料理は名前だ!『「平野レミ」のつぶやきごはん』(宝島社)書評
2015/11/30
料理研究家・平野レミがゲスト回の「ゴロウ×デラックス」(2015年2月12日放送)を見た。
シンプルで美味しそうな(そして調理時間が短そうな!)料理の数々に「作ってみたい」と心から思ったので『「平野レミ」のつぶやきごはん』(宝島社)を早速取り寄せてみることに。
本書はtwitterで平野レミがつぶやいたレシピをまとめたもの、つまりすべての手順や食材が140字以内にまとめられているというかなり凄い料理本なのだ。特に自分が惹かれたのは料理のネーミングセンスである。
例えばこの本の代名詞ともなっている「バカのアホ炒め」
「バカのアホ炒め」教えるわ。牛しゃぶ肉150gと完熟トマト2個とニンニク2粒を薄切りにして、塩、胡椒と一緒に炒めるだけ!ちぎったバジルと好みでサワークリームを入れてね。ごはんやパスタの上にのっけて食べるの!スペイン語でバカは牛、アホはニンニクよ!
天才レシピ「バカのアホ炒め」 / Remy | お腹の底から幸せになろう。
↑「平野レミのサイト」・・・料理のレシピを多数公開。サービス精神MAXね!
一回作ればわかるが平野レミの料理は忘れづらい。たぶんネーミングセンスが抜群だから作った料理が味とともに「言葉」として記憶されるからだと思う。
アヒルの代わりに鶏肉を使う「ペテンダック」、ニラ醤油をつけだれにニラのしゃぶしゃぶをする「にらめっこ鍋」、レンジでチンした鶏胸肉にマヨネーズとマスタードを絡め砕いたコーンフレークをまぶす「あげないよナゲット」←揚げないと美味しくて人にあげたくないがかかってる。
いまや料理のレシピはその日買った食材を全部グーグル先生の検索窓にぶちこめばクックパッドでいくらでも出てくる時代である。だから膨大な情報の中から創作物である「料理」を浮かびあがらせるためには「名前」こそ重要だ。もしかしたら美味しそうな写真よりも。
平野レミの料理はそうしたキャッチーさに加えて、ネーミングから料理の手順が想起できる点も素晴らしい。「バカのアホ炒め」なんて一度作ったら二度と忘れないし、ここから「アホだらけのお粥」までぴょんと理解できる仕組みになっている。
どう楽しく手を抜くかの知識=「名前」を忘れないから検索の必要がなくなり、スーパーで食材を見たときに「あ、あれを作ろう」率が高くなるのだ。読み終わると「手抜き料理と手抜きアイデア料理は違うのよ!」という彼女の思考がよくわかる。
たぶん作る人のことをどこまでも考えている旺盛なサービス精神がこの本を面白くしているのだろう。
番組でも言っていたが、ここに出てくるレシピはtwitterの文字数制限である140字ギリギリではない、すべて120から130に文字数を抑えてある。
それは何故か、つぶやきを読んだ人がリツイートをする際にコメントを付け加えることが出来るようにということを考えてのことらしい。それを計算ではなく直感でやっているのが凄い。そういう平野レミの呼吸、全体的なセンスの良さをこの本はわかりやすく体感させてくれる。ごちそうさまでした。
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