貞子は実在した!?『映画で読み解く都市伝説』(ASIOS・洋泉社刊)
呪い、陰謀、超能力、アポロ計画、UFO、超古代文明……。
これらの題材は映画というメディアに、ときには馬鹿げたB級作品として、ときには真面目な「実話」系作品として繰り返し引用される。
洋泉社から刊行された『映画で学ぶ都市伝説』は、「Association for Skeptical Investigation of Supernatural」(超常現象の懐疑的調査のための会)=通称「ASIOS(アシオス)」が、それら映画に流入した都市伝説がいったい本当はどのような事件だったのかをX-FILEの捜査員以上の実力で徹底追求した本である。
洋泉社
売り上げランキング: 8104
実際にあったと言われる悪魔祓い事件をもとにした『エクソシスト』、兵士を薬物によってコントロールしようとしたCIAの実験「MKウルトラ」を題材にした『エージェント・ウルトラ』、他にも「アポロ陰謀論」を下敷きにした『カプリコン・1』など本書で取り上げる都市伝説は多種多様。
題材が多岐に渡るため本書に興味を持つような人は当然知っている話題も多いだろう。
しかし映画を切り口にして都市伝説を深く探っていく映画本は今まであまり存在しなかった。アシオスは英語文献の解読や実地調査をすることで神秘のベールをボロボロと剥がしていく、そのことに都市伝説好きとしてまったく嫌な思いをしないのが本書の凄いところである。
なぜなら本書はTVタックルの大槻教授のように相手を論破しようというのではなく、好奇心で物事の謎を解明しようとする精神で突き進んでいくからだ。
ポニーキャニオン
売り上げランキング: 19032
たとえば『リング』に出てくる呪いのビデオ、その呪いの起源として劇中で念写の事件が語られるのだが、それは1910年に日本で実際に行われた公開実験が元となっている。
映画では念写に成功したものの世間や学者からインチキだと叩かれたために女性は絶望し自殺するという結末だったが、現実においてはこの実験が行われたことがきっかけで「千里眼ブーム」が起きたというのが面白い。
この論考を執筆した著者の調査によると「貞子」のモデルはこの実験に参加した女性とその後実験の提唱者である博士が出会った高橋貞子という人物が元となっているとのこと。しかしその高橋貞子さんも特に絶望堕ちすることなく晩年は郷里の岡山で心霊治療をして特に恨んで死んだわけではないようだ。との報告にホッコリ。
Happinet(SB)(D)
売り上げランキング: 68205
また「M資金」の話題も面白かった。M資金は本土決戦に備えて隠匿していた財産がGHQに押収されずいまも極秘裏に運用されているといったたぐいの都市伝説である。正直これは自分は相当信じていた。なんかまあ、あるんじゃないかなぐらいの気持ちで。
でもどうやら「一部の人しか知らないお金を運用している謎の人物」という語り方は詐欺話の常套手段として古くから存在するというのだ。(「スペインの囚人」という手口らしい)
都市伝説は本当に面白い。ある平凡な事件が、別の事件との間に類似性を発見した瞬間その出来事は輝きを増し背後関係や意味を求め始める、いわば出来事を偶然ではなく必然だと思ってしまう。結果としてある映画に出演した俳優や携わったスタッフがたまたま何人か亡くなったことでその作品を呪われた映画と名指したり、上空に怪音が鳴り響いた現象が続くと「黙示録のラッパ」だと信じる態度が生まれる。
面白さで済んでいるうちはまだよいが、力あるフィクションがときにはある種の偏見や悪意ある陰謀論と結びつくと非常に恐ろしいことにもなる。だから「はい!いったん目を覚ましましょうね!」と優しく面白く語ってくれる本書はとても貴重で重要な著作だと思う。
関連記事
-
-
旅を本当に楽しむための本『旅を楽しむ!トリビア大百科』
一時期、「1秒間」に世界ではどんな出来事が起きているかという広告が電車内に掲載さ …
-
-
本を開きて人が来る、磯井純充『本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた』(学芸出版社)書評
中学生の頃『耳をすませば』に憧れ、蔵書が凄い図書室を持つ高校(自分にとっては非 …
-
-
映画→詩←映画『英詩と映画』評
検索「映画インターステラー 詩」でこのサイトにたどり着く人が多い。それだけこの映 …
-
-
~哲学者の苛烈な批判~、ショーペンハウエル『読書について』(コンクール用の下書き)
毎年、光文社では課題本を設け「古典新訳文庫エッセイコンクール」と称し幅広く文章 …
-
-
大山卓也著『ナタリーってこうなってたのか』(双葉社)評
ネットで記事を書いていると、文章術含め色んな人が色んなことを言っているなあと思っ …
-
-
デアゴスティーニ『隔週刊 映画クレヨンしんちゃん DVDコレクション』の刊行順にオトナの匂い
最近、書店で見かけてちょっとビックリしたのがデアゴスティーニから刊行された「映画 …
-
-
【書評】言葉以外を武器として『フィログラフィックス 哲学をデザインする』(ジェニス・カレーラス・フィルムアート社)
フィルムアート社から4月に出版されたジェニス・カレーラス著『フィログラフィックス …
-
-
シャットダウン!ゴミ情報!『情報の「捨て方」』(成毛眞・角川新書)感想
一日ネットの海を漂って、ボーっとしているだけでもおそろしいほどの「情報」が溜まる …
-
-
子どもが常に好奇心を持っているなんて大間違い!『子どもは40000回質問する』(イアン・レズリー/光文社)感想
40000回、これは2歳から5歳までに子供が説明を求める質問の平均回数だという。 …
-
-
料理は名前だ!『「平野レミ」のつぶやきごはん』(宝島社)書評
料理研究家・平野レミがゲスト回の「ゴロウ×デラックス」(2015年2月12日放送 …