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20年という時代の変遷を見るNHKスペシャル『新・映像の世紀』感想

      2015/11/26

20年前NHKで「映像の世紀」というドキュメンタリー作品が放送された。

世界30ヶ国以上約200ヶ所のアーカイブから60000時間に及ぶ映像を選び出し(鉄人社『観ずに死ねるか ! 傑作ドキュメンタリー88』清水節の論評より)人類の愚行や戦争の惨禍を壮大なスケールで伝えるこの番組は、山根基世アナウンサーの淡々とした語り口や加古隆の印象的なテーマソング「パリは燃えているか」も相まって大きな反響を呼んだ。

前述の清水節の論評に引用されていた「NHKは何を伝えてきたか/NHKアーカイブスカタログ」によると、番組制作に関してスタッフは3つの決め事をしていたという。

  1. 世界史に残る有名な出来事でも映像で描けないものは落とす。
  2. 新たな証言者へのインタビューは行わない。すべて資料映像に語らせる。
  3. 完成した『作品』ではなく、できる限り映像の一次資料に語らせる。

そして2015年、多くの国々で映像アーカイブスの整備と情報公開が進み、未公開映像が続々と発掘されていることを受けて番組は「新・映像の世紀」として復活を遂げる。ナレーションに俳優の山田孝之を起用し、歴史を動かした主役、脇役たちの人間ドラマに焦点を当てていく構成だという。

この記事は、番組のなかで印象に残った内容とその感想をまとめたものだ。(放送終了後、適宜更新していく予定である)


第1集「第一次世界大戦 百年の悲劇はここから始まった」(2015年10月25日放送)

(印象に残った内容とキーワードまとめ)

映画「ソンムの戦い」

小型のムービーカメラは巨大な地雷が爆発する場面を撮影した。第一次世界大戦中2000万人が見た。映画館に詰め寄せた観客の多くが映画に夫や息子の姿を探した。戦争。撮影したのはジェフリー・マーリンズ。

「なんという恐ろしい記録だろう。戦争が終わっても私が小さなカメラに収めた映像は生き残り、兵士が果てしなく殺し合う戦場の凄まじい破壊がこれから何度も映像で再現されることになる」

ジェフリー・マーリンズ『回想録』より

ピカソのパリ訪問。ココ・シャネルの映像に見る第一次世界大戦前のヨーロッパの平和。

「大戦前の世界を一言で言うなら、安定した黄金時代だった。

科学技術の奇跡によって人類は平和のうちにどこまでも進歩していく。誰もがそう信じていた」

ツヴァイク『昨日の世界』より

しかし、1913年H・G・ウェルズ『解放された世界』における飛行機や戦争の登場の予期。原子に莫大な力が秘められていることを突き止めていた。

 

サラエヴォの銃弾。

そして第一次世界大戦の勃発。

イギリス・フランス・ロシアVSドイツ・オーストリア・オスマン帝国という対立軸。

第一次世界大戦の状況。梅毒の蔓延。戦争を煽り立てた新聞の紹介。フィッツジェラルド『夜はやさし』より塹壕戦についての引用。

 

オットー・ディクスの絵画

Otto Dix: Der Krieg
Otto Dix: Der Krieg

 

フリッツ・ハーバーの窒素肥料の開発。戦時中のハーバー博士の毒ガス開発、そこにはドイツという祖国を救うため、戦争を早く終わらせるためという信念があった。しかしそれが原因で妻クララ・ハーバーは自殺する。

↓ハーバーについてはこの本が詳しい。

 

毒ガスだけではなく飛行機での戦いも激化する。撃墜王リヒトホーフェン(通称レッドバロン)の映像。第一世界大戦は「総力戦」であり、女性の工場労働という銃後の映像が流れる。

 

加速するイギリスの謀略→「アラビアのロレンス」という一人の「英雄」を誕生させる。

ドイツの同盟国であるオスマン帝国領内のアラブ人の独立運動を進めるために、イギリスはロレンスを通じアラブ人のファイサルに武器と資金を供給し、オスマン帝国打倒を呼びかける。「イギリスは約束を守る」とロレンスは言ったがイギリスの狙いは油田だった。

アメリカの映画プロデューサー「ローウェル・トーマス」によるロレンスの撮影。彼の名が世界に広がるきっかけとなったプロパガンダ映画「アラビアのロレンスと共に」を作る。

イギリスとアラブとの約束。しかし、イギリスはフランスと戦後オスマン帝国の領土を分け与えるという密約を交わしており、さらにユダヤ人にも国を作る約束をしていた(注:いわゆるイギリスの三枚舌外交

 

またイギリスの策略はアメリカにも波及した。中立国アメリカを参戦させるためウォール街の金融機関を味方につけようとするイギリスの目論見は、イギリスの軍需物資の8割を調達しアメリカの軍事工場でそれを生産させていた「J・P・モルガン」の「イギリスが負ければ大損害になって困る」という利害と一致し、ウィルソン大統領を抑え込みアメリカ参戦を決定づける。

 

その一方でドイツも謀略を仕掛けていた。スイスに逃亡していたレーニンをロシアに送ることで革命を画策し東部戦線を打開させるというもの。食糧が底を突くなかで兵士の不満が高まり「10月革命」は起きる。ドイツの外交官がドイツ皇帝へ宛てた報告「我々の資金がなければ印刷機さえ持たなかった貧しいボリシェヴィキが大規模なプロパガンダを駆使して支持を拡大することなど絶対にありえなかったでしょう」、この革命によってドイツは兵力を西部戦線に集中させることが可能に。

