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新聞歌壇について、投稿先などのまとめ

      2017/11/01

現代詩から派生して「短歌」という定型に興味が出てきたためここ最近は新聞に短歌を投稿するなどしています。読みつつ作るという欲求のまま拙いながらも一年続けて思ったのが「新聞歌壇」というのはかなり特殊な場所だということ、これは短歌という器の大きさの実感とも関連してます。

この場所では素人からプロまで様々な人がそれぞれの問題意識のもとに歌を投稿します。高度に詩的なものから、日常ふと感じる川柳のようなものまでごちゃごちゃです。だからこそ面白く、毎週毎週選者の皆様はそれを丁寧に読みといて採用してくれています。

「え、なんでこれが・・・?」と一瞬思っても何回も読み返すと意味がふとわかるようになったり、派手ではないけれど上手な短歌などもちゃんと見ています。

ただ、それでも選者ごとに傾向はあると思いました。そして新聞ごとにも。

「秀歌」と呼ばれるものと自らが作り上げた短歌とのレベルの違いに愕然としますが「掲載」ということに絞ってポイントを押さえていけば取り上げられる確率が高まります。確率などという実利的な話をしてしまいましたが、要するにたとえば自分の作った短歌、それが口語的でポップな感じならこの人に贈ろうなどといった戦略のことです。

そのためには新聞ごとの傾向、そして選者の短歌をよく見ていくことが重要です。ここでは投稿先などもまとめておきました。

*選者ごとの短歌は新書館『現代の歌人140』から取り上げました。実にすばらしい本なので興味が出た方は是非とも一読してみてください。

 

 

*共通する投稿のルール(基本的にはハガキ一枚に縦書き。二重投稿は不可)それと、2015年現在の情報なので掲載日や送り先などは変わることがあります。

朝日新聞(掲載日:月曜日)

選者を選べないためおそらくもっとも多くの短歌が集まっていると思います。それゆえ掲載される短歌のレベルが高く、面白い短歌も多い、住所にホームレスという掲載も多く朝日新聞のある種の思想は出ています。

集団的自衛権、国会、政治などの本人にとっては切実かもしれないが凡庸なひねりもない短歌がそのまま掲載されることも。

掲載日:月曜日

はがき1枚に1作品、住所、氏名、電話番号を明記して、〒104-8661 東京・晴海支店私書箱300号、「朝日歌壇」へ。未発表の自作のみ。

 選者の短歌

永田和宏

  • ひとかたに光はなびく芽花(つばな)なびく抱きたしとただ直截にして
  • ねむいねむい廊下がねむい風がねむい ねむいねむいと肺がつぶやく
  • 酔っていることのみ告げて切れしかば夜の受話器はとろりと重い
  • 首をあげればそこがあの世というように薄目の亀が風を感じ入る
  • 白梅(しらうめ)はあちらこちらと見えながら病後のひとの歩果敢(はか)なし

 

馬場あき子

  • ほぼつひの抵抗体としてのこる吾れといふこの笑止なるものもの
  • 読み更かし涙眼濁る冬の夜の精神を抱く肉体あはれ
  • ゆめの中だけにある駅潮騒す海に線路を越えてゆくいつも
  • 今もなほ隆起してゐるといふ山塊の父のごとき意志思ふ秋の日
  • かんてんのふる里といふところありただ青々とさびしき大地

 

佐佐木幸綱

  • ウイスキーは割らずに呷(あお)れ人は抱け月光は八月の裸身のために
  • 去りゆくは季節、朝雲、夢、女、雄ごころは死まで旅のこころよ
  • 小面となりし在り継ぐ檜(ひ)のアニマむかし浴びにし檜の山の雪
  • みちのくを北へのぼればさらさらに早苗をつつむやわらかき雨
  • 立春の日の夜空飛ぶネグリジェの大群 明日の天気は晴

 

高野公彦

  • わだつみをほういと飛んでまた一つほういと飛魚(あご)の飛ぶよ天草
  • 走りゆく夜の電車にやはらかく光の喉をひらく次の駅
  • 花咲かせすべてを散らす大仕事了へし桜に甘雨(かんう)ふりをり
  • われに棲む恋の奴よ腰細の月光さまにつかみかかるな
  • 飛び去りし白さぎの跡ひとすぢの体温あらむ秋深きそら

 

読売新聞(掲載日:月曜日)

