トレーダー分岐点

新刊本や新作映画、アニメの感想などを書き続けるサイト|トレーダー分岐点

*

This is eigahiho!『<映画秘宝>激動の20年史』 (洋泉社MOOK)感想

      2015/11/26

s_映画秘宝の20年

洋泉社MOOK『<映画秘宝>激動の20年史』 、2015年5月刊行

タイトルは『300』的なノリで。

現在も大々的に刊行されている映画雑誌といえば『キネマ旬報』『映画芸術』そして『映画秘宝』の三誌、なかでも『映画秘宝』は大判サイズに大量の映画写真&横組みの文章がぎっしりと詰められていて毎月刊行されているとは思えない情報量だ。そして、今まで日本にあった映画雑誌と比べてもかなり異色の雑誌である。

創刊20周年を記念して作られたこのメモリアル本は、この雑誌の創刊が当時の映画界への挑戦状だったことがよくわかり、映画秘宝を一度でも手に取った人は絶対に買ったほうが良く、映画秘宝をあまり知らない人でも、なにしろゴージャスなので映画好きなら楽しめること間違いなし。

表紙を彩った美女たちの巻頭グラビアに始まり、同じく20周年を迎えた<午後のロードショー>のプロデューサーインタビュー、本誌で反響の大きかった映画人へのインタビュー・・・と目次を羅列しただけでも凄い。

特に1997年から始まり現在まで続く「ベスト&トホホ」映画ランキングは、だってその時、楽しんだでしょ!精神なので『マトリックス』や『少林サッカー』が一位という率直な欲望が懐かしく友人と酒の席でワイワイ盛り上がって読んだ。

このように映画を見始めた頃の感覚を大事にし、観る人の心を熱くさせた作品への率直な敬意は創刊の時から変わらない。初期映画秘宝の限りなくグレーに近いブラックゾーンの証言、たとえば図像を勝手に掲載したりして偉い人に怒られた商業誌とは思えないアウトローぶりは(後で金は払った)この熱いものを熱いままという精神がなせる技なのだ。

大手メディアに笑われ、無視され、怒られても映画はそれだけじゃねえんだ!とお洒落なミニシアター映画に反旗を翻し「今に見てろよ」の精神で歩み続けた『映画秘宝』の功績は大きい。現在ではGoogleの検索バーで容易に調べられる水野晴郎の『シベリア超特急』も東宝の記念碑的謎映画『幻の湖』もこの雑誌によって大々的に陽の目を浴びた。まったくの手探りで、いったい誰がこの映画について語れるのか、そもそも本当にこんな映画あるのか!?といったドタバタ面白話はweb以前の貴重な時代の証言でもある。

どこの雑誌もやらないことをやり続け、今では本書に収録されているだけでもシルヴェスター・スタローン、クローネンバーグやロメロと錚々たる大物映画人が雑誌のインタビューを飾るまでに映画秘宝は成長した。この20年でメディア環境は変化し、多くの映画雑誌が潰れた。だが秘宝は生き残っている。

その状況を町山智浩は柳下毅一郎との対談でこう語る。

町山智浩「周りが勝手に自滅していっただけなんだよな。引きこもりが家にこもってたら、その間に人類滅亡しちゃったのと一緒。『ショーン・オブ・ザ・デッド』ってそういう話だよ。外でいろんな人に会ってる人はゾンビに感染する率高いけど、俺は家でDVD観てるから死なねえぞ!って。」(本書p32より)

また秘宝が保守化しているという意見には、保守化してるなら『食人族』が国民的映画になってないとおかしいだろと吠える。

とはいえ、ネット時代が到来し各個人がそれぞれ未公開映画や駄目映画をどこまでも調べることが出来てウヒウヒと語れるようになったのは確かである。その状況はやはり考える必要があり、そのためにもこの本は役に立つ。具体的には現在までの映画秘宝の表紙一覧や代表的企画が掲載されていて使えること、抽象的にはここで描かれた映画界への「仁義ある戦い」は、何かにくじけそうになった読み手へ奮起させる力を与えてくれることだ。

 

【関連記事】

 - 映画本, 書評

スポンサーリンク
スポンサーリンク

  関連記事

映画→詩←映画『英詩と映画』評

検索「映画インターステラー 詩」でこのサイトにたどり着く人が多い。それだけこの映 …

【書評】読んで燃えろ、見て燃えろ『激アツ!男の友情映画100』(洋泉社・映画秘宝EX)

【友人として、相手を思い、また裏切らぬ真心】とは「新明解国語事典第6版」に記載さ …

ハルキストたちの本気『さんぽで感じる村上春樹』書評

村上春樹についての書籍は多くある。文学的、社会学的な立場からの学術的な書籍も多い …

女性器サラリと言えますか?『私の体がワイセツ?!女のそこだけなぜタブー』(ろくでなし子、筑摩書房)感想

検索結果の順位が下がったり、サイト全体の評価が下がったりとそういうことで、グーグ …

映画『リトルプリンス星の王子さまと私』を見る前に再読しませんか原作

2015年11月21日に公開される映画『リトルプリンス星の王子さまと私』は、とあ …

【書評】おそるべきめいちょ『ニュースをネットで読むと「バカ」になる ソーシャルメディア時代のジャーナリズム論』(上杉 隆著、KKベストセラーズ刊)

様々な歴史的な経緯を経て、ネットには大手メディアが報じない真実があるというのは嘘 …

傑作の影にクソもあり、メガミックス編『傑作!広告コピー516』(文春文庫)書評

「需要が違うんだから」と女性に言い放つクソ男の台詞とその的外れなダサい広告のせい …

映画+散歩+珈琲=『東京映画館 映画とコーヒーのある一日』(キネマ旬報社)感想

映画館のあとは大体が某チェーン店で牛丼を食べ、映画と映画の空いた時間にはドトール …

山同敦子『めざせ!日本酒の達人』書評~基礎ほど熱いものはない~

Contents1 飲んだ酒を思い出せない!2 予測を立てるための知識3 「辛口 …

pha著『ニートの歩き方』(技術評論社)評~走らない生き方~

前回の記事『無業社会』の書評で働いてないことへの抑圧を軽減することも重要である。 …