「第十九回文学フリマ」へ行って買ってつらつら思ったこと
2015/12/02
11月24日(祝)に行われた「第十九回文学フリマ」に行ってきました。前回行ったのは、たしか東浩紀のゼロアカ道場関係で、あーあれは何年前だ。会場が今のところになる前だから・・・(考えたくない)
その時は、「うわあ、こんな表現したい人がいるのか」という感じで気後れしてしまい非常に疲れたけど、今回はまあ一応それから色々やってきたので少し考える余裕も出来て非常に楽しかったです。
とは言いつつも当日はオールで飲んで風邪ひいて、会場の「流通センター」についたのは15:30という事態(会場は17時終わり)知り合いの知り合いが多いのであまり挨拶することもできずバタバタとまわって終わってしまいました。他にも欲しいものがあったけど今回買ったのはこんな感じ。
Contents
- 1 【文学フリマ購入品①】「ムショクリリック」
- 2 【文学フリマ購入品②】『ブートレグ カタログ』
- 3 【文学フリマ購入品③】『エクリヲvol1』
- 4 【文学フリマ購入品④】『ことばの映画館vol1』
- 5 【文学フリマ購入品⑤】100円で買った古井由吉『杳子』論「病の正体と反復への抵抗」(小西まこと)
- 6 【文学フリマ購入品⑥】「青と茜と砂漠の国」
- 7 【文学フリマ購入品⑦】『旅人よ立ち止まれ』
- 8 【文学フリマ購入品⑧】『はならび 5号』
- 9 【文学フリマ購入品⑨】『率vol7<前衛短歌>再考』
- 10 【文学フリマ購入品⑩】『トルタの国語 偉人の書』
- 11 【文学フリマ購入品⑪】『早稲田詩人33』
- 12 終わりに
【文学フリマ購入品①】「ムショクリリック」
無職なので購入。女性によるアダルトビデオのモザイクがけバイトの文章と無職を社会の中の余白と捉える文章が新鮮。「個として切れるための読書論」という論考も日ごろ感じてたことを言葉にしてあって面白かった。読書を集団から切れてしまった自分を生かすための修養としてとらえるけど教養主義的な路線は採用しない方向、その場合どういう方向の読書論を構築できるかなど考えることは多い。
あと編集長に怒られているけれど無職のための節約術もけっこう使える。どっかのサイトでまとめたらPV数稼げる感じ、そういう悪いことに使われないことを願う。白の装丁に白抜き文字というのが無職感あってイカす。みんな身を切るように書いていて認知症のジジイの叫び声が聞こえる郊外のお部屋で「頑張ろう」と思った。
【文学フリマ購入品②】『ブートレグ カタログ』
いつも売り切れる映画本。今回は「あなたの知らない映画」特集、「いやいや、そんな」と見てみると本当に知らない映画ばかりという恐ろしさに背筋が寒くなる。ここに列挙されているのはカルト映画と言うわけでもない(カルト映画という意味ではそういう映画はけっこう観られている)映画祭で一回だけ上映したものや日本では公開されない作品、陳列棚にはあるのに見られてない作品を取り上げている
。「なぜ幻の作品なのか!」という憤り(「タイムリミットは午後三時」「ブラッド・イン ブラッド・アウト」等)と「これは幻のままで!」(「ユニバG物語」や幸福の科学の古い映画等)という恐怖の両方を味わえる本。新宿の「ビデオマーケット」という輸入DVDなどを売っている店に置いてあるそう。どうでもいいけど「とみさわ昭仁」はやっぱり正気でありながら頭おかしいと思った。「煙草を吸う時の長い灰が映っている映画」を集めるなんて思いついてもやらない(笑)最高。
【文学フリマ購入品③】『エクリヲvol1』
レオス・カラックス特集。彼の映画に関してはパンフレット等でも、80・90年代のまだ景気が良かった名残からかファッションについてやオシャレだとかで映画自体について真剣に語っている文章が案外少なかった。なのでこの特集は嬉しい。プロデューサーである堀越謙三のインタビューはのっけからカラックスを題材にしたドキュメンタリー映画「Mr・X」への辛口話から始まるし、1979年に『カイエ・デュ・シネマ』に掲載されたカラックスの『パラダイス・アレイ』評も和訳されて凄い。