投稿する際に選者を選べるため好きな歌人に送れる。小池光から俵万智まで幅広いので、選者の歌をよく見て波長があった人に届ける気持ちで書くと掲載されることが多いです。

まだ掲載された数が少ないため、詳しくはありませんが私の友人は恋の歌を読売歌壇に多く送っていて、よく掲載されています。

掲載日:月曜日

▽はがき1枚に1作品。ネットでも受け付け。

▽住所、氏名(ふりがな)、電話番号を明記

▽ 〒103-8601 日本橋郵便局留、読売歌壇、○○先生(希望選者名)係

選者の短歌

岡野弘彦

  • ただ独り 砂に臥しつつ戦へる 髭白き兵もたそがれてゆく
  • 水誘(みさび)うく 廃寺の池のみづすまし かく安らかに 人は生きざりき
  • ほろびゆく炎中(ほなか)の桜 見てしより、われの心の修羅 しづまらず
  • バグダッド業火に焼くるたたかひを 病み臥す妻に 告げざらんとす
  • 弓なりに 身をひきしぼる列島を 咲きさかのぼる 桜前線

 

小池光

  • 遺伝子配列三十億対を読み終へてうつくしき水晶の夜がくる
  • 肛門をさいごに嘗めて目をとづる猫の生活をわれは愛する
  • ひとたばの芍薬が網だなにあり 下なる人をふかくねむらす
  • 金柑をひとつ丸呑みしたるのちかがやきながら巷(ちまた)をあるく
  • みづからのこゑを運びて鳥は鳥はとぶメタセコイヤのぬれし林に

 

栗木京子

  • 城跡へつづくいしみち見えぬ火を手渡しながら木々紅葉(もみぢ)せり
  • 大雨の一夜は明けて試し刷りせしごと青き空ひろがりぬ
  • さびしさに北限ありや六月のゆふべ歩けど歩けど暮れず
  • ふうはりと身の九割を風にして蝶飛びゆけり春の岬を
  • 国家といふ壁の中へとのめり込みし釘の痛みぞ拉致被害者還る
  • 水の上に落ちし椿は気付くべしいかにこの世は重たきものか
  • 大空を、木の葉を、シャツを、足首をぎゅッと絞りたし夕立ののち

 

俵万智

  • 泣くという音楽がある みどりごをギターのように今日も抱えて
  • ろうそくの炎初めて見せやれば「ほう」と原始の声をあげたり
  • たんぽぽの綿毛を吹いて見せてやるいつかおまえも飛んでゆくから
  • 揺れながら前へ進まず子育てはおまえがくれた木馬の時間
  • 連休に来る遊園地 子を持てば典型を生きることの増えゆく

 

 毎日新聞(掲載日:月曜日)

背景を見ることが多いのはウェブ上で職業や年齢などを書くためかもしれません。しかし選者を選べるので時事的、俗人的なもの、よくわからないものまで幅広く投稿できます。

特に加藤治郎先生は相当実験的な短歌も受け止めてくれるため毎回見るのが楽しみなのが毎日歌壇です。

掲載日:月曜日

投稿先:〒100-8051 毎日新聞学芸部「毎日歌壇」係

裏に歌・希望選者・住所・氏名・年齢・職業・電話番号、メールでの投稿も可能。

選者の短歌

米川千嘉子

  • 雪しづく甘しといへば雪女の異形の愛は不意にしたたる
  • 「銃後といふ不思議な町」を生んできたをんなのやうで帽子を被る
  • 戦争のちかづく日本の山鳥をこりりこりりとかの子は噛みぬ
  • 曇り日に月を待つときもの言はず甕照るやうにもの思ふひと
  • 大潮の夜だから産みに行かなくては 蟹のわたしは夢にてあせる

 

加藤治郎

  • 押収のドラム缶にはあるらーん至福の砂糖こそあるらーめ
  • フライパンたたいてよせる卵かな新しい宗教のはじめに/おわりに
  • 獏の腹裂く夢をみたあかときは洪水のようなわたしくである
  • マオよマオよひどく寒くてシュウマイのグリーンピースで造る王宮
  • 炎天の平和式典、日蝕のすすむ国旗にあたま垂れたり

 

篠弘

  • 「なきがら」は味方「むくろ」が敵方と詠み分けられし戦場詠
  • さびしさはわが詠まざれど空壜の口が慣らせる風の音聞く
  • 憶測は長長とするものならずモーニングコールに明日を委ねて
  • 古書店を風吹きぬくる春となり肩幅ほどの狭さにたてり
  • ひとりとは白雨をつきて走ること礫のやうなるしづくをまとふ

