買う、読む、飲む。杉村啓『白熱日本酒教室』(星海社新書)書評
2015/12/02
「わかりやすさトップクラス」
・星海社新書の本は導入がうまく、教え方の上手い予備校講師がする板書のようなデザインも兼ね備えてて非常にわかりやすい。「今」というものを強く意識しているから毎月刊行される度にタイトルをチェックする出版社のひとつだ。
この『白熱日本酒教室』も2014年11月に日本酒ブームの流れにのって出版された。流行のおかげかここ最近は良質な日本酒本が増えており、以前に取り上げた山同 敦子著『めざせ!日本酒の達人』(ちくま新書)とともにこれを読めば「日本酒の世界」が簡単にそして一気に開けるよ。と出会う人全員に薦めたい良書である。
学べば学ぶほど面白くなる日本酒の最初の手掛かりは「味の予測を立てること」、そのためのコツが『めざせ!日本酒の達人』には豊富な事例と共に紹介されていたが、この本の導入も「星乃海」(次世代酒造株式会社)という架空の日本酒を紹介して、その味の予測がたてられるかどうかから始まっていて楽しい。
全二十時間の講義を終えれば、このラベルの意味するところがわかる嬉しい演出である。
従来の日本酒本でネックだった一見ややこしい日本酒の製法を、大学のおもしろ授業を聞いているような語り口でありつつ、「天然の乳酸菌を使う?」→「醸造アルコールを入れる?」→「お酒をどう漉す?」とチャート式で説明してくれるので日本酒を美味しく味わうために必要な語彙がスイスイ増えていくのも快感だ。
酒造に適した米で日本酒は作られる、でもなぜ?といった日本酒をある程度知っている人でも「そういえばなんでだろう?」と考え込む細かいところも、酒造好適米は隙間がたくさんあり心白が濁っている、その隙間に菌糸が入りやすいので良い麹米が出来る。といったようにトコトン簡単な言葉で説明してくれる。読み手の知識の空白に応じて読み方が変わる入門書の鑑である。
(*個人的には水の代わりに日本酒(with水)で仕込む「貴醸酒」が何故甘くなるのかの説明が面白かった。水の代わりにアルコールを足すことで、本来ならば分解していたはずの糖を分解する前に酵母が死ぬので、糖がたくさんの残り甘い味になるとのこと。わかりやすい!)
低アルコールの日本酒や、パチパチとした感覚が心地よい発泡性の日本酒、まだまだ研究途中の熟成日本酒、これからブームになるであろう潮流についてもカバーしており、酒屋さんの横で売ってたら凄い売れるんじゃなかろうかと妄想してしまう。
山同敦子『めざせ!日本酒の達人』で一通り日本酒の知識を学び、巻末にある今話題の注目の蔵元情報をチェックし、はせがわ酒店の店長が監修している『日本酒事典』でより詳しい情報を写真入りで眺め味を妄想し、本書で空白の知識の補てんを計り合間に漫画『もやしもん』を読む。
以上を繰り返し、酒屋に赴き、トライ&エラーを繰り返せば安くて美味しいお酒を探す楽しみが増え、旅行に行った際に地元のお酒にアンテナが向くようになり、とりあえず日本酒を揃えました的な値段の高い悪い居酒屋に騙されることはなくなる。
このように良いことだらけの結果になること間違いなし。読んで、学んで、レッツ、トライ!日本酒!
講談社
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