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映画『ミンヨン倍音の法則』試写感想~流れるように、音~

      2015/11/26

10月2日東京新聞主催の試写会でシネマート六本木へ。

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『ミンヨン倍音の法則』あらすじ

モーツァルトが好きな大学生のミンヨンはソウルで通訳と翻訳のバイトをしつつ「倍音の法則」という小説を書いていた。妹のユンヨンも同じく日本に住んでいたことがあるので日・英・韓の三か国語を話すことが出来、姉を手伝っている。

気を抜くとぼんやりと夢見がちになるミンヨンは祖母の親友である佐々木すえ子一家を写した戦時中の写真に思いを寄せ、いつか日本に行くことを考えている。

ある日、日本で子供たちに英語を教えたいとユンヨンが日本に旅立っていく。写真に書かれていたモーツァルトの曲が響く中、現在と過去、虚構と現実を間を行き来するミンヨンの物語が始まる。

 

感想(ネタバレあり)

”伝説の映像作家”「佐々木昭一郎」と呼ばれるゆえに、本作が公開されるとおそらくそのスタイル・過去作との関連などを多くの縁ある人々が語ると思う。

(VHSにしても、10月現在で高値)

そのような事情から作風をまったく知らなかったため映画が始まるとまず困惑した。場面と場面が切れるように進行する筋のなさ、出演者の演技が素人であること。しかし、その筋のなさと不自然さは三か国語で語られる台詞と画面に絶えず流れる様々な音楽によって徐々に自然なものとなっていく。

この映画は筋ではなく音の連なりによって、過去と現在、虚構と現実が繋がっていくのだ。

タイトルにもある「倍音」とは映画で登場する台詞によると、ドという一音のなかにはドという基音だけではなくそれ以外のミとかソの音が混ざっているということだ。つまり通常の耳では聞こえないが、背後に存在する音という意味である(魅力的な声の人はこの倍音を保持していると言われる)

この、あるのに聞こえない(見えない)というのは、この映画の重要なテーマだ。物事の背後にあるものへの意識、それはこの映画では様々なズレや反復、違和感によって表現される。

例えば主人公ミンヨンの不自然な演技は日本語で語られたときに際立つが韓国語に移し替えるとある種の心地よい優しさとなり、英語にすると少し硬い感覚をもたらす。また、反復に関しては登場人物が虚構と現実、時代を飛び越えて同じ動作、行動を繰り返すこと等があげられるが、そもそもこの物語の発端は妹ユンヨンが日本に旅立ったところから始まり、姉のミンヨンはそれを追いかけるという構成である。

11時で止まった時計を担ぐ神父、スクランブル交差点を通過するパネル、無音のまま渋谷の雑踏で叫ぶストリートチルドレンなど、われわれがよく知る場所に虚構の装置を置くことによって物事の別の側面が現れ(破れ)風景や道具の背後にある歴史性を浮かび上がる。その描き方、特に時計のモチーフや浜辺で天丼を食べるシーンには寺山修司の影響を強く感じた。

物事の背後には何か別のものが存在することを絶えず示唆する意味、私はそれが今ある私たちの現実の背後を見させようとする監督の強い意志に見えた。つまり美しい風景のなかにも何か裏で別の感情が渦巻いているということである。だからこそ冒頭に主人公のミンヨンが言う綺麗な空が怖く、風景のなかに原爆の光景を思い浮かべるという発言は重要な意味を持つ。

今ある歴史の地層性、それを虚構と現実の不意の結びつきによって描く語り方は最近では大林宣彦監督の『この空の花』や『野のなななのか』が思い出される。しかし佐々木監督は、個々の事象に関しては筋として繋げず配置するだけである。説明しないことにより映画へ鳴り響く音の豊かさを楽しませ(事実ミンヨンの歌声は素晴らしい)、意味に関しては受け取る観客に任せているようなところがある。

だからこそ、不満もある。

それは中盤にかけての過去話で筋を構築する意識があるのならば、戦時中は風鈴を作っていたのが韓国人であること、そしてハーモニカの使用は禁止されていたこと。原爆の音についての議論は存在しないという発言、そうしたモチーフや出版社、花屋、ピアノ教室などの風景をもう少し丁寧に掘り下げ繋げても良かったのではないかということだ。

おそらくこの監督はそういう演出は退けようとするだろう。あくまでも主役は音であり、母なる川であるミンヨンの中を様々な時代の音がすり抜けるという詩的な映像へのこだわりゆえに。しかし虚構であれ現実であれ、時代を超えて何度も人物たちが出会い、宿命のように同じ動作を繰り返す映画的な連続性に前世的な因縁を感じ、心が動かされた私としては筋への意識を全体に向けて欲しかった。戦後必ず役に立つからと学んだ英語が「謀略放送」としてアメリカの兵隊に向けて使用されることのやるせなさを、ただ「いやです」と書くだけでそれ以降は掘り下げない。そうした全体のぶつ切れ感のため、この映画は個々の事象や登場人物がいくらなんでもあまりに浮いてしまっている。

詩的映像、伝説的な映像作家と「」(かっこ)で括り過去作との思い出を語っても、それはこの映画に対して向き合ったことにはならない。この作品のテーマは非常に重要であり、だからこそ各々が誠実に考えたこと、何が詩的なのか、何が伝えたかったのかを喋る労力を放棄してはならないように思う。


?(公式サイト) http://www.sasaki-shoichiro.com/

(C) 2014 SIGLO / SASAKI FILMS 製作年:2014年製作国:日本日本公開

2014年10月11日~ (岩波ホールにて公開)

上映時間:2時間20分 製作:SASAKI FILMS 配給・製作:シグロ カラー


 

 

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 - 映画評

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