映画『PAN ネバーランド、夢のはじまり』感想。2015年屈指の3D表現に痺れた
2015/11/26
黒ひげ:「ネバーランドへようこそ!」
最近定型の物語を脚色したり、後日譚を作ったりが大流行である。
例えば、近年のディズニー映画は『アリス・イン・ワンダーランド』や『オズはじまりの物語』に代表される作品を見ればわかるように、とことんその形式を活用している。おそらくある程度誰もが知っている物語の方がお金を集めやすい=納得させやすいという論理も働いているのだろう。
映画『PAN ネバーランド、夢のはじまり』は、あの『ピーターパン』に至る前日譚を描いた作品である。「パン」という称号がつく前の少年ピーターが若い頃のフック船長と共に、ネバーランドを荒らす海賊・黒ひげと戦いを繰り広げる。
極悪非道の黒ひげを演じるのはヒュー・ジャックマン。
いや、そんなの手の甲から爪だして、ネバーランド壊滅でしょ。な気分で見に行った。
(参考画像↓)
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感想:興奮。
ハリー・ポッターの制作陣が贈る、という宣伝文句を見た時点で「そこかよ!?」な気持ちだったから、予想外の面白さに驚いた。確かに原作のエグみを避けた問題溢れるチキン脚本だったがとにかく3Dの世界観に感動。はっきり言ってしまうと、この映画はネバーランドの世界を見に行くのではなく、
ディズニーランドのアトラクションを楽しむ感覚に近い。
(あらすじ)
ある夜のことである、ロンドンの孤児院に一人の赤ん坊が置き去りにされていた。
籠の中に入っていた紙から「ピーター」と名付けられた子供は、劣悪な環境にも負けずにすくすくと成長し今は正義感に溢れる立派な少年となっていた。そんな彼にはひとつの疑念があった。最近の孤児院で出される食事の不味さはいよいよヒドくなり、婦長さんが材料を横取りしているのではないかということだ。
ピーターは友人とともに空襲のどさくさに紛れて彼女の部屋へ行き、そこで膨大な食料と金貨を発見する。そして彼は発見する。「あなたは特別な子。私と別の世界でまた必ず会える」という母親の手紙を。
直後に婦長は彼らを見つけ罰を与えるが、食料だけではなく金貨まであったことにピーターの疑念は膨らむ。さらに最近孤児院では子供たちが次々にいなくなっているという奇妙な出来事が頻発していた。
その夜、真相を確かめようと寝ずに待機していたピーターの前に現れたのは、なんと空飛ぶ海賊船!彼は連れ去られる、黒ひげが支配するネバーランドへと・・・。
(感想ネタバレなし)
劣悪な環境の孤児院でもネバーランドの炭鉱で働かされても輝いている主役リーヴァイ・ミラーの美少年ぶりがまさに「王子」の雰囲気だった。
彼が立ち向かう悪役の黒ひげ=ヒュー・ジャックマンの演技にも痺れた。炭鉱で人々を働かせるノリノリの独裁者だなあ(笑)と思いきや、若返りのためにネバーランドの宝であるピクサムを求め続ける狂気の姿に止まる笑い。ピーターが予言にあるとおり自分を殺しに来た存在なのか尋ねるあたりの疲労と寂しさの入り混じった恐れの表情も絶品である。
ここ最高!と思ったのはピーターと若きフック船長(ギャレット・ヘドランド)が出会う場面。炭鉱の厳しい労働でピーターが手に豆を作っているのを見て、つるはしを寄越せという青年、それを手入れしてあげるときに彼は持っていたかぎ爪で金属を研ぎ始める、物語的にはこの青年が何者か明かさなくても見ている側は「あっ!」と思う見事な演出だった。
空飛ぶ宇宙船で空への浮遊感を味あわせてからの奈落のごとき炭鉱というビジュアル・イメージは鮮烈で、はっきり言うと前半部分のここらあたりが面白すぎて、炭鉱を抜け出して以降ネバーランドの先住民が登場したりといった幻想的な風景すべてが見劣りしてしまう。困った。さらに脚本としては穴だらけで、原作の持つ禍々しさを脱臭して軽快に行くのかと思いきや、自分が本当に選ばれしものなのか、飛べるのか飛べないのかといったピーターの鬱々とした逡巡はこっちはそのつもりで観に生きてるんだから「さっさと飛べや!!」と叫びそうになる思いを抱くのも事実。
しかし3Dは観客を物語よりも映像に没頭させやすい形式なので、そこら辺を忘れさせるぐらい映画のアトラクション性は映画館で見る価値ありの一本。
(感想ネタバレあり)
本作は3Dのアトラクションから帰ってきて、家に着くと猛烈にダメ出しをしたくなる類の作品だ。
部族で一番強いものに与えられるのが「パン」の称号であるという設定がまったく生かされてない!孤児院と黒ひげの関係は!など見ている最中にも違和感多数だったが、なによりも前日譚たりえないだろうと思ったのは、ピーターと若きフックが仲良く黒ひげを倒した後にラストで爽やかに語りあって終わるところ。
いくらなんでも繋がらなさすぎである。
こんな仲の良い二人がいがみあって、後でピーターがフックの片手を切っちゃうとはどうしても思えない。
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先住民への差別的描写も目立つ原作の皮肉や悪意を脱臭して、見やすくしたのがディズニーの「ピーターパン」である。
よくよく考えると「ピノキオ」も「不思議の国のアリス」も原作から気味の悪い部分を捨象するのが本当にディズニーはうまい。今作の『PAN ネバーランド、夢のはじまり』も原作ではなく万人が受容できる感動作を狙ってディズニーアニメ版のほうに引っ張られた節がある。しかし、人を殺すシーンを色で表現したりといった苦しい描きかたでは結局人の暗黒面を見ない無味無臭の感動に過ぎない。若きフックを黒ひげと対立させつつ、彼の力に憧れる描写を入れたりといったように表面上はハッピーエンドに終わらせても、次の物語への橋渡しをする構成にするなど裏で色々やりようがあったはずだ。そういう意味で物語だけを見るなら前日譚という企画をほとんど生かせておらず実にもったいない出来だった。
【作品情報】
- 原題:Pan
- 製作年:2015年製作国:アメリカ
- 日本公開:2015年10月31日から公開(全国のイオンシネマなど)
- 上映時間:112分
- 配給:ワーナー・ブラザース
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