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女性器サラリと言えますか?『私の体がワイセツ?!女のそこだけなぜタブー』(ろくでなし子、筑摩書房)感想

      2015/11/26

検索結果の順位が下がったり、サイト全体の評価が下がったりとそういうことで、グーグルアドセンス的にも下ネタや水着姿の女性写真、お酒やタバコの話は駄目など様々な制約がある。マジか、中学生か。

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ち ん こ とおそらくは言っていいけど、女性器の名称はアウト(と思われる)。広告が配信されなくなるし、最悪停止措置を喰らう。テレビでも文章でも「それ」を大々的に言うことはないが「自主規制」という面ではネットも同じ。そういうのってなんでだろうとよく思う。ただ「それは変だ」「フランス語とかでなら言っていいのだろうか?」と初歩的なリベラル感覚を有してはいるものの『私の体がワイセツ?!』は最初のページから度肝を抜かれた。

「たかがこの3文字で、日本人は皆大慌て。これを表に晒すことはとんでもないことで、罪とされています」(本書p3より)

ということで、女性器の名称がこの後すごい勢いでれんこされて音頭も歌われるもんだから、たまげる。ゆえに、この本をみなさんは書評などでどうやって語るのだろうかと気になりつつ読み進めた。やっぱり「○んこ」←こうすればいいのかな、でもこれだと別のものと区別がつかないから「ま○こ」だろうか、と各媒体の規約を配慮して考えれば考えるほど面倒くせえなあ、と思う。

罪状「わいせつ図画頒布罪」(のちに「わいせつ電磁的記録記録媒体頒布罪」)で二度逮捕され現在も続く裁判において日本の制度および偏見と闘い続けているろくでなし子

彼女が何をしたかというと、自らの女性器をモチーフとしたアート作品を作り続け女性器をモチーフにしたボート「マンボート」、女性器型のすまほケース、暗闇で光る女性器照明→ほらね女性器女性器って面倒くさいでしょ。本書での表記はもちろん「まん○」)それらを展示したこと、自らの女性器の3D鋳型データを配布したのが問題とされ警察は彼女を逮捕した。

しかし本書のタイトルにもなっている通り、彼女の主張はただひとつ「自分の女性器はワイセツではない」である。

この本が凄いのは「○んこ」が連呼されるので読み終わると、なんで「ま○こ」の名称「三文字」に自分はギョッとしたんだろう?と首をかしげるほど劇的に読み手の認識が変わるということにある。そして、その「ギョッ」やおどおどは彼女を逮捕するため家に乗り込んできた警察官たちも同様で、証拠品を「これはあなたのあそこですか」と遠慮がちに尋ねるエピソードに始まり、彼女の女性器にまつわる珍騒動はこの国の「固さ」とドッキングしおかしなことになっていくので笑うこと必至。

しかし留置所の過酷な描写は衝撃的だった。一応は先進国なのだから刑務所のなかでもそれなりの人権があるだろうと思い込んでいたので特に。彼女はここで番号「820」と数字で呼ばれ、自分の持ち物(ティッシュなど)すら満足に使わせてもらえない生活を味わう。手紙を書くのは15時まで、新聞を読むのやノートを書くのは20時まで。そして必要なボールペンは雑居房ごとに一本の支給。土日祝日はそれすらも駄目。人の尊厳を奪うためとしか思えない細かでおかしなルールが支配するこの場所では、最低限の権利を申し立てるのも一苦労という実態が暴露される。さらに犯罪を犯した外国人にはその権利すら知らされない。

言葉にするだけでも「キツイ」状況。けれど、どんな苛酷な場面でもそれを茶化し、笑うことですべてを記録していった彼女の行動力、様々な人の助けを借りてどんどんとたくましくなっていくその姿はとんでもなく偉大である。(園子温が差し入れにサドと大杉栄の本を持ってきたエピソードは泣ける)そして「ま○こ」を抑圧する社会への異議から始まった彼女の戦いはこの国が隠したい状況を笑いとともにどんどん露出させていく。まさしく彼女はアーティストである、アートの原義は生き抜くための技術全般を原義とするからだ。

女性器の3Dデータを移行していることが問題となっている。では、それを言うなら学校での性教育における「女性器」の図像はどうなるのか妊婦さんの出産シーンはどうか?この本は読者にそういう疑問を抱かせるキッカケを与え、あっちはオーケー・こっちは駄目と常識や保守的な価値観を盾に人や物事を断罪する者たちの「コワさ」と「おかしさ」をあぶりだす一級のルポルタージュでもある。

 

↓こちらのコミックverも面白い。視覚的により独房の理不尽さが伝わってくる。

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