雑誌『POPEYE6月号』「僕の好きな映画」特集は時に面白く、たまにむかつく
2015/11/27
男「ETってやっぱ面白いよね」
女「わかる。あたしなんてあのテーマ聞いただけでうるってきちゃうもん」
という雑誌冒頭のイラストがすべてをあらわしている『POPEYE』6月号は「ゴチャゴチャ言わずに、何が一番面白い映画か聞いてみました」という語りと共感が中心の映画特集。
「俳優」「デザイナー」「店主」「監督」「イラストレーター」「ミュージシャン」が「僕の好きな映画」をだいたい400字以内でズラーッと語っていて、全266作品とのことなのでかなりのボリュームである。
こういうカタログ形式の良い点は、「えっ、この人がこんな映画を!」という驚きにあって、この雑誌でも例えば蛭子能収が『砂の女』に出会った衝撃について語っていたり、二階堂ふみが『アダムス・ファミリー』を百回以上見た楽しさについて喋っていたりと面白い。
逆に悪い点は、有名な人だからといって彼ら・彼女らの映画語りが必ずしも面白いわけじゃないということ。雑誌の性格上、小難しいことは抜きで映画を語るわけだから映画の内容よりも自身の経験やコミュニケーションを軸に置いてしまうからなのかもしれない。
つまり、読みやすさや「わかる」という共感が重要なのであって、ゴチャゴチャ考えて文句を言う人は「面倒くさい」ということなのだろう。仕方ない!
と、普段ならボヤキはこれぐらいにして記事は終わるが、今回は最近特に自分のマネーが欠乏状態のためか心が荒廃していて怒りが解消されない。
いつもならば、ふざけたことを言っている人が目の前にいても「ははははははは」と笑ってやり過ごす。しかし余裕がないときに「別に知らなくてもいいんだけど、良く出る映画用語集」と題された下から目線が鼻につく特集を読むと駄目なのだ。
「ウェスる」の項目とかは本気で殺意が芽生えてくる。
「ウェスる」知ってますか?
「女子と部屋で映画鑑賞するときに、ウェス・アンダーソン作品を選ぶこと。オシャレでヒット作だから失敗がないが、ウェスりすぎると安パイばかり選ぶ奴と思われる」という記述が正解。
思わず、
「糞が」と新宿のベローチェでつぶやいてしまった。いかん、すまない。隣のお兄さん。
こういうファッショナブルな「消費」への欲望を隠さない文章に辟易としつつ「雑誌」という媒体は、読む人にとって必ず面白いものも用意してくれているのが偉大である。
新作映画『ザ・コクピット』の公開を控えた監督・三宅晶の『ゴダールの映画史』に嫉妬した話や、映画に関しての橋本愛のインタビューが何と言っても面白い。
シネマヴェーラ渋谷の待合室を背景に「以前、『ゴダールの映画史』を観てから、蓮實重彦さんの本を読んだりして、リュミエール兄弟から始まる映画史を体系的に学ぶようになって、」と語る姿はとても格好良いし「オーディトリウム渋谷が閉館すると聞いたとき、ショックで顎が外れそうになりました」という言葉には1映画ファンの真摯な思いが伝わってきて、怒りがようやく解消された。
橋本愛「他に見つからないんです。心の拠り所が」(本誌p81)
他にも高橋ヨシキの「スターウォーズ」おさらい、能町みね子の映画『立候補』についての文章、映画監督・大根仁の悪いシネフィルを仮想敵としたオススメ映画の紹介など、キラリと光る文章も見つけられたので文句を言っていた心が最終的には浄化された。これだけのボリュームで760円は非常にお得。
↓片桐はいりと上橋菜穂子が中学の同級生という衝撃の事実が明かされる。
過去の経験語りではなくて、これからの映画を考えるための文章を読みたい人へオススメのサイト
1、IndieTokyo(http://indietokyo.com/)
2、NOBODY(公式サイト:http://www.nobodymag.com/)
3、neoneo(公式サイト:http://webneo.org/)
4、boidマガジン(公式サイト:http://boid-mag.publishers.fm/)
↓特集を読んで観たくなった、イタリア×北斗の拳な映画『アダム・チャップリン』
KADOKAWA / 角川書店
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