トレーダー分岐点

新刊本や新作映画、アニメの感想などを書き続けるサイト|トレーダー分岐点

*

【書評】言葉以外を武器として『フィログラフィックス 哲学をデザインする』(ジェニス・カレーラス・フィルムアート社)

      2015/11/27

フィルムアート社から4月に出版されたジェニス・カレーラス著『フィログラフィックス』(Philographics)唯美主義・ドグマ・経験主義・ヒューマニズム・無神論といった思想・哲学の用語を95個集めて、それを1ページごとにシンプルなデザインへとまとめたグラフィック集である。

この本を読むと、ある種の概念はぐだぐだと言葉を羅列するよりも、図像によって直観的に把握させることができるのだと教えてくれる。

というわけで、この本については薦めたいけど困っているのである。

そのシャープな図像を、また自分の拙い言葉に戻した時に悲しくなる・・・。解説しようとしたとき自分が実は用語を詳しく知らないこともわかってなおさらである、たとえば「幸福主義Eudaimonism」と「快楽主義Hedonism」ってどう違うの?とか言われても言葉で説明するのは難しい。いくら言葉を費やしても、自分の中で反論が見つかってしまう。

『フィログラフィックス』は用語が意味する根本原理をつきつめて、それを三角や丸や色の図像を組み合わせて読者に提示する潔さが素晴らしい。シンプルな構成要素なのに誰が見てもわかる普遍性、この本はそこにたどり着くための果敢な挑戦でもある。

先ほどの例でいえば、幸福主義の図像は「黄色の背景に黄土色したお椀のような形」でちょうど『攻殻機動隊』に出てくる「笑い男」の口のように柔らかい感覚の笑顔を想起させ、快楽主義の図像は「ピンクの背景にさらに濃いピンクで逆三角形の図像」とよりシャープで、角の鋭さに欲望を突き詰める「笑い」が見て取れる。

本書の終わりで、翻訳者の一人である渡部千春は本書についてこう述べている。

 「ジェニス・カレーラスの 『フィログラフィックス』 は、『赤い楔で白を打て』 の系譜に連なるものです」

s_赤い楔で白を打て

エル・リシツキー「赤い楔で白を打て」

 

ロシア革命期の状況を知らなくても、赤い鋭角(赤軍)が白の円(白軍)を破っている状況が図像を見れば一瞬で理解できる。

本書の中にはそういうわかりやすいデザインから(資本主義だったら一本の線に波の曲線を配置した簡単な図像)正直何を意味しているのか全く理解できないのもある。その辺を考え思い浮かんだのは買った人同士で「これは、こういうことなのでは!?」とあーだこーだ喋る楽しい遊び。

そんな遊べる図像が95個、いやあ凄いですねえ(淀川先生口調)「図像」だからこそ「言葉」での解釈という終わりのない遊びが楽しめるんですね。筆者のサイトで、いくつかのデザインが公開中なので是非とも。そしてここまで読んでピンときた人は、書籍の方がコンパクトなサイズで可愛い本となっているのでそちらも書店で見かけたら手に取ってみてください。

Philographics — Genis Carreras

 

 

ここのところフィルムアート社から面白い本が続々と出ているので、ちょっと注目。

 - 書評 ,

スポンサーリンク

スポンサーリンク

  関連記事

運命は「さだめ」な笹原宏之編『当て字・当て読み漢字表現辞典』(三省堂)

今日紹介するのは「妄想型箱舟依存型症候群」と書いて「アーク」と読むサウンド・ホラ …

スターウォーズ最新作の前にスターウォーズ絵本で優しい気持ちに包まれる

引き続き、12月のスターウォーズ最新作に備えて旧作の見直しと関連書籍を読みふけっ …

【書評】『映画は中国を目指す』(洋泉社・中根研一)

「アイアンマン3」「ダークナイトライジング」「パシフィック・リム」・・・近年のハ …

書評『田中小実昌エッセイ・コレクション3「映画」』食べて、見終えて、酒飲んで

平日、引っ越しを手伝いに遠出をして郊外のイオンに行った。 その店舗二階にあるゲー …

【書評】家庭科を食らえ!『シアワセなお金の使い方 新しい家庭科勉強法2』(南野忠晴、岩波ジュニア新書)

「ああ学生時代もっと勉強しとけば良かった」 こんな言葉に巷で良く出会う。「どの教 …

懐かしいが懐かしいが懐かしい『念力ろまん (現代歌人シリーズ) 』(笹公人・書肆侃侃房)感想

たまたま手に取ってグイと魅了されたこの笹公人の『念力ろまん』は、ただ単純に短歌を …

買う、読む、飲む。杉村啓『白熱日本酒教室』(星海社新書)書評

  「わかりやすさトップクラス」  ・星海社新書の本は導入がうまく、教 …

日本酒の本を選ぶなら「はせがわ酒店」監修の『日本酒事典』を読もう!

このあいだの山同敦子『めざせ!日本酒の達人』(ちくま新書)の評で自分が何を言って …

『怪談短歌入門』書評~怖さには構造がある、短歌篇~

Contents0.0.1  1 陰翳礼讃、隠すことの美学2 定型詩には、隠すこ …

名作+怪獣+ウルトラマン=「ウルトラかいじゅう絵本」のカオスな物語たち

ウルトラマン×絵本といえば思い出すのは、子育てに奮闘するウルトラマンやバルタン星 …