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【書評】人生の圧倒的な肯定感に満ちた本『徹子と淀川おじさん人生おもしろ談義』

      2015/12/01

とにかく元気に二人は話す。

「徹子の部屋」に出演した淀川長治と番組パーソナリティーの黒柳徹子との対談をまとめた本書を読んでいると、元気で楽しそうな二人の様子がありありと思い浮かんでくる。

淀川長治は生前13回この番組に出演し、母のこと、自らの家のこと、尊敬すべきチャップリンのこと、そして映画のことを語った。読んで驚かされるのは柔和な語り口から発せられる表現の豊かさだ。

淀川長治「きれいなきれいな映画の中の女優さん、あるいは物語、冒険、頑張って生きていくという意思、危機一髪を助かる力、そういうのを見ますとね、勇気とか美の感覚とか、そういうのを持つんですね。だから八つでも七つでも、何か感受するんですから、その白い白い吸い取り紙に、いいものは早く染み込ませてあげても大丈夫ですね」

(本書より引用)

淀川長治にとって映画を見ること=人格陶冶であった。

しかし、これはなかなか難しい。本を読めと声高に言う人がトンチンカンであることが多いように、映画を見ろと言う人が一般的な意味において魅力的であることは、見すぎておかしくなってしまった人をたくさん知っているからこそ声を大にして言いづらく、「だから別に言わなくてもいいや」となってしまいがち。

淀川さんという人は映画をたくさん知っている人よりも、さらに膨大な数を見ていながら、まったくスレることなく率直に映画は素晴らしいものだと言う。

そしてそれが心地よいのは、活力ある語り口から発せられる品の良さ、発言の確かさが尊敬の念を呼び起こさせるからである。この本でも品の話に言及している、「見た?」ではなく、「ご覧になった?」と自然に口から出てくる黒柳徹子を褒め、人間に関してのそういう心配りが出来るあなたは素晴らしいと絶賛。

淀川長治「この灰皿きれいですね言ったら「うん」よりも「ほんとにこのカットきれいですね」言うほうが得するし幸せですね。「この花きれいですね」だけよりも「ほんとにきれい、秋になりましたね」とか、そういう表現が出来て言葉が勝手に出たら、やっぱり人生楽しいと思いますねえ。」

というわけで逆にそういう気配りが出来ない人には非常に厳しいことで有名だ。

夏に温かいお茶を飲ませられて激昂したエピソードも、これだけを取り上げれば単純にわがままで気難しい人となってしまう。けれど夏の暑い日に熱いお茶が出てくると思いますかと、客はあなたを信頼しているんだと彼が言うとき、そこには叱ることへのキチンとした軸がある。映画監督になりたいと遠くから家出をして突然会いに来た少年にそんな甘いものじゃないと突然来たことを叱り、お金を渡さずに帰したことも同様。

芯のある発言だからこそ言われた方は背筋がピンと伸びる思いでしっかりと言葉を受け止める。後日少年からお礼の手紙が届いたのも単純な美談ではなく納得できる論理なのだ。

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さすが映画の淀川長治と感動するのは彼の「記憶力」だろう、黒柳徹子が一番最初に見た映画は『オーケストラの少女』だと言うと、

ディアナ・ダービンですね、昭和13年ごろ、失職したお父さんのためにオーケストラの人たちを集めるんですね、あなたのお父さんが勧めた理由わかるなあ、とスラスラと情景が浮かび出るような語り口で黒柳徹子を驚かせる。

ストーリーの細かいところは忘れたけれど、女の子が椅子のあいだをスーッと移動して頭だけピョコンと出ている場面が印象的でと黒柳徹子が言うと、いいところに目をつけますね、と言ってまたスラスラスラである。

映画館に閉じこもり、そこから出てきて人生というものを照らすこと。遅れた世代として最近「日曜洋画劇場」の解説動画を見ていて気づいたことは、そういう彼の燈台守のような役割である。

だからこそ、こないだ番組で淀川さんが亡くなってから新作をすっかり見なくなったと黒柳徹子が語っているのを聞いたとき、彼の活力は芸能、ビジネスすべてをふくめた映画界全体にとって元気の源だったんじゃないのかという思いを強くした。活力にあふれた語り口が魅力的な対談本ゆえに、その時代を知らない人でも彼が今いないという喪失の一端に触れることが出来る。

淀川長治「もし生きて十年経ったらどんな思い出になるか。あれは九月、秋に入りかけたころだ。徹子さんと向かい合ってしゃべってキャメラがこっちを向いてたな、そんな思い出になったらもっと深くなると思うの、この瞬間が。私は思い出を持つこと好きですね。」

 

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