その後のロシアの内戦「反革命軍VSボリシェヴィキ」、そして反革命軍がボリシェヴィキ以上の敵とみなしたのはユダヤ人だった。ロシアのユダヤ人虐殺「ポグロム」の映像。

 

西部戦線はアメリカの快進撃が続く。オスマン帝国も降伏しアラブ反乱軍を指揮したファイサルはダマスカスに入城する、しかしイギリスのアレンビー将軍はファイサルにアラブの独立は約束できないと告げる。戦後フランスにおけるアラブの容赦ない空爆。そしてイギリスはパレスチナの地には多くのアラブ人がいたにも関わらず、戦時中ロスチャイルドなどのユダヤ資本家を味方につけるためパレスチナにユダヤ人の国をつくることを約束してしまった。多くの東欧系ユダヤ人がポグロムを逃れ、この地にやってくる→のちのイスラエルの建国へとつながっていく。

 

第一次世界大戦の和平条件を話し合うパリ講和会議。ウィルソンの理想は英仏の反対によって破れ、ウォール街の有力者モルガン商会主導でイギリスに貸し付けた賠償金の回収を重視する方向でまとめる。ドイツに課せられた賠償金は1320億金マルク(ドイツの国家予算20年分にあたる)その結果にイギリス代表の経済学者ケインズは抗議し辞任、ウィルソン大統領を批判する。

「大統領は合衆国の財力にものをいわせて、素晴らしい成果を生み出すことも出来たはずだ。しかし大統領は動かない。取り巻きはウォール街の実業家ばかり、彼らはヨーロッパについては何も知らず、公の問題を議論する経験もない。」

ケインズ「平和の経済的帰結」より

講和会議の内容にドイツ人は激昂した。ミュンヘンでこれに反対する政治団体が生まれ、そのなかに「アドルフ・ヒトラー」がいた。

レーニンは強制収容所を創設し、秘密警察チェカによって弾圧をしていた→世界初の共産主義革命の内実。

ロレンス『知恵の七柱』に書かれた自己嫌悪、そして、ヨーロッパの廃墟を眺める皇太子裕仁親王(のちの昭和天皇)の述懐。ウェルズの楽観論。第一次世界大戦は今の時代につながる紛争の萌芽であった。

(感想)

「新・映像の世紀」は前回の「映像の世紀」に比べてテンポが速いため映像に沈黙が少ない。

そのため、このドキュメンタリーの優れた特徴であるゆったりとした映像による「語り」が失われていたように思う。映像によって歴史の皮肉や悲惨さを視聴者に提示するのではなく、ナレーションによる今の世界を意識した歴史語りは解釈を狭めてしまっていた。テーマを現状に寄せている分、例えばハーバーの毒ガスを例にするならば、それを枯葉剤やイランイラク戦争まで広げているため散漫な構成という印象を受けた。

 

それは前作の第一集&第二集と比べてみればよくわかるだろう。前作はドキュメンタリーの初めに、ブルジョワたちによる気球遊泳という20世紀的な要素と、決闘している紳士の姿という19世紀的の名残りがわかる映像を置いていた。

そのあとにヨーロッパのグレートマザーともいうべきビクトリア女王の死を続けることで、何かが失われつつある予感を視聴者は抱き、当時ロンドンに在学していた夏目漱石もその予感を抱いていたことがわかる手記を紹介する。そして勃発する第一次世界大戦の状況を淡々としたナレーションと実際の映像を長く見せ、この世紀は前の世紀とは決定的に違うのだと否応なく納得する。最後に「戦死者900万人、負傷者2000万人」という事実が告げられ「パリは燃えているか」が流れ始める。

 

今作はそのような「時代精神」を提示するドキュメンタリーではない。だが、今回は間違いなく前回よりも「情報量」は多い。今につながるウォール街の問題、イスラエル建国の源流ともなったユダヤ人の流入を東欧の「ポグロム」に見るなど1995年の「映像の世紀」には出てこなかった観点といえる、ドイツ帝国による支援を受けたレーニンが恐怖政治を行っていた映像などもそうだろう。

そういう意味で「新・映像の世紀」は二回三回と見ることによって、より深く内容を味わえるドキュメンタリーとなりそうだ。

 

第2集「グレートファミリー 超大国アメリカの出現 」(2015年11月29日放送予定)

 

(更新予定)

 

第3集「第二次世界大戦 時代は独裁者を求めた 」(2015年12月20日放送予定)

 

(更新予定)

 

(今後の放送予定)

・第4集「冷戦 世界は嘘と秘密に覆われた 」(2016年1月24日放送予定)

・第5集「若者たちの反乱 NOの嵐が吹き荒れる 」(2016年2月21日放送予定)

・第6集「21世紀の潮流 あなたのワンカットが世界を変える 」(2016年3月20日放送予定)

 

↓過去の放送作品をデジタル・リマスター化したもの。再放送で見て第一次世界大戦のシェル・ショックやヒトラーの演説シーンなどが鮮明な映像になってて度肝を抜かれました。

 

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