トレーダー分岐点

新刊本や新作映画、アニメの感想などを書き続けるサイト|トレーダー分岐点

*

【書評】初々しい言葉の連なり『前田敦子の映画手帳』(前田敦子・朝日新聞出版)

      2015/11/27

映画を見ないとその日は落ち着かないくらい、いま映画にはまっています。一日に何本も見ることもありますし、好きな作品は3、4回繰り返し見ちゃいます。休みの日に映画館をはしごしたり、家でDVD漬けになったり。撮影の空き時間と仕事が終わった後とかにも、一人で映画館に足を運んでいます。(本書p6より)

一日に映画を五本見る時もある前田敦子の柔らかな語り口

AKBの前田敦子が映画好きというのは知っていたが、一日に五本見る時期もあったと東スポで喋っていて驚いた。この本はそんな彼女が『AERA』に掲載していた記事をまとめたもので取り上げられる映画は170本を超える。

みんなに「さん」付けをする文体が「こそばゆくて」可愛らしい。映画『女は女である』を紹介するときに、監督はジャン=リュック・ゴダールさん、主演はアンナ・カリーナさんと言う。それが映画を見始めたばかりの初々しさとマッチしていてなんだかとっても良い。

元々、オードリー・ヘップバーンが好きで『レ・ミゼラブル』に感動する性格みたいだけれど、自分の興味ある映画以外も果敢に見に行く姿勢が面白く、そのため言及される映画も『アナと雪の女王』から『もらとりあむタマ子』の監督・山下敦弘が薦めたヴィターリー・カネフスキー『動くな、死ね、甦れ』までと幅広い。

ひねった文章ではなく丁寧な言葉が紡がれており、前田敦子の「映画」全体が好きという気持ちが伝わってくる。

(現在、中原昌也の『エーガ界に捧ぐ』を読んでいるものだから余計にそう感じる。ちなみに、こっちは涙なくして見れない最高の映画時評です。オススメ、本当に)

深くはないけれど面白い視点

というわけで参照される映画に関して何か詳しい知見を得たい人には物足りない本だとは思う。『ゼロ・グラビティ』なんかを例にあげても、無重力の感覚を味わえるため映画館で!以上の記述はない。

でもそのゆるゆるふわふわした映画全体が好きという雰囲気のなか、『アイアンマン3』を大人の恋愛物語として見ていくような役者視点の作品語りは新鮮でありドキッとする(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、ジェニファー・ローレンスがお気に入りみたい)

また映画を軸に展開される有名人同士との交流も見どころの一つ、『スター・トレック』の感想でサラリと主演のクリス・パインと一緒に仕事した時の話や、堤幸彦監督と共演者でラース・フォン・トリアーの『ニンフォマニアックvol.1』を見たときの話なんかが出てくる。

パトリス・ルコント、ダーレン・アロノフスキーといった監督との対談も実にリラックスとこなしてて、特に前述の山下敦弘の対談では『天国の門』を薦めた監督に対して『ノッティングヒルの恋人』、『ラブ・アクチュアリー』、『そんな彼なら捨てちゃえば』といった監督が(おそらく)好みでない恋愛映画群を猛プッシュしていく前田敦子の姿が見られる。

キャプテン・アメリカは素手で世界を救おうと頑張ってて凄い、『スターウォーズ』をちゃんと見ようと「エピソード1/ファントム・メナス」から見ていくと言った記述にニヤニヤと自分の中の悪いサブカルおじさんが出てきて困った。

そうした悪いオジサンに捕まることなく、どしどしと色んな映画を見て出来れば次回の本は、少し棘を含んだ彼女の物言う姿が見てみたい。

*この本には全3種類の映画名言しおりが一つ付いていて、巻末には6月にこの本に関して行われる前田敦子のトークショー参加応募券が一枚付属(応募締切は5月20日)、倍率高いだろうなあ。

 

【関連記事】

 - 書評

スポンサーリンク
スポンサーリンク

  関連記事

初めてスヌーピーの漫画を読むなら『スヌーピーコミックセレクション』(角川文庫)がおすすめ

今年は漫画、本・カフェ・アニメ・グッズなどありとあらゆるところでスヌーピーが流行 …

工藤啓・西田亮介『無業社会』評~根性論からの脱却~

朝日新書『無業社会』工藤啓・西田亮介(著)を読みながら、他人事じゃないという強い …

本能刺激のはんなりグルメ漫画『ワカコ酒』(新久千映)

最近書店に行くと、食べ物系の漫画がとても増えている。 それらを買って色々と読んで …

穂村弘『短歌の友人』書評~友達作りの方法論~

「俺にもできる」 短歌を作ろうと思ったのは1年ぐらい前に読売新聞を読んでいた時だ …

【書評】家庭科を食らえ!『シアワセなお金の使い方 新しい家庭科勉強法2』(南野忠晴、岩波ジュニア新書)

「ああ学生時代もっと勉強しとけば良かった」 こんな言葉に巷で良く出会う。「どの教 …

反スペクタクルへの意志『テロルと映画』(四方田犬彦・中公新書)感想

映画は見世物である。激しい音や目の前に広がる大きなスクリーンによって人々の欲望を …

見る人の記憶をこじ開ける写真集『映画館』(中馬聰、リトル・モア)

あまり映画を見ない家族のもとで育ったので、映画を本格的に見始めた時期は人より遅い …

書籍『猫シネマ』
『ねこシネマ』を読んでロシア映画『こねこ』を見て悶えて日が暮れて

なにやら猫がブームである。 書店に行けば猫関連の本で棚は埋め尽くされている。自分 …

【書評】皿々に召還せし、人々の記憶『ラブレーの子供たち』(四方田犬彦・新潮社)

流石新潮社、豪華だわ…と思いながら四方田犬彦『ラブレーの子供たち』を読み進めた。 …

デアゴスティーニ『隔週刊 映画クレヨンしんちゃん DVDコレクション』の刊行順にオトナの匂い

最近、書店で見かけてちょっとビックリしたのがデアゴスティーニから刊行された「映画 …