【未掲載書評】斉藤守彦著『映画宣伝ミラクルワールド』(洋泉社)~観客に魔術をかけた者たち~
2015/12/02
お前のは書評じゃなくてレジュメだと言われて、確かに詰め込みすぎ感はあるということで以前書いた斉藤守彦著『映画宣伝ミラクルワールド』(洋泉社)の文章の元となった800字書評を掲載します。
何故このタイミングかというと、別に出した書評の方が掲載されることになったのと、もっと多くの人にこの「熱い」本を読んでほしいのと著者の新作『80年代映画館物語』が12月4日に発売になったから。
「1980年代、東京では世界中の映画を見ることができた! シネコンが台頭する以前、映画館が最もラジカルだった時代、そこで何が起こっていたのか? 」(公式サイトより)
なおかつ「1980~1989年に上映された都内主要映画館番組表 」が凄い力作でその作業を考えると震えた。
ある時期の映画について異様に詳しく話す人がいる。
熱っぽく話すその人に次々と同じ熱を持った人が集まる。
こういう場面に何度も遭遇した。話を聞いていると断片としてその映画の知識は入ってくる。しかし何が彼らをここまで突き動かしているのか、それがわからなかった。
この本を読んでその疑問は解決した。彼らが話していたのはすべて1970年代後半から1980年代の洋画だった。それもメジャー系の配給ではなく、買付・営業・宣伝まで自社の判断で動ける「独立配給系」の映画である。
本書は、資本の少なさを様々なアイデアでカバーし伝説に残る手法を築き上げた「独立配給会社」の活躍と当時の状況を、関係者へのインタビューを含めユーモアを含めて冷静に、そして時に滲み出る怒りとともに描いている。
そこで語られるエピソードはすさまじい。困ったことにそれが時に映画以上に面白いのだ。例えば、一瞬でも宣伝に使えそうな象徴的なシーン=キラーショットがあったら、それを極限まで展開する「ハッタリ手法」である。映画『サランドラ』では、一瞬だけうつる大柄のナイフを「ジョギリ」と勝手に命名、それで殺人が行われるように宣伝し木製のレプリカナイフを映画館前に設置するという荒業。
そして、そのナイフは映画初日に怒りに満ちた観客に壊された。観客もすさまじい時代だったのだ。
あの手この手で大手に負けずに映画館を満席にしたいという熱い思いは、しかし時代という壁にぶつかる。全国一斉上映の一本立てによる映画のメジャー方向へのシフト、週末にゆったり見る映画としてのレンタル屋の普及。だんだんと「独立配給映画」の熱さが薄れていった寂しさを含ませ本書は終わる・・・いや終わらない。
最後にあっという驚きが読者を待っている。あの世界的な大作映画のキャッチコピーに「独立配給会社」の血が流れていると知ったとき、いまだに熱い記憶は受け継がれていると思い感動を隠せなかった。この本には大文字の映画史には残らない「熱い」現場の映画史が描かれている。
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