トレーダー分岐点

新刊本や新作映画、アニメの感想などを書き続けるサイト|トレーダー分岐点

*

血とおっぱいに祝福を『トラウマ日曜洋画劇場』(皿井垂・彩図社)書評

      2015/11/27

かつてテレビで毎日のように映画を流していた時代があった。

・・・と、ちょっと前にこんな感じで始まる「テレビと映画」についての記事を書こうとしたことがあった。しかし、そういや俺「木曜洋画劇場」しかちゃんとした知識の元がない・・・という絶望的知識の浅さに途中で書くのをやめたのだった。

昨日、彩図社から刊行されている『トラウマ日曜洋画劇場』(皿井垂)を読み終わり、実際どんな悪魔的な映画が流されていたのか、その実情の一端に改めて触れることが出来た。

 

  • 「日曜洋画劇場」での『地獄に堕ちた勇者ども』(監督:ルキノ・ヴィスコンティ)
  • 「月曜ロードショー」での『ときめきに死す』(監督:森田芳光)
  • 「水曜ロードショー」での『カサンドラ・クロス』(監督:ブライアン・デ・パルマ)
  • 「ゴールデン洋画劇場」での『青い体験』(監督:サルヴァトーレ・サンペリ)
  • 「木曜洋画劇場」での『絞殺魔』(監督:リチャード・フライシャー)

まずその時代に生きていない自分としては、今では信じられない類の質の高い映画が地上波で放送されていたことに読んでいて衝撃を受ける。どれも幼少期・思春期に見たら確実に「ダメージ」を喰らうのは間違いない、本のタイトルに「トラウマ」と付けられる理由もわかるというもの。ここに羅列されている作品は「印」のようにある年代以上の映画ファンの心に刻みつけられているということだ

羨ましすぎて仕方ない感情と共に、しかし拙いながらも自分で記事を作る身としてはこの本の体裁や書き方は練度が弱く感じられた。

当時を知る人にとっては、あらすじの羅列でもその人自身の記憶が呼び起こされるから良い。けれどそれ以外の人にはやはり筋の書き方が冗長。脚注にしても「地獄の黙示録」の作品概要について書かれていたりはするのに、チッチョリーナ(イタリアのポルノ女優で政治家)などの時代を反映した固有名詞については省かれており基準がわかりづらい。つまり、どういう読者へ届けたいのかがはっきりしない。

「テレビにおける映画」を書くならば、映画の筋を述べるだけではなく吹替や削除箇所、解説者や同時間帯の番組、作品リストなど様々な方向性があると思うので、そういう側面や「テレビ」というメディアについての考察、その世代を知らない自分が学べるような文脈を補強してくれる深い解説が欲しかった。

個人的には『青い体験』における著者の一秒でもおっぱいが映っていたら正義と捉える主観に満ちた文章が好きだ。個人的なエピソードでありつつ、テレビに付随する「家庭」という場から生じる親の目を逃れ「おっぱい」とどのように謁見すべきかという認識は、木曜洋画劇場で放送された『キリング・ミー・ソフトリー』のソフトSM場面をいかに権力の目をかいくぐり見ることに成功したかという自分の苦闘と重なり、世代を超えて著者と握手できた。

今はそういう時代ではない。思えば遠くきたもので、「アベンジャーズ」は吹替とCMでずたずたにされる現状、赤い血もおっぱいも満足に見ることが出来ないなめられた世界である。もちろん、そういう世界でもメディアの内部にいて映画解説を続けるライムスター宇多丸、高橋ヨシキや町山智浩といった存在がいる。その同時代性に感謝しつつ、ノスタルジーだとわかっていても本書は羨ましさと寂しさを喚起させる。

かつてテレビで毎日のように映画を流していた時代があった。

 

↓テレビで流してた映画について知りたいならこの本もおすすめ。

 

【関連記事】

 - テレビ, 映画本, 書評

スポンサーリンク
スポンサーリンク

  関連記事

~悪問に負けず頭を動かそう~『ポール・スローンのウミガメのスープ』(エクスナレッジ)書評

また2ちゃんねるのオカルト板に入り浸ってしまっていてこんな時間。 東京郊外で心が …

豪華ゲスト出演のNHK番組「岩井俊二のMOVIEラボ」が映像豊富で面白かった。

2015年1月8日(木)からNHKで「岩井俊二のMOVIEラボ」という番組が始ま …

雑誌『POPEYE6月号』「僕の好きな映画」特集は時に面白く、たまにむかつく

男「ETってやっぱ面白いよね」 女「わかる。あたしなんてあのテーマ聞いただけでう …

「世界ダンディ研究所THE MOVIE」&「バラいろTHE MOVIE」(全123回テーマまとめ)

映画について人に何かを勧めたり、系統だてて話すとき『ニッポンダンディ』&『バラい …

人類を存続させる思いやり『中原昌也の人生相談 悩んでるうちが花なのよ党宣言』(中原昌也、リトル・モア)感想

「中原昌也」の「人生相談」、タイトルの段階でこの本は面白いに決まっているが、最初 …

生きて語り伝える、春日太一の書籍と最新作『役者は一日にしてならず』(小学館)について

点と点が線になる快感 ドラマも邦画もあまり見てこなかったせいで俳優の名前と顔を一 …

~哲学者の苛烈な批判~、ショーペンハウエル『読書について』(コンクール用の下書き)

 毎年、光文社では課題本を設け「古典新訳文庫エッセイコンクール」と称し幅広く文章 …

はに丸の鬼畜ジャーナリズム「はに丸ジャーナル」(NHK)が熱い

黄金週間なのに黄金がないので、ゴロゴロと居間で寝転んでいたら・・・ はに丸「討論 …

映画+散歩+珈琲=『東京映画館 映画とコーヒーのある一日』(キネマ旬報社)感想

映画館のあとは大体が某チェーン店で牛丼を食べ、映画と映画の空いた時間にはドトール …

酒とバラの日々!雑誌『映画横丁』新創刊!

去年このサイトを始めた時に、あまりにも何を書いてよいのかわからず、ちょうど下北沢 …