【書評】青ペン効果。信じるか信じないかは・・・『頭がよくなる 青ペン書きなぐり勉強法』(相川 秀希・KADOKAWA/中経出版)
2016/05/20
『頭がよくなる 青ペン書きなぐり勉強法』(相川 秀希・KADOKAWA/中経出版)
早稲田塾にいたときのこと
自分が高校生の時「早稲田塾」という予備校に通っていたことがあった。
ラウンジに雑誌「TIME」が置かれている環境、朝日新聞の「天声人語」をひたすら書き写す特訓、全ての教科を一冊のノートにまとめる勉強法など他の予備校にはない独特の雰囲気はなかなか面白かった。
が、一か月ぐらい続けたところで辞めた。
「頭のよくなる水」、手厚いメンター、あいさつの徹底など勉強以外の要素が気持ち悪く「これだけ準備してもらって、おもてなしをしてもらわないと勉強できない塾とはなんぞや」と思ってのことである。今になって考えるに、あれはキャンプファイヤーを楽しむ受講者を写した免許合宿のパンフレットに近い雰囲気。
俺はただ免許が欲しいだけなのだ。そういうのはいらん、といったところ。
青ペン勉強法について
閑話休題、その学び舎で行われていた勉強法の一つに「青ペン勉強法」というものがあった。要するに「青ペンでひたすらノートに書き続けろ」という至極単純なメソッド、今回取り上げる『頭がよくなる 青ペン書きなぐり勉強法』はその詳しいやり方や実績について早稲田塾の創業者の手によって書かれた本だ。
「青ペンで勉強すれば合格する」という受験生の間では昔から有名な都市伝説を早稲田塾では徹底させていて、塾生はほとんどみんな青ペンで勉強していたことを読んでいて思い出した。だが個人でこの勉強法を行う場合には次第に青で染め上げられていくノートを見て、気持ち悪くなるか、達成感を得るかがハマるかどうかの境目だろう。
科学的根拠は脆い。青ペンで勉強すると「副交感神経に作用し集中状態に入りやすいと言われている」、普段と違う色を使うことで「記憶力アップ」、テレビ番組「Rの法則」などで実際に効果があった、と統計的にも実に残念な調査方法で、青で書き続けたら普段つかっている色になって「記憶力アップ」とは言えないんじゃ・・・とツッコミどころが続々出てくる。
重要なのは信じること
しかし、重要なのは科学的根拠ではない。この本でも実際に「信じる」ことの重要性が繰り返し説かれている(信じよ!)、実際に手を動かし青インキのゲルがどんどん減っていって(身体性)、積み上げられたノートに自分がどれだけ頑張ったかがわかることが大事なのだ(視覚化)
つまり、修行みたいなものだ。青ペンだからハーバードに合格したのかどうかの因果関係もわからず、科学でまだ詳しく立証もされてないので全面的に依拠することこそ重要なのである。だからこれを従順にやる人ほど資格取得や受験は上手くいくと思う、確率的に。
なので科目や試験の質によっては音読勉強のほうが効果的だったり、時間のない中でこれはやめたほうが・・・とこの勉強法を試みている人に何かを言うのは「信仰」にけちつけるようなもので聞く耳を持たないだろう。それに一種信じることで学習効率が上がるのはよくある。この受験参考書を買えば受かる、この先生についていけば、この予備校に行けば・・・それによってやる気は駆動する。「青ペン勉強法」もそのうちのひとつなのだ。
信仰を補強するには共同体意識
だが、一度信仰に疑いを抱いたら大変だ。そうなった時におすすめの方法として青ペン仲間を見つけるか(共同体化するか)敵を見つけることで、効果があると信じつづけることである。そのため青ペン気に食わねえと赤ペン勉強法や緑ペン勉強法と言った輩が出てくれば御の字だ、赤で興奮させて勉強へのやる気を引き出す、緑のパワーは自然の中にいるように人々を勉強のストレスから解放するとか言って、色ペン勉強法同士の紛争が起きたり、「あいつはアカだ」と言って殺伐とした受験勉強がさらに殺伐となれば非常に楽しい。
もう一つの方法として、もし共同体の信仰が合わなかったり、殺伐とした雰囲気も嫌だったら別の信仰に移行すれば良い。疑念を抱いたときに疑念を抱く自分が駄目だと思ったり、「これしかない」という方法で固執するのはかえって精神衛生上よろしくない、「自分が何をしたいのか」を考えてそういうときはスパッと諦めるのも一つの手だ。
青ペン勉強法は自分に合っていたか?
予備校の自習室脇で「青ペン・・・こんだけ減ってるんだよ・・・ひひひ」とつぶやいている人たちを見て一気に冷めた。
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