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【書評】読んで燃えろ、見て燃えろ『激アツ!男の友情映画100』(洋泉社・映画秘宝EX)

      2015/11/27

友人として、相手を思い、また裏切らぬ真心】とは「新明解国語事典第6版」に記載されている【友情】についての熱い語釈である。「裏切らぬ真心」である…難しい!

人は成長するにつれ様々な社会的な「あれこれ」を学び、昔からの友達でも価値観が合わなくなって疎遠になったり、個人的な思いより社会の方を優先させてしまうことがあるからだ。(忙しいから今度また、とか社交辞令を使いだしたり)

でもだからこそ、その葛藤を描いたドラマに人々は共感する。今回紹介するのはそんな友情をテーマにした映画を精鋭ライター陣が熱い思いを込めて語ったものである。

その数100本!

s_洋泉社 男の友情映画 表紙

むう。書面が熱気に満ちているぜ…!

「映画秘宝EX」シリーズの一冊

この本は雑誌『映画秘宝』が各ジャンルのこれさえ観れば大丈夫!な映画を100本厳選した『映画秘宝EX』という季刊ムックシリーズの一冊である。

ジャンルでまとめているので紹介される作品は古い映画から今回の特集で言えばウェス・アンダーソン『グランド・ブダペスト・ホテル』や最強のインド友情映画『きっと、うまくいく』など最新のものまで取り上げられていて映画ビギナーでも取っつきやすい図版も多いうえに安いのも嬉しい!

なおかつホントにギリギリ良いところで解説を止めてくれる文章の巧みさ、書籍で言うならちょうど書評と批評の中間を意識したブックレビューのような形式であるため、読者がもう見た映画や誰もが知っている映画を、どう語るのかが面白いし文章の書き方が非常に勉強になるのだ。

例えばてらさわホーク評の『ロッキー3』では、1と2を通して敵だったアポロが腑抜けのロッキーを徹底的に鍛えなおすという友情が描かれている点、それこそがこの作品をシリーズ最高傑作にしていると高らかに(熱く!)宣言される(タンクトップ、ホットパンツ、ハイソックス着用で砂浜を一緒に走るシーンは自分もシリーズで一番素晴らしい特訓シーンだと思う。ロシアの山奥で大木を切る『ロッキー4』のアナログ筋トレ場面も好きだけど)

「友情映画」むかしといま

このように友情が描かれた作品群を見ていると日常・非日常問わず友情とは何かしら事態がピンチに陥った時に、その真価が問われるということに気づく。物事が終局に向かうにつれて、お前はどこまで付いてこれるのか?的な葛藤などは、ある種の寂しさや潔さ、男の美学へと通じるため友情映画の傑作は「西部劇」というジャンルに多い。

近年ではそうした男はもうあまり描かれない(描けない?)。女性を排したシンプルな物語は、男らしさよりも少年の連帯感、次なるライフステージへ進むことへの不安といった流行の「ブロマンス」作品が主流となっている。

また今まであまり焦点が当てられなかった女性の友情映画に関しても『映画系女子がゆく!』の著者・真魚八重子がコラム形式でガッツリ紹介されており「友情」について考えるうえでバランスが良い。

真魚さんによると女性スタッフが作った女性友情映画はリアリティやストーリーテリングの面で男性が描く「女性」友情映画とは異なると言う。そして最近の作品の潮流を解説し、今後は女性が不得手とされていたジャンルで(例えばホラーなど)女性スタッフの優れた友情映画が出てくるだろうという彼女の発言には、新たな友情映画の到来を予感させ胸が高鳴った。

時代が変わっても友情の概念は変わらないかもしれない、しかし友情の描かれ方は作り手たちが属する時代とともに変わっていくのだ。

自分が選ぶ友情映画三本

*自分だったら何を友情映画として薦めるかな?と考えながら読むのも楽しい、結論としては岡本喜八の『近頃、なぜかチャールストン』、若松孝二の『我に撃つ用意あり』、洋画だと『バベットの晩餐会』の三本に決定。

*紹介されている映画の中で思い出深いのが『スーパーバッド童貞ウォーズ』、人に勧めるたびにまったく文脈を知らない人にはタイトルを言うと絶対「えー」という顔をされるけど(本当に、本当に素晴らしいのに!)、パーティーのお酒を入手するために頑張るボンクラどもがそれぞれ成長する瞬間のきらめき、特にこの本では語られなかったけど登場人物の一人が警察官と交わす会話シーンの美しさは涙がポポロ。TSUTAYAで100円で借りられるし、DVDも安いから必見!

あなたは私の上官です。友達でもある。今までもこれからも友達です。

『スター・トレック2/カーンの逆襲』よりミスタースポックの台詞。

 

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