~
レーザーの強奪、産業スパイ容疑・・・そして謎の男たち、ケネスはただ現状に不満を持った変人なのか、それとも・・・と疑念を観客に持たせて、ダリウスの物語もジェフとアーナウの物語も終わりに収束していく。
戻れない苦みを抱え現在を生きるもの、目の前に広がる世界へ進みだしたもの、そして過去を想像するもの。そのどれもが三者三様の「未来」へ踏み出す選択でもあったのだと、すべてが一点に集約するほろ苦い結末はカタルシス満載である。
劇場未公開のため、あまり見ている人が少ないこの作品だが大作『ジュラシック・ワールド』に続き、コリン・トレボロウは「スター・ウォーズ」の新エピソードを監督するなどの噂もあり、彼のキャリアの始まりを見ていく上でも必見の映画となっている。
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