復活キアヌの一人殺戮行映画『ジョン・ウィック』感想
2015/11/26
殺し屋ジョン・ウィックというキャラクターはキアヌ・リーブス以外にありえないと思うほどハマり役だった。
それはたぶん無精ひげで一人飯を食らう姿がネタとなるキアヌ・リーブスの持つ孤独な雰囲気と、旬を過ぎてもなお格好良く暴れまわる映画の役柄がマッチしているからだ。役者の年齢がもう少し高いと、引退したジジイによる若い者に負けんぞという別の物語になってしまうので、まさに絶妙のタイミングで作られた映画といえる。
『マトリックス』や『コンスタンティン』以来の当たり役という意味で「復活」と称されたのも納得である。
あらすじ
亡くなった奥さんからプレゼントされたビーグル犬をギャングの馬鹿息子に殺されたことで、伝説と称された殺し屋ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)が裏社会に復帰し、関係者をひたすら殺しまくる。
以上。
感想(ネタバレ少し)
余計な説明をせず、ただ殺していくジョン・ウィックの所作は実にスタイリッシュ。三行ほどで完結してしまう簡単な筋にもかかわらず、103分間まったく集中力が途切れなかった。
夫の感じるであろう孤独を慰めるため亡くなる間際に奥さんがプレゼントした仔犬。デイジーと名付けられたそのビーグル犬の可愛さは半端ない、大きなベッドで寝転び疲れた表情のジョンをつぶらな瞳で待つ。朝はキアヌの頬をペロペロとなめて起こす。餌を買うこと、散歩に行くこと、そうした何でもない事の継続が彼を日常に繋ぎ止める・・・はずだった。
あるとき街で因縁をつけられたギャングたちによって無残にもそれは断ち切られる。
犬は殺され、車も奪われた。
ただそれだけであるが、それだけで復讐の理由には十分。
かくして引退した伝説の殺し屋は裏社会へと戻ってくる。
ジョン・ウィックがどれだけヤバいのか、彼の始動するまでの演出が上手い。殺された仔犬の血痕を掃除しているときに響くドクンドクンという心臓の鼓動、ギャングたちの盗んだ車を見てボスの息子にもかかわらず殴りつける整備工場のオーナー、そのあと彼は電話で言う「息子さんはジョン・ウィックの車を盗みました」、ギャングのボスであるヴィゴはただ一言「oh」とだけ返す。重要な商談が決まった周りの明るさとは対照的に電話を置いた彼の表情は重い。そして帰ってきた息子をぶん殴る。やってしまったな・・・と。
伝説の殺し屋の殺し方は美しく凄惨だ。この映画の発明である新銃術「ガン・フー」によって容赦なく相手を絶命に至らせる。柱を挟んでの戦闘では横から少しだけ出ていた敵の足を撃ち、よろめいたところで頭を撃つ。相手がナイフで切りかかってきたときには、ナイフを握らせたまま全体重でのしかかって首を突き刺す。アクションシーンで当たり前のジリジリとしたタメがなく、まるでゲームのように殺しのテンションを維持し続ける。
鈴木清順のギャング映画を彷彿とさせる殺し屋社会の妙な掟もハッタリが効いていて面白い。
家に大量の死体があってもサッと帰っていく警察官、それを迅速に処理する掃除業者、仕事をする殺し屋たちが泊まる高級ホテル、裏社会のシステムはどうやら独自の金貨を用いて周っているようだが、チャド・スタエルスキ監督はそのルールを深くは掘り下げない。代わりにシステムの背後で仕事をする人たちは素晴らしく魅力的に描いている。
おそらくここには監督がスタントマン出身であることも関係しているのだろう。言葉で多くを語らない『ジョン・ウィック』のプロフェッショナルな作風に自分は完全に痺れた。
感想(ネタバレあり)
復讐とは様々な血沸き肉躍る物語のあとに訪れる後始末のようなものだ。
だからこの映画において復讐はむなしいなどどいった当然のことは省く。それだけではない。この映画では亡くなった奥さんのこともまったく説明しない。在りし日の妻が浜辺で語りかける動画のみ、しかしジョン・ウィックの表情からここまで凄惨な仕事をする殺し屋を現世に戻した彼女の情愛が伝わってくる。痺れるほど禁欲的な作りは見事。
目的を遂げるまで止まらないジョン・ウィックの姿は相手にとっては悪夢以外の何物でもない。だから彼らは殺し屋を「ブギーマン」と言う。ブギーマンは外国で信じられている幽霊みたいなもので悪い子をすると罰を与えにくる実体のない存在だ。その特性が一番わかるのは、クラブで遊ぶ馬鹿息子を警護するギャングたちが音もなく血の痕跡のみを残し一人また一人と殺されていくところだろう。
そう考えると陽の光の届かない裏社会はあの世のように思えてくる。ここで長く生き続けた彼らには死が身近な呪いのようなものとなって刻印されている。妻が死に、形見の犬も死んでジョン・ウィックが再びこの世界に戻ったことは、現世への鎖がなくなったということも意味している。おそらく彼は死ぬことをためらっていない。しかし、友人のマーカス(ウィレム・デフォー)や関係者全員が死んでも彼は生き残ってしまった。
瀕死の彼を救い出したのは携帯から流れてきた妻の声である。その声に導かれるように彼は蘇り、偶然入ったシェルターから犬を救いだして夜道をともに歩き出す。始まりと終わりが結びつき、呪いを身にまといつつも彼は現世を生きるであろうことを予感させる素晴らしいラストシーンだ。
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