日常・幻想入り乱れての大江戸アニメーション、映画『百日紅~Miss HOKUSAI~』感想
2015/11/27
(ネタバレあり)
強気な女性×江戸×声優が杏!

映画『百日紅』【監督】原恵一、【原作】杉浦日向子、【脚本】丸尾みほ、2015年製作。 【配給】東京テアトル、【上映時間】90分
ということで公開前から期待していた原恵一監督5年ぶりの長編アニメ―ション作品『百日紅~Miss HOKUSAI~』、早速テアトル新宿で鑑賞。
杉浦日向子の原作から北斎とその娘・お栄周辺のエピソードを取り出しているため、予告編を見てなんとなく察した通り、物語を繋げて語るということに主眼は置かれていなかった。
どういう形式の映画かと言えば高畑勲『ホーホケキョ となりの山田くん』のような感じといえば若干語弊はあるけど、わかりやすいかもしれない。市井の人々が暮らす現実の江戸と妖怪が跋扈する幻想の江戸、その混在がまるで絵巻物を見ているかのようだった。
場面場面がサラリと流れていく構造が江戸の粋な情緒、そして主人公であるお栄のサバサバした感じとよく調和している。特に彼女がキセルの灰を落としてしまい北斎の絵を台無しにしても、その出来事に対して二人の間に言葉のやり取りはなく、当たり前のように彼女が代わりの絵を書く。原作の乾いた雰囲気を脚色せず描いていており原監督はこういうことも出来るんだと見ていて驚いた。
また感覚に訴えかけてくる表現は作品の重要な鍵ともなっており、音や光の繊細な表現に着目するとより映画を楽しく見ることが出来る
例えば、お栄が目の見えない妹・お猶を連れ出して茶屋で休ませる場面。近所の子供が目の見えないお猶の目の前で木にたまった雪を落とす。その音に彼女が反応し、一緒に雪落としの遊びを始めるという一連のやり取りは微笑ましく、雪を踏みつけ、投げつけ、落とす音は映画が終わっても耳に残る。
その後、体調が悪くなったお猶をかついだお栄が、父・北斎と往来で出会うシーンがまた素晴らしく良い。感覚の鋭い北斎だからこそお猶に会うことを避けているのだが、彼らが目を合わさずに交差する瞬間の光と影の使い方にはハッとさせられた。
けれども杉浦日向子のファンがこの映画を見たら少し厄介かもしれない。原作はサラリとした描写のなかにも、妖怪や色恋に代表される人間の「業」のようなものが匂っていたが、今回の映画では元々がオムニバスの作品からさらに要素を抽出したためか、杉浦作品のそういった持ち味の良さが薄まっていたのではないかというのが自分の感想である。
あとは原恵一の情動の使い方と杉浦作品の感情の描き方が時たま混じることがあって、終盤のお栄が走るシーンではそれが顕著だった。映像的にはとてつもないことをしているのだが最高潮のテンションに至る前で心の動きが区切られる。ここは本来ならもっと情動を爆発させるはずが原作に引っ張られてしまい中途半端だったように思う。原作のこの場面の凄まじい寂静感を知っているから、ここは振り切った方が良かったのではないか、それとも自分がここに「オトナ帝国の逆襲」の幻影を観すぎているのか、他の人の感想を特に聞きたい。
最後のモノローグと、現在の東京の風景がリンクするところは賛否がありそうだけども今に繋がるテーマ性を出した表現として自分好み。いずれにしても巨大な両国橋を下からくぐるシーンが妙に感動してしまう江戸の描写の細かさ、浮世絵とか美術が好きな人はより楽しめるのは間違いない。だからこそ映画館で見られる人は大きなスクリーン&良い音響で是非とも。
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