【講演会まとめ】「映画批評を巡る冒険(第一回)」(講師:佐野亨)
2015/11/26
蔵前で行われた講座「映画批評を巡る冒険」の第一回に行ってきました。
場所は「石毛家二階ギャラリー」
芸術新聞社
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・佐野さんが個人的にどのような形で映画批評と関わってきたのか、そのお話が面白かったのでいくつかまとめてみました。以下、佐野さんの講義の再構成です。
(第一部)
佐野亨「1982年生→必然的に名画座がない世代。どう映画と関わってきたか」
Contents
①何よりもテレビの映画解説が一番大きかった。
【「淀川長治」という存在の偉大さ】
淀川長治の一般的イメージは温和だが、書かれた文章『映画千夜一夜』等を見ると蓮實重彦をシュトロハイム『愚かなる妻』に出てくる「ニセ伯爵」と呼んだり、山田宏一も子供扱い。二人とも淀川さんに頭を垂れている、それぐらい凄い。
内田吐夢監督の『限りなき前進』のオリジナル版など現存していない映画ですら生き生きと語ることも出来た唯一無二の存在。蓮實さんも「突然変異」と称す。
そして活字がおそろしい。たまに「日曜洋画劇場」をけなしているんじゃないかと思う文章に出会うこともある。(ここで雑誌『サントリークォータリー1991年の36号』を参照)
ここで淀川さんは映画がつまらなくても「ただ無駄なことは言わない」と言っている。
日曜洋画劇場でノってるとき・ノってないとき、そのあたりを意識せずとも見る側も感じとって、無意識のうちに啓蒙されていた。つまり語りの中で「シュールレアリスム」とか「モンタージュ」とか言われても何のことかわからなかったことが、そのあと何年かしてその用語を思い出すといったように。
今回の講義「映画批評はいまどうなっているのか?」の結論を言ってしまうと、映画批評以前にそういう柔らかいのと硬いのを上手く混ぜたテレビ解説のような「偶然性」に接する機会が今の若い世代はなくなってしまっている。大学で映画理論を学ぶとかそういうことではなく。
淀川長治が厳しい人だったというのは、森卓也・金井美恵子・蓮實重彦などの色んな証言でわかる。礼儀とか物事の丁寧さを大事にする厳しさの根底にあるのは、「映画をたくさん見ているのに、どうしてそういう態度をとれるのか」という映画愛ゆえ。
晩年の著作『男と男のいる映画』は一種のカミングアウト本であり凄い。語りや書くこととも違う独自の文体があらわれている。
【「荻昌弘」のクールな映画解説】
荻昌弘の解説は無駄がない。非常にシャープな言葉で要約する。インテリジェンスある批評。特に『月曜ロードショー』のラスト三回の解説は本当に凄い。『再来!キョンシーズ』『時をかける少女』ときて最後が『ビューティフル・ピープル/ゆかいな仲間たち』(↓その解説)
(あかん、泣くわ。(´;ω;`) – )
荻昌弘はこの最後の映画解説から一カ月ほどで亡くなっている。「いずれ必ずブラウン管を通して、お目にかかれる時が。来ると思います」と言い残して。
最近スクリーン新書に収録された(上記の本)「ある映画評論家の生活と意見」は映画について文章を書く人は必読。襟を正す。
2、テレビ雑誌の存在
「Telepal」という雑誌。職業批評家・増渕健の地上波で放送する映画の解説が凄い。
(「スターウォーズ帝国の逆襲」の文章を引用。凄いレベルの高い文章)
こんなレベルの映画解説がバンバンあった、今は資料取りよせてまとめるだけだからどれを読んでも似たような感じ。それで良しとするのか意識の問題。
(↓次ページ:映画雑誌の歴史)
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