トレーダー分岐点

新刊本や新作映画、アニメの感想などを書き続けるサイト|トレーダー分岐点

*

【書評】おそるべきめいちょ『ニュースをネットで読むと「バカ」になる ソーシャルメディア時代のジャーナリズム論』(上杉 隆著、KKベストセラーズ刊)

      2015/11/27

様々な歴史的な経緯を経て、ネットには大手メディアが報じない真実があるというのは嘘であると言う著者の言葉は、氏の著作(たとえば『なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるのか』など)でネットの未来を語っていたがゆえに苦渋の言葉だろう。その心労は察するに余りある。

著者の苦悩が満ちている本

その苦悩ゆえだろうか。大先輩であり尊敬していた池上彰を自ら調査せずジャーナリストではないと強めの言葉で非難するとき、自身の著作を使用する許可を池上彰が求めた際に署名入りを要求したが返事はなかったということを例にあげているが、氏はそれがどういう著作のどういう文章に関して求められたのかという「エビデンス」を書き忘れている。

エビデンスを書かなければならないという趣旨の本でもエビデンスを書き忘れることもある、読み手にとっては実に強い教訓だ

ある一つの記事にとってソース、クレジット、コレクション、バイライン(署名)、オプエド(記事内においての反対意見)こそが重要であり、それを踏まえたうえで自らの足で取材し、実際に調べていく誠実な態度こそジャーナリストたりえるという著者の言葉は「ニューヨークタイムズ」で世界基準の取材方法を学んでいるからこそ言えるのだろう。

日本ではコメンテーターが別分野に対しても堂々と発言し、評論家とジャーナリストの区別がなされないまま、ジャーナリストの立場が弱いことや記事に関しても匿名的な状況にあることを氏は「クレジットやソースがないのであれば空想で記事を書くことが出来る」と強く懸念している。

出てくる敵の数々

そういう「誠実」な態度だからか、それにしても非常に敵が多い、著者への圧力も常にかかっているようだ、一読者の私にはそれが見えづらく誰と戦っているのかがよくわからないが、非常に巨大な悪と戦っているらしく、たまに羅列される名前には現在の首相まで出てくる、大変である。

「彼らの悪しき特徴は、ジャーナリストなり論客としてメディアに出ている割には、議論には応じないことである。ツイッターなどでは挑戦的な発言を繰り返しているネットジャーナリストやネット評論家に限って直接の論争を避けるのだ」p131

普通の人が書いたらブーメランのように返ってくる指摘も堂々と書けるのは、本人が自前のニュースサイト「オプエド」などで、現状のメディアの問題について真剣に考えているからだと察せられる。

反対意見をキチンと取り上げる、多様性に満ちた精神はこんな記述からもわかる。

絶対的に正しいという思い込み自体がリテラシーを身につけるための阻害要因になる」だからこそ「多少耳触りが悪くても、自分とは違う意見を聞く必要があるし、それにいちいち憤慨しないだけの度量を持ち合わせる必要があるだろう」(p198)

まず日本社会における情報リテラシーを強化していくことを辛抱強く続けていかないといけないと思う(p13)と述べているとおり、これからも数多くの敵を増やしながら上杉隆は戦うのだろう。そしてジャーナリズムの原則に基づかない報道や記事あるいは記者を「誠実」に批判していくのだろう。

著者はおそらくこの本すら鵜呑みにするなと言っているに違いない!

そうした信念を社会全体で育てていかないといけない。と本書冒頭で記しているとおり、わかりやすい言葉や美辞麗句で彩られた情報こそ我々は疑っていかねばならない。おそらく、そのように論じる著者の射程はこの本すらも視野に入れている。そうに違いない。『ニュースをネットで読むと「バカ」になる』という本自体が、ここにも様々な間違いがあるんだぞという読者のリテラシーを鍛えるための著者一流の仕掛けなのだ。

最後に自分が一番感動した言葉を引用して記事を終える。

「これは私がいつも言っていることだが、人間は誰だって間違えることがあるのだ。間違いを避ける以上に大切なのは、間違いがわかったら速やかに訂正して、新しい情報を伝えることである」(p132)

 

 

【関連記事】

 - 書評 ,

スポンサーリンク
スポンサーリンク

  関連記事

「最前線を走る創作者たちとのガチ語り」西尾維新『本題』(講談社)書評

  西尾維新:自分の中にはそのつど「今」しかなくて、かっちりと『こうい …

シャットダウン!ゴミ情報!『情報の「捨て方」』(成毛眞・角川新書)感想

一日ネットの海を漂って、ボーっとしているだけでもおそろしいほどの「情報」が溜まる …

ゆきゆきて80年代、斉藤守彦『80年代映画館物語』(洋泉社)書評

「1980年代の東京」 そこは当時を知ってる人の言葉でいうならば「世界中の映画が …

【書評】皿々に召還せし、人々の記憶『ラブレーの子供たち』(四方田犬彦・新潮社)

流石新潮社、豪華だわ…と思いながら四方田犬彦『ラブレーの子供たち』を読み進めた。 …

雑誌『POPEYE6月号』「僕の好きな映画」特集は時に面白く、たまにむかつく

男「ETってやっぱ面白いよね」 女「わかる。あたしなんてあのテーマ聞いただけでう …

日本酒の本を選ぶなら「はせがわ酒店」監修の『日本酒事典』を読もう!

このあいだの山同敦子『めざせ!日本酒の達人』(ちくま新書)の評で自分が何を言って …

村上春樹語る!川本三郎まとめる!貴重な映画本『映画をめぐる冒険』書評

村上春樹の貴重な本といえば若いころに村上龍と対談した『ウォーク・ドント・ラン』が …

いまふたたびの中つ国へ、別冊映画秘宝『中つ国サーガ読本』書評

ビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)の格好良すぎる表紙に書店で引き寄せられ …

映画館はつらいよ『映画館のつくり方』(映画芸術編集部)

映画好きなら1度は考えるかもしれない。 「映画館を運営するということ」 しかし、 …

ハルキストたちの本気『さんぽで感じる村上春樹』書評

村上春樹についての書籍は多くある。文学的、社会学的な立場からの学術的な書籍も多い …