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子どもが常に好奇心を持っているなんて大間違い!『子どもは40000回質問する』(イアン・レズリー/光文社)感想

   

40000回、これは2歳から5歳までに子供が説明を求める質問の平均回数だという。

このように子どもは「なぜ?」を多く使用し、大人は「なぜ?」と問うことがどんどん少なくなる。

さて何故だろう?

イアン・レズリーの著書『子どもは40000回質問する~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~』(須川綾子[訳]/光文社)は、この何故?という「好奇心」こそが現代を生きる上で何よりも重要なことだと教えてくれる非常に射程の広い本だった。

いちばん最初の「拡散的好奇心」

著者は次々と興味が沸いてくる好奇心を「拡散的好奇心」と呼ぶ。

P41「拡散的好奇心は知識の探求の第一歩だ。最新の情報、これまでにない経験や感動、挑戦を求める強い感情が原動力となる。だが、それはあくまでも始まりにすぎない。」

新たな情報を常に探し求め、秩序がなく落ち着きのない態度。インターネット的な知のありかたとも共通する絶え間ない情報の摂取。古代から連綿と続く好奇心に関しての批判はこの「拡散的好奇心」に当てはまるようだ。

しかしこの気もそぞろな拡散的好奇心は子供の「なぜなぜ?」質問とも共通する。子どもの意味不明な質問は物事の間の距離を測っている「探索」であり、好奇心を散らばらせることは不確定な未来に備える先行投資的な情報摂取の意味合いがある。

*お父さんもサルだったの?空は落ちてこないの?など。

 

情報を活用する「専門的好奇心」

そして大人になるにつれて摂取した情報を人は「活用」するようになる。

いわば情報に秩序を与えていく。これを「専門的好奇心」と呼ぶ。物事の距離を自明視して遠くに疑問を飛ばさなくなり、ある意味で人は「怠け者」になる代わりに秩序を与えられた情報は有用なものとなる。

拡散的好奇心による「探索」があるからこそ専門的好奇心による「活用」が生じるのであり、専門的好奇心での解決が無理だったら拡散的好奇心を駆動させる。好奇心のメカニズムを知ったうえでうまく両者のバランスをとることが重要なのだというのが本書のテーマである。

 

子どもは常に好奇心があるわけではないという驚くべき事実

それを踏まえると「子どもは常に好奇心があるわけではない」という著者の発言には驚くだろう。子どもは拡散的好奇心があるのではなかったのか?と。なにより書籍のタイトルと反するではないかと。

確かに子どもは「自然」に育つ。しかし好奇心の状況は大人がいる環境によって大きく左右される。

現在の研究によると子どもがなにかを指さしているときや、対象に向かってアーと喋っているときに好奇心は発生しており、それを教える人がいることでより子どもの好奇心は育つのである。

では好奇心を示しているときに応答しなかったら?

そのときは好奇心を示すことを子どもはやめてしまう。

 

より多く質問する家庭は高所得者層が多い

結果なにがおこるか?「高所得者層の子は低所得者層の子よりも多く質問する」状況となる

自然に育てた子供が劣っているわけではない(ここら辺の著者の議論は慎重で誠実である)親がいくつもの仕事を掛け持ちしているために、子育てを自然に任せた家庭の子供は自分たちだけで楽しむ力が備わり、何時間も一人で没頭する力がつくという。それに引き換え中産階級の子どもには特権的な階級意識をあらわれるとも。

けれど質問を多くする家庭の子どものほうが「社会」で必要とされる能力、言語の活用や推論、分析力は間違いなく身につく。これらの力は社会生活を営む上で非常に重要な要素ゆえに所得階層は上昇する。

 

リスクの高い「自然に育てる教育」

質問に多く答えられる家庭とそうでない家庭、著者は経済的格差よりもこの好奇心格差が広がっている現状に警鐘を鳴らす。そのため子供は自然に育てることを至上命題に掲げる教育に著者は否定的だ。

古くは哲学者ルソーにさかのぼるこの思想は、論理よりも感性、子どもたちの自由重視、指導役の教師は必要ないという点が共通している。

実はそれを教える人が現代社会の中で裕福な状況であるというチクリとした皮肉とともに、このような教育は耳触りは良いが階層固定のリスクを孕んでいると述べた後、今までの意見を著者はまとめる。

大人が多様な知識(しばしば押しつけを含む)を教えてこそ、より子どもの好奇心は駆動していくのだ、と。

 

好奇心はしぼむ。しぼませないための方法が本書にはある

さて大人はどうか。

好奇心旺盛だった子供時代を過ごしていても情報を活用ばかりしているうちに拡散的好奇心はしぼみ始める。

データ的な知識が有用とされる社会での専門的好奇心の優位、突飛だと思われないために質問を控える行為、さらに自信不足や自信過剰など好奇心がしぼむ状況に私たちは囲われている。

だが私たちは好奇心を生み出す環境を自ら整えることも可能だ。

新しい企業は問いを発する必要があるから前に進み、一流企業は過去の情報を活用するから停滞してしまうイノベーションのジレンマの実例話としてディズニーとピクサーを取り上げたり、調べる際のフラストレーションは学習効果を上げるなど本書の後半は自分の領域の外に意識的に目を向けるアイデアが多く収録されている。

古い方法が次々に役立たなくなるこの時代において拡散的好奇心と専門的好奇心のバランスをどう取るべきか考えることは非常に大切なことである。タイトルに「子ども」と付いていても多くの人に関係するので是非読んでほしい良書だった。本書を読んだ後では今の職業訓練的な大学教育のあり方やコミュニケーションを重視する文部科学省の方針が実にばかばかしいものだとわかるはずだ。

 

(おまけ)本書で紹介されていた気になる書籍。

 - 書評

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