 

伊藤一彦

  • 夕映がいかに恐ろしく迫るとも武器は要らずとわれは思へり
  • たかはらの老人ホーム世の音を遮断して世の一切があり
  • 春近き岬に一人の童来てただそれだけに空の拡がる
  • 樹と人のさかひまぎれむ森に入りわれはにんげんの飢渇に歩む
  • 世の道のすべてが舗装されゆかむ わが家のまへ呼吸する土

 

日本経済新聞(掲載日:日曜日)

穂村弘が選者のため、かなり自由な短歌が多いです。

彼の著書『短歌の友人』に参照されるような空気の薄さであえいでいたり、言語遊戯的な短歌ができた場合などに。三首一緒に送ることが出来て、そのため適当に作った一種から予期せぬ短歌の生まれる可能性がとても楽しい歌壇です。

掲載日:日曜日

はがき1枚に3首まで、未発表の自作。

住所、電話番号、氏名(本名でも筆名でも構いません。筆名の場合はカッコ内に本名を書き添えてください) 、希望選者名を明記。同じ作品を2人の選者に送ることはできません。

〒100-8658日本郵便銀座支店私書箱113号、日本経済新聞文化部「歌壇」係。

メールでも可能。アドレスはshiika@nex.nikkei.co.jp

表題には希望選者名を明記。あとはハガキと同じ要領で自分の住所などを記載。

 

選者の短歌

三枝昂之

  • 第二芸術も民族浄化もまぎれなき一町内のあやまちである
  • まだ丘は樹木の奥に霧がある私はまれにふくろうとなる
  • 甲斐は峡(かい)にして貝の国はろばろと舌がよろこぶ煮貝のあわび
  • 小さき手をひらきて示す化石あり姿滅びぬ千年あわれ
  • ゆっくりと悲哀は湧きて身に満ちるいずれむかしの青空となる

 

穂村弘

  • 目覚めたら息まっしろで、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき
  • 恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死
  • 夜明け前 誰も守らぬ信号が海の手前で瞬いている
  • ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。
  • 「殺虫剤ばんばん浴びて死んだから魂の引き取り手がないの」

 

産経新聞(掲載日:水曜日)

産経に関してはあまり読まないので下手の事は言えませんが朝日新聞のように露骨な思想系の短歌は少なく、日々のきらめきを掴んでいる歌が多い印象を受けます。

けれど、小島ゆかり先生の取る歌は幅広く、クスリとおかしい短歌を私は産経歌壇に送ることが多いです。

掲載日:水曜日

〒100-8077産経新聞東京本社文化部「産経歌壇」、

作品を縦に書き、横に選者名と住所・名前・電話番号。

選者の短歌

伊藤一彦・・・毎日新聞の選者と同じ。

小島ゆかり

  • 部屋中を片付け終へてふかぶかと坐るさびしさ われが残りぬ
  • 鐘りんごん林檎ぎんごん霜の夜は林檎のなかに鐘がなるなり
  • 月ひと夜ふた夜満ちつつ厨房にむりッむりッとたまねぎ芽吹く
  • 温水(ぬるみづ)の田螺おそるべし藻を食みてじつと交(つる)みてぞくぞくと殖ゆ
  • なにゆゑに自販機となり夜の街に立つてゐるのか使徒十二人
  • 終ります白梅散りて 終ります紅梅散りて いつか終ります

 

東京新聞(掲載日:日曜日)

ネットでも投稿可能。難しいです、お年寄り、病院、古語などの教養から来る表現の難しさ、青春の歌、原発などの歌が入選する可能性が高いように思います。選者を選び基本的にネットで投稿します。ちなみに私は青春の短歌を送って最近掲載されました。

選者・・・佐々木幸綱(朝日新聞)、岡野弘彦(読売新聞)

掲載日・日曜日

郵便はがき1枚に、選者を指定した上で未発表作品を3首・句まで。同じ面に住所、氏名・筆名(ふりがな)、電話番号、年齢、職業を明記し、〒100-8525(住所不要) 東京新聞文化部歌壇・俳壇係へ。二重投稿はご遠慮ください。

ウェブでも受け付け(東京新聞の公式サイトより)

 

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