そういう興味を持って「買わせる企画」で十分おつりがくるのだけれど、それ以上に各種論考が新鮮で面白かった。特に谷口淳という人の論考、『ボーイ・ミーツ・ガール』って本当に「ボーイ・ミーツ・ガール」なの?とか『汚れた血』のアレックスの疾走ってどういうこと等の視点、1991年生まれか、マジか。それ以外の論考もカラックスの固定化された神話に挑戦してて本当に脳が疼いた。他にも高井くららと言う人のアニメ「Free!」についての評論はあらすじ紹介が上手いのでアニメ評論が苦手な自分でも納得しながら面白く読めた(アニメ評論はあらすじの切り取り方に難があることが多い)佐々木敦の「批評家養成ギブス」関連の出展が多く、このサークルはそのなかのひとつ。他にも欲しかったけどマネーが、スイマセン。
【文学フリマ購入品④】『ことばの映画館vol1』
「シネマ・キャンプ」という映画ライター講座の受講生による冊子。
実は参加しようと思ったけど、時間とこのサイトを作りたくて断念した思い出。ここの映画に関する分析というよりも、それぞれの思い入れある映画を何とかして言葉によって「捉えたい」という熱意が叙情的な文体となってグッとくる。装丁も素晴らしく、なんと200円。新宿の模索舎に置いてあるみたいです。この雑誌を読んで『あの娘が浜辺で踊ってる』、『ぼんとリンちゃん』が見たくなった。
あと「シネマ・キャンプ」は2015年一月から第二弾もやるとのこと。http://cinema-camp.jimdo.com/
【文学フリマ購入品⑤】100円で買った古井由吉『杳子』論「病の正体と反復への抵抗」(小西まこと)
こういう細かいピンポイントな論考を買えるのが文学フリマの良さ。
見る→見られる描写を図入りで説明していたり丁寧に評論している。後半、見る→見られる関係と境界との繋がりが少しわからなかったけど『杳子』を読んだのはだいぶ前なのでもう一度読み直してみることに、あの健康な姉ちゃんの描写ヤバかったなー。
【文学フリマ購入品⑥】「青と茜と砂漠の国」
twitterでフォローしてる人で、モロッコ女性一人旅の「お話」をまとめた冊子。
これが本当に素晴らしくて、特にその写真は一読したら確実に心を奪われる(雑誌『TRANSIT』に匹敵する)単純な散文ではなく詩や逸話、空想が写真と共に調和していく文体にチャトウィンの『パタゴニア』を思い出した。でも美しいだけではなく、旅に感じる気まずさもちゃんと書いていて、だから一人旅イエーーーー!みたいな文章ではない。ただ見に行きたいから行くという奥ゆかしい文体に感情移入してしまうからこそ、「美しい」サハラ砂漠の夢のイメージが観光客のfacebook的日本語によって崩壊する詩には本当に胸がつまった。
巻末にいくらかかったのかの旅の報告も嬉しい。「モロッコに行きたい!」と心から思った(幾人かに見せて証明済み。みんなモロッコに行きたくなった)
【文学フリマ購入品⑦】『旅人よ立ち止まれ』
というわけで、「青と茜と砂漠の国」が面白かったので、バックナンバーであるこっちの雑誌も衝動買いしてしまったわけです。学生時代に世界中を旅行した記録を一冊に凝縮した贅沢な本。特に「ギリシア篇」が好きだった。自分もこういうことあったなあと思い出したので。
【文学フリマ購入品⑧】『はならび 5号』
文フリに出品している短歌は市場にある魚のようで、新鮮な短歌が200円で買えてお金の無い身にはとてもお得で嬉しい、そして美味しい(映画のパンフみたいな装丁が好み)本屋で売っている歌集は買うとある程度の値段するし失敗すると悲しいから文学フリマの歌集まとめはリスクヘッジという観点からもお勧めなのです。(ほとんど失敗しないし)
- 「捨てられた地図に広がる海をつきぬけて然りと咲く視神経」(櫛名田涼子)
- 「接吻がすべての光 飛び出せば星の多くは既に死んでいる」(久石ソナ)
- 「そこだけが公園の影すねを蚊に差し出したままベンチに眠る」(山階基)
病床に沁みる短歌。
【文学フリマ購入品⑨】『率vol7<前衛短歌>再考』
