ただ青き終わりに向かって、映画「ブルーリベンジ」(ネタバレあり)
2015/12/01
「復讐は意味がない」という当たり前のことを見終わって久しぶりに考えた。この映画のストーリーになにか目新しい点がある訳じゃない、物語だけを見ればひとりの男が殺された両親の復讐のため釈放された犯人を殺しに行く、そういう単純なものだ。しかし脳裏には主人公が戸惑いながら殺人を続ける映画の場面がこべりついている。
登場人物の背景は観客に細かくは知らされない。両親が殺害されたあと主人公であるドワイトはホームレスとなり各地を転々としていたらしいが、この因果関係は不明である。ある日顔見知りの警察官から両親を殺した犯人が司法取引によって刑期満了前に釈放されることを知らされ、ドワイトは彼らへ復讐するためにオンボロの青いセダンで彼らのもとへ向かう・・・。
見終わっても果たして主人公に明確な復讐の心があったのか、よくわからない、何故ならば終始ドワイトの表情は戸惑いに満ちている。復讐映画という器にただそういう役割を与えられただけの人物が配置されたような、どうやってもこの世界にハマらず本人も困惑しているように見える。
そんな男が復讐劇という形式を始めるのだ。不毛である、何より不毛なのはそもそもの物語の出発点である両親の事件がもともとは親同士の浮気が原因で、両親を殺したのは相手の父親であって息子はその罪をかばうために刑務所へ入ったことがわかる。そしてその父親も既に死んでいることが物語の終わりに明らかになる。
そもそもボタンを掛け違えているのだ。だから復讐劇は無様に失敗し続ける、拳銃を買おうと思ったら金がない。相手の車のタイヤにナイフを指したら自分が負傷し、車の鍵は殺した人物の処に忘れたために自分がパンクさせたその車で逃走をする羽目になる。この一連の動きの情けなさは目を見張る素晴らしさだ。刺されたボウガンを抜こうと思って苦闘し意識を失い病院に搬送されるあたりも最高である。
歯車が合わない感覚のなか、相手も面子のため警察を呼ばずに自分たちでケリをつけようとする。抗争は続き、最終的に自分が死ねば「自分の姉に危害が及ばない」ことを確認する主人公、相手が自分に銃を突きつける、ようやくこの復讐の動きは止まる・・・止まらない。主人公のピンチに昔なじみの太った友人が助けに来てくれる。
こう考えると色々なところで批判されている主人公が殺す前にべらべらと長い前置きをする理由がわかる。たぶん、自分の動きを止めてほしいのだ。なのにまわりが、映画がそれを許してくれない。
お気づきの通り、この映画は動きだけを取り出すと本当に笑ってしまう。見ながら「誰かw止めてくれw!」と何度思ったことか。
だから「復讐は意味がない」と始まったこの文章は別に殊勝な感情で書いてない。
復讐は意味がない。
「本当だよ!」と笑いながら書きだした。
相手を殺すことで憎しみの感情が消化されその果てに虚しさを感じるのならともかく、始まりにそもそも意味がなく、しかも一度始まってしまった物語にはただ連鎖する反応だけがある。
この映画の目的はどこにも存在しないのだ。そういう虚無感がある閾値を超えると笑ってしまうというのは初めての感情で驚いた。そういう意味で飲みこみづらい映画ではある。バシバシ愉快な感情で人を殺したりするでもなく、ひねった脚本でも有名な俳優が出てるわけでもない。しかし主人公がボタンを掛け違えていくその動きが実にこの映画は楽しい。
映画ドットコムによると本作の監督ジェレミー・ソルニエの次回作は「GREEN ROOM(原題)」という「パンクロックのコンサート会場を舞台にした、とても強烈で暴力的なスリラー」とのこと。非常に期待。
ポニーキャニオン (2015-08-19)
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