空から台湾を見てみよう、映画『天空からの招待状』評(ネタバレあり)
2015/12/02
台湾に旅行で何度も行く人は台北から台南の方にまで徐々に範囲を広げていきこの国の奥深さを実感していくそうだ。最近見た『南風』という映画のパンフレットにも現地の学生が卒業旅行では自転車を使って島を一周し、自らが過ごす土地について考えを巡らすのが恒例となっていると書かれていた。
そうした台湾という国が持つ奥行きを空から見ていこうと試みたのがドキュメンタリー映画『天空からの招待状』である。
予告編を少し見てもらえばわかるとおり、まるで飛行機の着陸時に窓から外を見るかのような目線で台湾の秘境や観光スポット、美しい田園風景が画面を流れていく。田んぼの稲がさやさやと風に揺れ、光の反射によってそれらがまるで魂をもったかのように色合いを変えていく景色、その美しさにただひたすらボーっと眺め心を奪われた。最高の感覚だった。
しかし陶酔を感じさせる風景がずっと続くのかと思っていると突如音楽が不穏なものとなる。それとともにナレーションが饒舌になり、画面に映し出され始めるのは工場の煙、山を切り崩す農家、池を吸い上げるポンプの束といった人間が環境を破壊していく描写の数々だ。
そう。この映画はNHK-BSの風景番組のような予告編と違ってこの人間による環境破壊がメインテーマなのだ。
心地よい陶酔を求めてきたのに・・・と思いもよらないところで騙され怒られるのは別にいい、ドキュメンタリー映画は強い怒りや不満を持って現状を告発しポヤーンと映画館に来た人々に強いショックを与えるものも多いからだ。
問題はこの映画の評価の高さはこうしたテーマ性や映像によるものと知りつつも、そして性格が悪いと怒られることを覚悟で言うと私はそのテーマが本当に退屈だった。ナレーションと音楽が信じられないほど説教臭い。
これは自然保護系のドキュメンタリー全般に言えるが、語りたいことや映画のゴールを先に設定しているため見ている方には驚きがまったく存在しない作品が多数ある。「美しい自然があります、人間の手によって切り開かれ醜悪になっています、未来のためにこのままでいいのでしょうか?」という高校小論文初級のようなお決まりのパターン。この映画もありきたりのことしか言わない説教と同じ構成を取り、人間ごめんなさいと思って欠伸が出た。
こういう映画を見ているとよく思う。自然を切り崩し作り上げた人工物の醜悪さに心を奪われる人はどうすればいいのだろうかと。
ナレーションによって批判の対象となるのは美しい山を切り崩し場違いなヨーロッパ風のお城を建設することや、観光客のために建設されるダサい旅館、魚の養殖場のために大量の水を吸い上げる管などの風景である.
倫理的に正しい「美」に対して、正しくない「醜悪」なそれらの風景は善悪を取っ払えばある種の整然としたパターンによって美を感じさせ、人が作り出し並べた人工物も空から見れば幾何学的で面白く、風景にそぐわない建築物もその俗悪さに何らかの魅力があると言えるのではないか。それをこの映画はしっかり映しだす(映し出してしまっている)
だが、良くない風景はあくまで人間の愚かさを象徴する良くないものとして断定される。
例えばただ一本の道路が途切れれば生命の危機をもたらす山の奥地にある村、その道をナレーションはこう形容する「生命線のように繋がっている管」と・・・病院のベッドで呼吸している患者のようにも見える風景、色々な思いが湧きあがってくるがそうした見る側の感情は関係なし。続く山の上に立つ駅の情景を捉えたあとに「しかし彼ら観光客は知らないのです。この崖の裏には山崩れの跡があり、いかに危険なのかを」とナレーションに語らせる、神様の視点で人間のダメさを語っている意図した作りなのかもしれないが、解釈を狭めてしまう空(上)から目線はどうにも慣れない!
それでいてこの映画の最後は絶景に立つ人間を捉え良さげな音楽で覆い、合理的なものに反対する有機農業の取り組みを紹介し、観光スポットに立つ子供たちの笑顔に人間の素晴らしさを歌う。うーむ、山の上に立った人工物である灯台も前半部では絶景として紹介していたし、何が良い風景で悪い風景なのかその都度作り手の感覚がぶれて混乱していてこちらが混乱する。
もちろんテーマは退屈だと言ったが、だからといって考えなくて良いわけではない。カサブタのように切り開かれた山の状況によって豪雨の被害が深刻になっているのは台湾だけではなく日本の夏の状況もそうだ、他人事ではない。開拓の努力によって山を切り開いていった人間の素晴らしさという人間目線の解釈は、後世の目から見ると余計価値を破壊している行為だという異なる解釈をぶつけ続けていかねばならない。
しかしドキュメンタリーなのだからそれは語り口や映像で切磋琢磨してほしい。これを美しい、これは美しくないと二項対立で自然を捉え、それを「言葉」で説明していき人間のいつも通りの愚かさを提示しても新しい認識は生まれずにこう思うだけだ、「知ってるよ」と。
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↑野嶋剛『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』のなかにも監督チー・ポーリンのインタビューが掲載されており、本作の引き起こした反響が語られている。現代台湾の文化を近年日本でも話題の映画作品から読み解いていく非常に有意義な本だった。
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