短歌の初心者で面白いものを面白いとしか言えない語彙の持ち主で、新聞歌壇から入りNHK短歌が好きなそんな自分に「前衛短歌」論がわかるのかなと恐る恐るだったけど、読み方が開かれて勉強になる(詩論より文章わかりやすい)。
どのジャンルでも批評と創作ってやっぱりセットのほうが良くて、短歌はそれがうまく組み合わさっている印象を受けているので本当に憧れる。つまり、こういう論があるのを意識しないで一人で作り続けるとよくある安易なイメージしか歌に乗せられないという感覚。それは巻末の掲載短歌を見ても、どんだけ短歌に対して真剣なのかわかる、軽い短歌のように見えても重みがある。
- 「引火するしゃぼんだまから乳歯なく手をふる空の色ひとつ抜く」(瀬戸夏子)
- 「低気圧だからフローリングにへばりつく 水曜が性格を持つ」(平岡直子)
- 「殺してもいいけどここからここまでは親に届けてあげて泣くから」(松永洋平)
- 「一度だけ繋いだ手から傘を出しひらいた 傘は雨に痺れる」(薮内亮輔)
- 「西方へ天象めぐる 亡霊は生者の海賊版(ブートレク)に過ぎねば」(吉田隼人)
【文学フリマ購入品⑩】『トルタの国語 偉人の書』
企画としては「国語教科書の装丁」というおかしさで興味を引き、なおかつ収録の詩はどれもこれも凄まじいという本当に文学フリマに来てよかったと思える一冊。
現代詩のトップランナーたちが楽しんで作っている様子が浮かんでくるし、おかしいやらシリアスやらで読んでいる最中は感情が行ったり来たりと忙しい、でもグイグイ読めちゃう(学校の教科書よりちゃんと読んでる)「ノイマン」「フーコー」「北斎」「吉本隆明」etc・・・とそれぞれの「偉人」についての捉え方が面白い。冒頭から「土器を作った人と米を作った人」だし(笑)、でも決してふざけてないのはここに載っている「始祖のリズム」(草間小鳥子)という詩からもわかる。あと大崎清夏のピナ・バウシュについての詩「世界が踊っているのだから」は震えが起きるし、ノーム・チョムスキーについての河野聡子の詩は上手い。ゲーテが書いた履歴書に笑う。フーコーが短歌を読んだら、バルトが短歌を読んだら、ダーウィンが短歌を読んだら・・・良い詩を読みたいと思っているなら即購入。
【文学フリマ購入品⑪】『早稲田詩人33』
自分が参加してた時よりも装丁のレベルが上がってて何だか笑ってしまった。一人だけ知っている人の詩を見つけて、それが昔書いた詩とは大きく異なっていて本当に驚いた。「深み」っていうとあまりに言葉足らずだけど、そういう思いを抱く。当たり前のこと、会ってないうちに色んなことを経験したんだなあとわかる。
そして書くことを続けてきたからここまでのレベルにたどりついたんだなと思い、詩をまったく読まない友人にその「幻影」という作品を見せたら「俺はこれ凄い好きだよ」とストレートに感情が出てきて、それはそれは悔しかった。
その他の作品は正直それに比べるとピンと来なかった。ただそれでも作り手が作品だと思ったのなら提出して、批評されるというのは大事なことだと思う。
終わりに
文学フリマの会場は表現欲求が凝縮しているわけだから熱気に少し心がやられてしまうこともある。
けれど今の世のなか自分の実力を試せるところなんてほとんどない。市場ばかり強くて文章は鍛錬できるにもかかわらず予選がない、いきなりプロを目指せとなる。
そういうことではなくて、「本物」という圧倒的な才能も確かに存在するので、その凄さを見られる場として文学フリマは良い場所だと見方が変わった。レベルがバラバラだからこそ文章の巧拙をキチンと見るチャンスにもなり、それが自分の癖を見つけることにもつながっていくと思う。
*ここに載ってある雑誌は新宿の「模索社」や中野の「タコシェ」、新宿のビデオマーケットなどで買えるものも多いと思いますし、気になった雑誌は検索すれば大体の人がtwitterをやっているので連絡してみると快く対応してくれます。
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