大山卓也著『ナタリーってこうなってたのか』(双葉社)評
2015/12/02
ネットで記事を書いていると、文章術含め色んな人が色んなことを言っているなあと思ったこの半年。PV数やら直帰率やらデザインとか、でもなんかしっくりこないんだよなあと思っているとき、書店でふと見つけて立ち読みしたら「ヤバい、面白い!」と衝動買いしてしまったのがこの本
『ナタリーってこうなってたのか』
そもそもナタリーって?
株式会社ナターシャが運営するポップカルチャー中心のニュースサイトである。音楽、お笑い、漫画などの記事を日々配信しているが驚くべきはその更新頻度。2013年7月時点で月間約2000本の記事を配信しているとwikipediaに書かれているが、『ナタリーってこうなってたのか』によるとおそらく現在は一日100本程度、毎日薄い新書一冊分ぐらいの文字数とのこと。
ナタリーを運営している株式会社ナターシャの創始者・大橋卓也が、その始まりから現在までを語ったのがこの本だ。
一日平均100記事の凄さ
一日平均100記事、それを毎日。実際に文章を書いてみればわかるがこれ、かなり異常な数である。なおかつ記事はtwitterでつぶやかれたものをまとめたり、単純にプレスリリースをコピペするというものではない。あくまで実際に記者が書き、不明なところは取材するという手続きを踏んでの数なのだ。
このように、次々と更新されるそのスピードと編集方針に関する秘密の一端が
この本でわかる。
わかったけど、
それは凄い地道な作業だった・・・。
ナタリーの編集方針と舞台裏
ナタリーの編集方針は2つ
①批評はしない
②全部やる
である。この方針はゲーム雑誌の編集者であった著者が、2001年に始めた「ミュージックマシーン」というサイトが元となっている。
(ちなみに「ミュージックマシーンの登場はとにかく衝撃だった。圧倒的に新しかった。(中略)それこそ、365日、毎日本当にマシーンのように更新されていたんだよね。」とは後半の138ページ「唐木元」と対談する津田大介の発言)
これを続けるためのスタイルがこちら。
具体的には記者全員が朝十時に出社して、一人あたり数百件のウェブサイトをひたすらチェックする。アーティストや漫画家、事務所。出版社、レコード会社などのtwitterアカウントもリストで巡回する。あらゆる媒体に目を通してネタを拾い、毎日数百通届くプレスリリースをチェックし、それらをもとに多いときで一人あたり十数本の記事を書く。合間にインタビュー原稿をまとめ、記者会見の現場を訪れ、写真のセレクトをして、夜はライブに行ってレポート記事を書く。さらに朝から晩まで電話取材。(本書p62より抜粋)
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うーん、凄い(笑)
「どれもオールドなニュースメディアがやっていた愚直な作業だ」と著者。文化的な記事は個人のエモーショナルな部分が入り込みすぎてしまい、それをやらないでスピード重視&客観的な記事にするのは情報を読む人にとって記者個人の感想は不要であり読み手が自由に選択できるものを妨げるからだと言う。
うむむ、文化的なものに関して文章を書くとわかるがそれって本当に難しい。自分の思い入れのあるものほど熱っぽく人生観を込めて書こうとしてしまう。そして、そうじゃないと退屈で伝わらないという思い込みも強い。
しかし、著者はそれに対して簡潔な文章の隙間に溢れるファン目線と、出来事がエモーショナルだからこそ丁寧に記事にすることでそれを追体験できる「ナタリーらしさ」を語る。
ひとつのことを続ける。その当たり前のことをする勇気がもらえる
情報を全部、簡潔に。というそうした思想から生まれた記事によって起こるのはポップカルチャーのゆるやかな繋がりである。例えばコミック、音楽、お笑いにそこまで詳しくない自分でも、キャラクターグッズには興味がある、お笑い芸人がアニメ映画の声優に抜擢というニュースだったら見たりする。フィギュアの出来や声優の不向きは各自が考えれば良く、逆にそういう情報が付与されていたら「重い」
この本にはもちろん、ナタリーの方針をつらぬくためにあった辛いこともたくさん書かれている。しかし「プロジェクトX」のように重くはない(凄いレベルで辛かったと思うけども)それこそ淡々とナタリーの記事のように書いていく。上手くいく瞬間ですら劇的ではない(そもそもナタリーにブレイクスルーは存在しないとかつて取締役の唐木元がトークショーで語っていた)
キュレーションやまとめ記事、時流におもねった記事、炎上を狙ってPV数を書くというネットの流れのなかで「オールドメディア」を掲げ、しかし21世紀的なスピードを狙い試行錯誤を繰り返すナタリーはめちゃくちゃ輝いて見える。ネット上で多くの人が書評を書いてる理由がわかる。これは仕事の本でもあるし、ひとつのことを続ける「美学」の本でもあるからだ。 この本はだからネットカルチャーにあまり興味ない人にも是非読んでほしい。
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