『ねこシネマ』を読んでロシア映画『こねこ』を見て悶えて日が暮れて
2016/04/13
なにやら猫がブームである。
書店に行けば猫関連の本で棚は埋め尽くされている。自分の住んでいるような郊外の書店でもヘイト本と日本礼賛本と猫と自己啓発本、そして漫画とアニメ化したライトノベル。たぶんみんな疲れているのだ。かわいいもので癒されたいのだ。
しかし現代思想の特別号も「猫」なのはさすがに驚いた。
現代思想まで猫かよ!!

ねこ
最近ニコニコ動画のアプリをスマホにインストールしたら一番最初は猫動画がオススメにラインナップされているし、一人で見るのにもみんなで見るのにも可愛い猫は最強なのだろう。そもそも動画というのはけっこう情報量があって、どんなくだらないものでも案外疲れてる身体は拒否することが多い。
けれど猫動画は平気だ。いくらでも摂取できる。
なんて考えていたら目に飛び込んできた本が「ねこシネマ」である。
あ、やられたぜ。
これは……そうだよ、こういう企画あっても不思議じゃないわ。やったもん勝ちだよと表紙を見た瞬間にすべてを納得した。
その名の通り、この本は映画に出てくる猫についてまとめられた本である。
ウィークエンドシャッフルの「なんだ猫か特集」への言及や公式サイトの出来が異常に素晴らしい『ハッピーボイスキラー』が取り上げられているあたり完全に時流を読んでいる。猫の写真集のようでもあり、映画のなかで猫の登場時間がどれぐらいかなどといった猫メーターも入っており実に気合が入っている。

ちなみに映画『ハッピーボイスキラー』の公式サイト、イカす。
「ハリーとトント」「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」「白猫・黒猫」と、ああ、あの洋画の猫は良かった…などと思い返しながら、けれど猫をそのまま出すと画面が弛緩してしまい、その弛緩状態を緩い雰囲気だと勘違いしている邦画の多いことよと嘆息もしたのは事実。
猫は危険なのだ。猫は可愛いすぎるがゆえに映画の画面を持って行ってしまう。名作と呼ばれている映画でも猫はあくまで抑え目で使っている。しかしその中でも本書で言及されているイワン・ボボフ監督による『こねこ』は猫を存分に出しながらも映画としての品格を保っている稀有な作品である。
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おばあちゃんが買ってくれた子猫「チグラーシャ」は悪戯大好き。カーテンを破いたり、花瓶を割ったりとやりたい放題。さらにお父さんの楽器ケースに糞をしたため両親の怒りは頂点に、それでも子供たちはそんなチグラーシャが大好き。
けれど、ある日チグラーシャは家の窓から落ちてしまいトラックの荷台へ、車は発車し町はどんどんと遠ざかる。ぽつんとたたずむ子猫のチェグラーシカの運命はいかに!?
トラックの荷台でたたずむ子猫、ロシアの吹雪、探し回る子供たち、それらにトロイカチックな音楽がかぶさり感傷的な気分になるこの場面。
しかし子猫かわいそう!頑張れ!と見る人を軟弱な気分のままにさせないのは、この映画が101匹わんちゃんのように台詞をつけないからだ。
そのことによって猫たちの生命力は画面に刻み付けられ映画全体に強靭さを与えているのである。たとえば放浪するチグラーシャがドーベルマンに襲われるところ、あわや間一髪という場面で子猫を助けにボス猫が参じる、大きな怪我を負うかもしれない。それでも素朴に仲間を守ろうとする猫同士の連帯に思わず胸が熱くなる白熱の瞬間である。

その猫が間借りしている家に住む猫好きオジサン、彼こそ稀代の猫調教師A・クズネツォフであり、この映画に出てくる猫の演技指導をした人物である。
しかし役の上では地上げ屋にアパートを追い出されそうになっているものの、どうすればいいかわからずサーカスで日銭を稼ぐ生きるのに大変そうなオジサンである。そんな彼のもとにあらゆるところから猫がやってきて、慰めてくれる(猫が本当はどう思ってるのかはしらないが彼を慰めているとしか思えない凄い演技をしてくれる)
物語は悪いやつらに仕事を取り上げられ、ある日どうにも生活が困難となったオジサンが猫たちを売るという苛酷な展開を見せるが、ここから始まる猫たちの逆襲と放浪がまったく突飛という印象を受けずあくまでロシアに生きる人々の日々のたくましさを垣間見ているようで活力が湧いてくる。
DVDの裏に故・米原万里の説明文があったので引用する。
「大都会に迷い込んだ「こねこ」と仲間たちの冒険ものがたり」
「世界一の猫遣いA・クズネツォフに調教された芸達者な猫たちが多数出演、現代演劇の父スタニスラフスキーの国の猫らしく、自然で写実的な演技力を披露してくれる。真冬の大都会モスクワで、アパートの窓からトラックの屋根に転落して遠くへ運ばれてしまった子猫が、他の猫たちに助けられながら生き延びて元の飼い主の元へ戻ってくるというおとぎ話が、それに地上げ屋に立ち退きを迫られる飼い主を猫たちが力を合わせて救うという虚構が真実味をもって胸を打つのは、この猫たちのリアルな演技力に支えられてこそである。また、まるでカメラマンも猫だったのではと錯覚するほどに、街や人や鳥や犬や猫たちを猫の目線で捉えたカメラワークも、猫たちの演技を引き立てている」
犬派猫派という括り以前に自分は猫アレルギーなので無所属なのだが、『ねこシネマ』を読んでロシア映画『こねこ』に悶えて思ったのは、近頃巷に溢れる猫映像の反乱に対して近所のおじさんのようにぐちぐちと文句を言っていたのは決して到達できぬ憧れをそこに見ているからだということ。
もし来世があったら心置きなく猫をもふもふしたいという憧れを。もふもふ
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