様々な愛にあふれた恐竜映画『ジュラシック・ワールド』(監督:コリン・トレボロウ)感想
2015/11/26
(後半にネタバレあり)
IMAXやら4DXで『ジュラシック・ワールド』を見たかったが家の近所にそんなものは存在しないため普通の映画館へ。コリン・トレボロウ監督の出世作『彼女はパートタイムトラベラー』は細やかな作りの映画だったから、それを信頼してのことでもある。
観客の求めるスペクタクルを満足させ、なおかつ複数の物語を丁寧に語る余裕をもった雰囲気に見終わって感嘆した。体感型や音響の優れている映画館で鑑賞すると良いのは確かだが、近くに最新の映画館がない人も満足させてくれる素晴らしい夏の大作映画だった。
あらすじ
舞台は第一作目「ジュラシック・パーク」のあったイスラ・ヌブラル島。あの事件から22年後、壊滅したパーク跡地にインジェン社を買収したマスラニ社の手によって新たに「ジュラシック・ワールド」が建設された。誰もが楽しめる場所というパークの創設者ハモンドの精神を受け継いだ「ジュラシック・ワールド」は連日大きな賑わいを見せている。そしてこの島に二人の兄弟が訪れたところから映画は始まる。
感想(ネタバレなし)
みんなが見たかった、そしておそらく「ジュラシック・パーク」の創業者であるハモンドも望んでいたテーマパークが『ジュラシック・ワールド』において実現したことを高らかに知らせる開始五分での「ジュラシック・パーク」のテーマ。初代の熱心なファンではなかったはずなのに思わず涙が出てしまった。
しかし何でも出来てしまえば慣れてしまうのが人間、恐竜が当たり前の存在となった世界の人々はより大きな刺激を求め、より凶悪で獰猛な新種の恐竜インドミナス・レックスを作り出してしまう。
経済を優先し、自然を甘く見たことによって起こる悲劇。このシリーズに一貫するテーマを繰り返すことを恐れず、スペクタクル的な怖さをキチンと描くコリン・トレボロウ監督はエラい。前回の『ジュラシック・パーク』は開園前だったが、今回は開園後なので例えるならば「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」で遊んでたら恐竜が突然襲ってくるような恐怖なのだ。
プテラノドンが人々を捕食したり、インドミナス・レックスが警備員をバクンと喰らい尽くしたり、たまに見られる無意味な殺戮も含めて年齢制限がないことに驚き、嬉しく、何より怖かった(顔を背けること多し)
物語の方はと言えば、恐竜に興味津々の弟ザックと少し年の離れた兄グレイ、何をやってもお互いギクシャクしてしまう時期の描き方に胸がキュンとなる。その兄弟の冒険を軸にしてジュラシック・ワールドの最高責任者でもある彼らの叔母クレアと元恋人オーウェンのストーリーが並行的に語られる。
監督の出世作『彼女はパートタイムトラベラー』でも見られた構成の上手さは、さらに様々な立場の人々のエピソードを付随したこの大作においても崩れることはなく、より洗練されていた。
檻の中で殺される太っちょ、子供をいじめ抜く伝統。初めから終わりまでスピルバーグの精神が受け継がれているので何回も見ている人もさらりと知っている人も今一度「ジュラシックパーク」を見ておくと良いだろう。ストーリーだけではなく構図やギミックなどにも前作を知っていると楽しめる場面は多数だからだ。
感想(ネタバレあり)
あれも混ぜました。
これも混ぜました。
そんな新種のインドミナス・レックスは熱探知、擬態、高い知能を持つ最強の恐竜。そいつが人々を捕食していくときに心拍図が次々と止まる演出を発明し、銃弾でも割れない絶対安全な乗り物が完膚なきまでに破壊され可愛い兄弟がいじめられるスピルバーグの伝統も受け継いでコリン・トレボロウも最強。
もうやりたい放題にシリーズへのオマージュが随所にある。雄叫びをあげるインドミナ・レックスは1のラストで大暴れして化石をぶち壊すレックスと同じ構図で、「ジュラシック・ワールド」の中にパークが保存されてて、ハモンド博士たちが載っていたのと同じ29番のジープを運転して兄ちゃんが弟を助けるシーンは涙ボロボロだし、インジェン社の軍事的な契約は「ロストワールド」を思い出させ、ラプトルの共鳴反応は「3」の物語を意識している。
「コリン・トレボロウわかってる」が最高潮に達するのはラスト。知能も高く、武器も効かないインドミナスにやられ放題の人間勢がついに閃いたアイデア(ここでの戸田奈津子字幕も必見ね!)
「その場所」に向かうクレア。
焚かれる発煙筒。
「え・・・もしかして」と高まる期待。
そして開かれるゲート。
T-REX
「キターーーーーーー!」
首にある傷跡からわかるとおり、これは「ジュラシック・パーク」においてヴェロキラプトルにつけられたもの、つまりこのレックスは1と同一個体。
「いつまで俺を差し置いて暴れとるんじゃ!」と言わんばかりに、1のラストで化石をぶっ壊したシーンを今度はレックスが再現し「なめんな!」って感じで大暴れを始める。さらにピンチになったレックスを助けにラプトルも共闘、止めは海中からインドミナを捕食する今作の目玉モササウルス、まるでプロレスのような連携の美しさに嗚咽止まらず。月が右上に出ている構図で終結するのも格好良すぎた。
あとは愛があった。あなたも子供を持てばわかるわよ、とクレアが兄弟の母親に言われたとき、子供がいないと結局はわからないにテーマをシフトさせるのではなく、恐竜が死ぬ場面にそれをつなげていく。インドミナスが恐竜を虐殺したとき初めてクレアは創造主の責任を実感し涙を流す。女性と男性がくっつくだけではない、作者のシリーズに対する愛、親が子を思う愛、兄が弟を弟が兄を、様々な愛の形が終わりに向けて収束していく。ジュラシックパークのシャツを来たオタクっぽい職員がワールドの終わりを見届けるシーンにも愛を感じた。
その彼に対して報われない展開をシリアスな状況にひょいと挿入しちゃう余裕もあるコリン・トレボロウは立派にこの大作を作り上げ『スターウォーズEP9』の監督を務めることも決定した。本当に凄い。そして『彼女はパートタイムトラベラー』のラストに登場するギミックで彼の才能を見抜いたスピルバーグも凄い。
【関連記事】
・最新作『ジュラシック・ワールド』(ジュラシック・パーク4)を見る前のシリーズあらすじまとめ
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