映画『リトルプリンス星の王子さまと私』を見る前に再読しませんか原作
2015/12/12
2015年11月21日に公開される映画『リトルプリンス星の王子さまと私』は、とある町に引っ越してきた女の子と『星の王子さま』に出てくる老人となった「語り手」との友情が描かれる続編です。
しかも「サン=テグジュペリ エステート」(原作の管理団体)が初めて認可した作品とのこと。
原作に思い入れのあるファンは映像化に対して不安を持つかもしれませんが、監督のマーク・オズボーンは『カンフー・パンダ』という素晴らしいアニメを製作しており、きっと素敵な物語にしてくれるはず。
今回は映画に備えて、久しぶりに読んだ物語の感想とあらすじをまとめてみることにします。
原作『星の王子さま』あらすじ
物語は語り手が子供の時に経験したとある出来事から始まります。
彼はあるとき絵本を読んでいて、そこに書かれていた猛獣を飲み込む大蛇ボアの絵に衝撃を受けました。そして自分もゾウを飲み込んだ大蛇ボアを書いたものの、大人たちは外側だけを見て「帽子」と言います。仕方なく説明し、やっと理解してもらいますが「そんなことに何の意味があるんだ」という大人たちに嫌気がさし画家の道をあきらめてしまいました。
月日は経ち、今では飛行士となった彼はあるとき、乗っていた飛行機が砂漠へ不時着するという事故を起こしてしまいます。広い砂漠に独りぼっち、けれど懸命に飛行機を直している最中にどこからか「ヒツジの絵を書いてよ」という声がして、振り向くとそこには小さな王子様がたたずんでいました。
驚いた飛行士は絵なんか習ってないと断ることに、しかし王子さまが「ヒツジの絵を書いてよ」とあまりにもしつこくせがむため、子供のころに書いたあの象を飲み込んだボアの絵を書きました、驚くことに王子さまは「違うよ。象を飲み込んだボアの絵じゃないよ」と答えたのです。
飛行士がそのあと何枚もの羊の絵を書き、最後に箱に入った羊の絵を書いてあげてようやく納得した王子さま。彼は自分が別の星から来たことを少しずつ語り始めるのでした。
感想
えっと、こんなに感動したっけかな・・・。
ちょっと動揺していて、すいません(笑)
最初に読んだときは、単純に面白い話だなあとか王子さまが旅していく星の中で酒を呑む男の台詞が一番印象に残ったものです。
「なんでお酒を飲むの?」と王子さまはたずねました。
「忘れるためさ」と酒飲みは答えました。
「なにを忘れるためなの?」と王子さまは重ねてききました。
「恥ずかしい思いを忘れるためさ」と、首をたれながら、酒飲みは正直に答えました。
「いったい、なにが恥ずかしいの?」
「酒を飲んでいることが恥ずかしいのさ」
本文から会話のみ抜粋
今回読んで一番刺さったのは、王子様が自分の星にいた花を置いてけぼりにしたことを悔恨する台詞でした。
あのころ、ぼくはなにも分からなかったんだよ。花がぼくになにを言ったか、ではなくて、花がぼくになにをしてくれたか。それを考えて、花が大切かどうか、決めなければいけなかったんだ。
花はぼくをかぐわしい匂いでつつんでくれた。ぼくを明るく照らしてくれた。ぼくは逃げ出してはいけなかったんだ。かわいそうに、花はあれこれずるい言い方をしたけれども、そんなずるい言い方の裏に、花の優しさがちゃんとある。そうぼくは分かってあげなくてはいけなかったんだ。
花の気持ちというのは、ちぐはぐなことばかりなんだ。でも、ぼくはまだ経験が足りなかったんだよ。だから、どうやって花を愛してあげたらいいか、分からなかったんだ
けれど自分の星にいたときはわからなかった一本の花に対してのこのような思いが出てきた後に、王子さまはこの星に何本もの同じ花が生えてることを発見して涙を流します。
自分の大切にしているものがここにはたくさんあって、自分の星はとてもちっぽけなものだと。
そこにキツネが現れ、たくさんのものがあるなかで自分の取って大切なものとはなにかを巡る対話が始まります。そして次の日にあった時キツネと王子さまは馴染みになったことで王子さまは理解するのです。
たとえ多くの花があろうとも、自分にとって何より大切なのはあの一本のバラだと。
キツネ「君が君のバラのために失った時間こそが、君のバラをかけがえのないものにしているんだよ」
『星の王子さま』の凄さはすべてのエピソードが目に見えない大切なことの素晴らしさを歌い上げるド直球のテーマにあります。
「目に見えないもの」の内容は読み手によって様々に変化し、たとえば王子さまがこの星に来る途中で出会った男は星をひたすら数え、それを小切手にしてしまうことにしか興味のない人物でした。この星になにを代入するかは読み手次第です(また前述の花になにを代入するのかも)
目に見えない大切なものがある、それはそうだろうと思いがちですが、この物語を読んだらそんな悠長なことは言ってられません。上の絵が「帽子」ではなく、ボアを飲み込んだ象であるといったような出来事が現実に起きたとき、自分はそれを排除していないだろうかと考え始めてしまう強いパワーが『星の王子さま』にはあります。
数えられる無数のもののなかから大切なものを想像力で見出だすという話の構造と、けれどそれに気づいた時にはそれは既に手の届かないものかもしれないというせつなさは、測定可能なものがもてはやされる時代において読む人に何度も自分にとって大切なものを思い出すキッカケを与えてくれるのです。
映画「リトルプリンス星の王子さまと私」の予告から見えること
最後に語り手の飛行士は言います。
これはぼくにはこの世で一番美しく、いちばん悲しい風景です。この風景は前のページと同じものです。君たちによく見てもらおうと思って、もう一度かきました。王子さまが地上に姿を現したのもここですし、地上から姿を消したのもここです。
だから語り手は王子様を忘れないための物語を語り、想像力の大切さを紡ぎ続けたのでしょう。
そしてその物語を受け取った私たちも王子さまを想って悲しくなったならば、間違いなく『星の王子さま』はその人にとっての馴染みの物語になったのだと思います。読む人の想像力を守り続ける大切な一冊に。
今回は平凡社ライブラリーの訳で読みましたが、最近になって光文社古典新訳文庫から出版された『ちいさな王子』もまた異なる雰囲気なのでオススメです。
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