沈黙しない羊たちの暴走特急アニメ『ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』感想
2015/11/26
この作品が「ヤバい作品」であることは前々からの調査で判明していたのだが、お金の不足と薬による体力低下の関係上、なかなか見に行けず歯がゆい思いをしていた。
このたびようやく「バケモノの子」「進撃の巨人」「インサイド・ヘッド」などをスルーして見た。映画は可愛く、笑わせてくれて、想像以上に
マッドだった。
気を抜くと「マッドマックスみたいな」「マッドマックスのような」と文章の最後につけてしまいそうなほど羊の皮をかぶった暴走パニック映画なのだ。
【映画パンフレット】映画 ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム (映画宣伝用チラシ2種付き)
「ひつじのショーン」の構成は単純なものだ。
若い頃希望にあふれた牧場主はだんだんと日々に単調さを感じ始め、今では牧場全体がルーティンの気怠さに満ちている。ついに雑な対応を続ける牧場主に羊たちが反旗を翻す。
ここで、てっきり羊たちが牧場を抜け出すのかと思いきや少し違う。牧場主を羊作戦で眠らせ(円状にぐるぐると羊たちがまわることで牧場主の羊数えを無限に延ばし眠らせる技)止めてあった車に収容する。そしてその間に少しだけ遊びまわる作戦だったのだが、車のつっかえは外れてしまい坂道を勢いよく進み始める。暴走する車、驚くハリネズミ、追いかける牧羊犬、それに連なる羊たち!
冒頭のライド感覚に満ちた衝撃映像に劇場内で「マッドマックス!!」と叫びそうになった。悪いファンである。
『ひつじのショーン』はこのように全編台詞がないからこそ、観客の目をスクリーンへと釘付けにさせようという強いサービス精神が満ち溢れている。だからファミリー系アニメ特有の展開が間延びし飽きてしまうといった事態は起こらない。可愛く魅力的な羊たちの動く姿を映画『アリスのままで』の音楽を担当したイラン・エシュケリが盛り上げていく。
クレイアニメのおしゃれ感にも充足せず、隙あらば笑いをどこにでも潜ませてくる容赦のない作りこみで、大都会に行ってからのショーンたちのギャグはますますエグく冴えわたる。
というか相当ギリギリだ。一例を挙げると羊が街に紛れ込んでも大丈夫なのは、服を重ね着することによって黒人に化けているから。そして彼らを捕まえようとする保安官が一匹の羊に恋をしてしまう。わけのわからない凄い展開である。
ようやく出会えたと思った牧場主だが、なんと記憶喪失に陥っており、その間に羊の毛刈りで鍛えたスーパーテクニックによってフェイスブックで「いいね!」を積み重ね、カリスマ美容師としての名声を欲しいままにしていた。
そして迎えに来たショーンたちを邪険に追い払ってしまう。羊たちが哀しみにくれ涙を流したとき、あの倦怠感溢れる日常ですら愛おしいものだと気づく。ありし日にみんなで撮った写真が、まだ髪が薄くない牧場主の姿も相まって涙を誘う。
「みんなで帰ろう」
牧場主の目を覚ますためには何が出来るか、ここから終わりに向けて少しずつ物語は加速していく。そして彼らを捕まえようとする保安官の狂気も加速する。バック・トゥ・ザ・ホームに向けて。
羊たちの主人を思う気持ちに、うう泣かせるぜい!と感動するとともに、序盤のライド感を上回るラストの爆発する狂気に、やはり叫んでしまうのだ、
マッドマックス!!!!と
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