運命は「さだめ」な笹原宏之編『当て字・当て読み漢字表現辞典』(三省堂)
2015/12/02
今日紹介するのは「妄想型箱舟依存型症候群」と書いて「アーク」と読むサウンド・ホライズンファンにとっては常識のルビまで掲載されている、笹原宏之編『当て字・当て読み漢字表現辞典』(三省堂)である。
- 【天宮】「SDガンダムフォース(2004)」
- 【聖櫃】「[山と渓谷]1994年6月」
- 【聖箱舟】ノアの聖箱舟である[清涼院流水「カーニバル」一輪の花」2003]
これらすべて「アーク」と読む。
この辞書がナイスなのはアークの詳しい説明をこの本ではしてないということだ。
ひたすら用語、たまに詳しい説明といった具合でガガガッと同じ読みの用語が並べられているのは壮観である
*いちおうアークについて説明しておくと、「アーク」=聖櫃(せいひつ)は、キリスト教やユダヤ教において使用される特別な箱のこと。「契約の箱」とかとも訳されてたり、「十戒」なんかも入れたりなんかしてという噂もある聖なるパワーに満ち溢れている箱。映画『レイダース/失われたアーク』なんかでも有名、ゲーム『アークザラッド』を思い浮かべる人も多いかも。
こういうゲーム漫画アニメファンにとってはおなじみの用語から
歌詞などでよく使われている「ある用語」の当て字なども面白い。
- 【野望】歌詞:あれもこれも本気の野望[奥井雅美「邪魔はさせない」1996]
- 【仕事】歌詞:仕事はどんな状況(とき)も笑っているよ[FIELD OF VIEW「突然」1995]
- 【非現実的】歌詞:潜り込めば非現実的の入り口[堀江由衣「So depecher」(有森聡美)2001」
- 【追憶】歌詞:朝の追憶を[Sound Horizon「星屑の革紐」2006]
- 【遊女】書名:諸田玲子「遊女のあと」2008
- 【伝説】曲名:アンディ「失われた伝説を求めて」1983
・・・この辺にしておく。ちなみに、まだあと20例ほど続く(笑)
正解は、これは全部「夢」(ゆめ)の当て読みである。
これは、もう・・・自分の内なる中二病がうずきだすじゃありませんか!
面白いのが用語の意味が解らなくても、当て字の群を見ていくことによって不思議と意味が解ってくることだ。
それが当て字の良さである。
しかし、困ったことにこういうのは「日本語」ではないと怒る人もいる。
でもどうだろう、そもそもが「刑事」を「デカ」と言ったり、「漢」と書いて「おとこ」と読んだり、当て字はいまや生活の中で当たり前のように浸透している。だから編者は日本語の豊かさの観点から、当て字を何でも採集していく。JAM PROJECTの歌詞から演歌、テニスの王子様にSound Horizonまで幅広い当て字の用例採集はかならず後の世の研究に役立つと思う。この編者の労力にはただただ頭が下がる。(けど絶対に楽しんでそう)
そして、この辞書があったからこそ「ああ!」と思いついた視点もある。
指示代名詞「それ」を調べていて、こんな用例があった。
- 「入れ墨」:入れ墨(それ)は我が国の[荒川弘「鋼の錬金術師11」2005]
- 「遺品」:遺品(それ)ね[高橋留美子「めぞん一刻15巻」1987]
- 「所有権」:所有権(それ)を棄てることで[小畑健「DEATH NOTE 11](大場つぐみ)2006]
どれも読んだ人なら「あの場面かな」とわかると思う。
「それ」だけではなく、指示代名詞全体が漫画表現の中で重要な使われ方をする点、当たり前のことだがこの本を読むまではあまり考えなかった。指示するものを示すと同時に当て字によって意味が重層的になる「それ」は漫画の中で重要なキーワードとなっていることが多い。当て字は意味を改変するのではなく言葉の意味に含みを持たせる効果がある。だからこそ、読む人の側に強く印象付けられているのだと思う。
この辞書はライトノベルの二つ名とかは含まれていないが(たぶん収拾がつかない)企業の広告や天声人語で使われた例なんかも収録されていて広告屋さんにも絶対に役立つ。23000字の当て字の用例採集は辞書好きも満足するし歌詞を書くときにもキャッチコピー、タイトルを考える時に参考にしても良さそうだ。
辞書と言えば、この本は『フィネガンズウェイク』で使われている用語などもバシバシ収録されていて(「す薔薇しい!」)ジョイス好きも必読。久しぶりに通読できる辞書に出会えて大変満足。いや本当にいくらでも読んでいられるのが怖いので気を付けて!
【関連記事】
関連記事
-
-
「ぼのぼの達と一緒に悩んで考える」いがらしみきお『ぼのぼの人生相談』(竹書房)書評
シマリスくん「(悲しみに)慣れるためになにかした?」 シロウサギくん「してないよ …
-
-
【書評】『教養は「事典」で磨け』(光文社新書・成毛眞)&おすすめの事典三冊
重く、分厚く、持ち歩くには難しく、値段も高いため余程のことがない限りは開かない「 …
-
-
pha著『ニートの歩き方』(技術評論社)評~走らない生き方~
前回の記事『無業社会』の書評で働いてないことへの抑圧を軽減することも重要である。 …
-
-
知ってる人は知っている名作「ぼのぼの絵本」
「2015年はぼのぼのが熱い」と言う記事を書いてそれなりにアクセスがあるみたい …
-
-
金をかけられないなら手間をかければいいじゃない『人気店の日本一おいしいレシピ』(主婦と生活社)
「あー美味いものが食べたい」と思うことが最近増えた。 普通の人よりは舌の良い家系 …
-
-
本能刺激のはんなりグルメ漫画『ワカコ酒』(新久千映)
最近書店に行くと、食べ物系の漫画がとても増えている。 それらを買って色々と読んで …
-
-
面白いインド映画を探すならこの本!『インド映画完全ガイド』
踊らない、そして伏線を巧みに利用した洗練されているインド映画が増加中である。 た …
-
-
【書評】ビートたけしVS大英博物館『たけしの大英博物館見聞録』(新潮社・とんぼの本)
現在、東京都美術館で「大英博物館展―100のモノが語る世界の歴史」が開かれている …
-
-
雑誌『POPEYE6月号』「僕の好きな映画」特集は時に面白く、たまにむかつく
男「ETってやっぱ面白いよね」 女「わかる。あたしなんてあのテーマ聞いただけでう …
-
-
山同敦子『めざせ!日本酒の達人』書評~基礎ほど熱いものはない~
Contents1 飲んだ酒を思い出せない!2 予測を立てるための知識3 「辛口 …



