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工藤啓・西田亮介『無業社会』評~根性論からの脱却~

      2015/12/02

朝日新書『無業社会』工藤啓・西田亮介(著)を読みながら、他人事じゃないという強い意識を久しぶりに感じた。

もちろんそれは自分が26歳、現在フリーターという個人的事情によるものも多いが、それ以上に語られている事例があまりにも「いま」という時代を映していて日ごろから感じている身近な思いと合致したからだ。

 

 

そもそも若年無業者とは

本書における若年無業者の定義は、平成17年に内閣府が発表した「青少年の就労に関する研究調査」からとっている。ざっくり言うと学校に通学しておらず独身者で普段収入を伴う仕事をしていない15歳以上35歳未満を指す(俺だ!)

そしてその若年無業者は以下の3つに分類される。

 

①「求職型」・・・就職希望を表明し実際に求職活動をしているもの、「失業者」とおなじ定義。

②「非求職型」・・・就職希望を表明しているが、求職活動はしていない。

③「非希望型」・・・就業希望も表明しておらず、求職活動もしていない。

 

本書で言う「無業社会」とは誰もが若年無業者になりうる時代でありながら、そこから抜け出すのが難しい社会のことをいう。社会が経済的に成長しており若年者の数も多いときには、若いころの貧乏はある種の美談として語られ立身出世を信じることができた。

しかし、今の時代に起きているのは若年層の世代失業率が全世代で一番高いという事実だ。そして日本ではいったん無業になると様々な社会資本(それは人間関係や場への関与も含む)が喪失してしまう傾向にある。そうした状況の中で、まだ当事者でない若者は若年無業者とならないように緊張を強いられ、当事者の若者は道から外れないように、道を外れたものは自分の責任として、上の世代は若い人への努力不足という説教で、すべてが現状の問題を個人に帰す結論へとズレていく。

 

無業社会は個人だけの問題なのか?

若年無業者についてよく言われる批判として、仕事を選んでいるだけ・怠けているといったものがある。

本書は若年層の無業状態がそうした個人の努力不足や職場の選り好みだけに起因するものではないことを、工藤啓は個々人の事例を紹介することによって、西田亮介は統計などを利用したマクロな視点で明らかにしていく。

この本によると批判の対象となる「若年無業者」は75,5%が何らかの職歴を持っていた事実があり(非求職型でさえ半数はバイトを含めて何らかの職歴がある)、休職・退職の理由も圧倒的に病気や怪我が多い

ブラック企業で働いたことで仕事をする自信を無くしてしまった、就職活動においても恐怖が甦る、職歴の空白によって面接に進めない・・・そうして何をしていいのかわからなくなるうちに求職もしなくなっていく。怠けや甘えのみによって彼らの状況が作り出されたわけではない。無業社会の構造は日本独特の環境によって育まれてきたからだ

若年層へのセーフティーネットは高度経済成長期の若年世代を基にした成長が前提の福祉政策である。その内情は国が主体的に福祉に関与することをせず、企業によって負担される二段階の年金制度からわかるように会社が代わりとなって個人の福利厚生を担ってきたということだ。終身雇用や新卒一括の採用方法、同期の絆を基にした働き方、企業別の労働組合、職場の適切なローテーション、長期的合理性による研修という日本型のシステムが構築される。いったんこうしたシステムから外れてしまうと、よほどのスキルがない限り簡単に元の道には戻れない。それが無業社会の実情だ。

 

胸を打つ個々人の実例

2000年代に大学にいたころ、プレカリアート、ニートって言うな、無縁社会、若者を見殺しにする国などの言葉が躍っていたが最近の報道ではそれがどこか後退している印象を受ける。おそらく、その言葉が指す状態が固定化してしまったためだろう。そしてアジテーションのような言葉の数々に当時の私は共感していたが、それは今考えると自らの生き辛さを他人と重ねあわせる他人事の共感であった。

それを言語化するのなら自分は大学に所属しており、勉強も好きだし大丈夫という引いたスタンスであった、つまりそれはどこか少し遠いところで起きていて自分にはまだ関係のない話というわすかな余裕だった

しかし格差が常態化してしまったあと徐々に無業社会は広がっていく。大学は出てるからといった余裕は本当の意味で実情としても消えてきている。本書で多く取り上げられているのが大学は出ても・・・であった。

中堅私大を卒業して何回も面接を受けてもそのたびに頭が真っ白になってしまう男性、飲食業界の文化が好きで入社するも頭の固すぎる現場と反りが合わずに限界が来た男性、アルバイトから映像会社に入社したが業績の悪化から不幸にも2度の解雇を経験した人。

そこにあるのはアジテーションや社会に対する呪詛ではなく、申し訳なさや諦めの良さであり、そのことが「この人たちは確実に良い人だ、俺もいずれこうなる、こうなってしまう」という圧倒的な共感を引き起こす。病気や怪我などでリタイアし、仕事に対してのフィードが返ってこないまま、月日が過ぎていくことの怖さ。何より辛いのはお金が無くなることもそうだが、場所がなくなること、友人たちが次のステージに上がっていくため集まれなくなるということだ。

 

 結びに、とある数字の衝撃

現状、企業が大学を信じていない中で、職業支援は有用であることを本書は述べる。といってもそれは無業社会に関して一発で良くなる薬というわけではない。徐々に「小さな成功例」を積み重ねることの必要性や早期に復帰出来る人はさせるなど緊急避難的な若年無業者の保護など、行政を含むあらゆる分野が一致団結してことにあたる必要がある。

何故か、それは現状16歳から39歳までの若者の16人に1人が若年無業者(その数約200万人!)という衝撃の数字があるからだ。そして若年無業者の問題をもしこのまま放置したら、生活保護の給付などで社会保障費が信じられない規模で増大していく。

保護の水準を上げるorそのままにしておくといった議論ではなく、根本の意識のありようを変えない限り憎しみが増大し閉塞感はますます高まるだろう。

善意であれ偽善であれ利己的な考えであれ、現状を見つめ少しずつでも事に今から当たらないといけないのだ。そのための知識の補強、偏見を認知するための手段としてどの世代、どのような状況の人であっても読んでもらいたい本である。そして、苦しんでいる若年無業者はこの厳しい状況を把握したうえで、自分だけのせいではないと肩の荷が少しでも下りればいいと願う。

 

・本書で紹介される事例。今度参加してみようと思います。

「若者UPプロジェクト」ITを活用した若者の就労支援プロジェクト

 

 

 

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 - 書評

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