トレーダー分岐点

新刊本や新作映画、アニメの感想などを書き続けるサイト|トレーダー分岐点

*

映画『アタリ ゲームオーバー』感想、歴史に名高いクソゲーを闇から救い出せ!

      2015/11/26

一本のゲームソフトがある。

そのゲームはスティーブン・スピルバーグの名作映画を原案に持ち、圧倒的期待で迎えられつつも、奇怪な造形に意味不明の空間、ひたすら不親切なシステムに批判が続出し、返品の山を築いてしまった。アタリ社倒産の引き金を引いたとされるそのゲームはいつしか「史上最悪のクソゲー」と呼ばれるようになった。

ゲームの名を『E.T.』という。

s_アタリザゲームオーバー

そして、このソフトには一つの「うわさ」があった。

隠蔽のために大量の「E.T.」が当のアタリ社の手で、アラモゴードの巨大ゴミ捨て場(砂漠)に捨てられたというのだ・・・。

信じたもの、そんなバカなと否定するもの、両方を巻き込んで長年その噂は人々の間で語り継がれてきた。果たして真実はどこにあるのか?

映画『アタリ ゲームオーバー』は、それを確かめようと立ち上がった一人の男の苦闘と一本のゲームソフトが辿った数奇な運命を巡るドキュメンタリーだ。



冒頭「アタリ社」の栄光に満ちた輝かしい時代が関係者の証言と共に語られる。シリコンバレーに世界初の家庭用ゲーム機の会社として生まれたアタリは、今でいうグーグルやフェイスブックのように、「良く働き良く遊べ」の精神を持ったベンチャー企業であった。

映画はこの過去の話とアラモゴードにおける発掘作業準備を交互に描いていく。現代で監督のザック・ペンがぶつかったのは、地下深くコンクリートで埋められたその場所を掘り返すことの困難だった。場所的な難しさ、技術的難しさ、さらに行政や環境保護団体は潜在的な危険があるとして発掘を一時中止にしてしまう。

s_発掘

関係者へのインタビューはアタリの元ゲーム・クリエイターの一人に焦点が絞られていく。『レイダース』のゲーム化に成功し、アタリ社の大ヒットメーカーだったハワード・スコット・ウォーショウだ。そして当時向かうところ敵なしの彼のキャリアに終止符を打ったゲームこそ『E.T.』だった。

「5週間」

当時のゲーム開発が5か月かかるところ、「E.T.」の制作期限として提示されたのはたったの5週間だったという衝撃の事実が彼の口から明かされる。

様々な汚い利害が絡み、クリスマスに間に合うよう設定された納期は、常人なら到底不可能なものだった。だが、その仕事をハワードは成し遂げ、失敗した。

400万本出荷されたソフトのほとんどが返品され、同時にアタリは空前の損益となり社員の8割は解雇。ハワードも辞めさせられることとなった。一時期アメリカでシェア80パーセントを誇ったアタリは静かにその歴史に幕を閉じた。

向かうところ敵なしの自信家だったハワードは「史上最悪のクソゲー」を作ったクリエイターとしてゲーム会社から排斥され、3年間のアタリでの幸福な日々を思い出しながら30年間を傷つきながら生きてきた。様々な職を転々とし、現在は州認定の臨床心理士となった彼はその日々を語り終えたあと「E.T.」の発掘現場へ行くことを決意する。

行政の許可は降り、発掘作業の日付がついに決まったのだ。

運命の日に向けて世界中からアラモゴードへ集まってくる人々。誰も彼もが影響を受けた偉大な先達「アタリ」の歴史を見届けようとである。

だから映画は一つの根源的問いを投げかける、「史上最悪のクソゲー」は本当に史上最悪だったのか、「E.T.」が本当にアタリを潰したのか?記録的な砂嵐が埋立地と巡礼者を襲う中、ついに歴史の闇から一つの真実が明らかとなる。涙と鳥肌と笑いの止まらない、久々に心の底から熱い感情が湧き出るドキュメンタリー映画だった。

s_クソゲーアタリ

 

 

【関連記事】

夏の終わりに見るべき劇場未公開の傑作青春映画『プールサイド・デイズ』

『劇場版アンパンマン ゴミラの星』はシリーズトップクラスの感動作

スターウォーズ最新作の前に見るべき爆笑ドキュメンタリー映画『ピープルVSジョージ・ルーカス』

 - 劇場未公開, 映画評

スポンサーリンク
スポンサーリンク

  関連記事

吸血鬼が出てこない映画『吸血鬼ボボラカ』評

今回取り上げるのは上映時間72分のこの映画「吸血鬼ボボラカ」 吸血鬼ボボラカ 《 …

x-menアポカリプス 絵画
そして彼らは集結する。『X-MEN アポカリプス』の感想と過去作の予習

『X-MEN アポカリプス』はX-MENシリーズの最新作にして『ファースト・ジェ …

【映画感想】すべての終わりの目撃者となれ!『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章』

(ネタバレしかない) GWはずっと白石晃士監督作の映画を連続鑑賞。そして最終日に …

映画を丸裸にするラジオ「高橋ヨシキのシネマストリップ」が予想通りに面白い

(更新継続中の記事) 毎回(と言ってもまだ二回だけど)面白い20分間を朝から提供 …

【講演会まとめ】「映画批評を巡る冒険(第一回)」(講師:佐野亨)

蔵前で行われた講座「映画批評を巡る冒険」の第一回に行ってきました。 場所は「石毛 …

『ジュラシック・ワールド』のコリン・トレボロウ初監督作『彼女はパートタイムトラベラー』感想

SFコメディというジャンルに分類されたためにヒドい邦題だがコリン・トレボロウの長 …

映画リンカーン
政治的合理主義について、映画『リンカーン』を見て思うこと

映画の冒頭、監督のスピルバーグがこの映画の思想的背景を説明する。奴隷制をめぐりア …

~再生せよ、と川に響く音~映画『ダムネーション』評

『千と千尋の神隠し』で一番好きな場面は湯屋に来た腐れ神を千尋がおもてなしする場面 …

子供だけに見せておくにはもったいない!傑作アニメ「ハルのふえ」

アンパンマン映画を劇場で見る面白さは子供たちが 「アンパンマンだーーーーー」 「 …

クリスティアン・ペッツォルト監督『あの日のように抱きしめて』試写感想

第62回ベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞し、第85回アカデミー賞外国語映画賞ドイ …