穂村弘『短歌の友人』書評~友達作りの方法論~
2015/12/02
「俺にもできる」
- 電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、て言って言って言ってよ(東直子)
- たくさんのおんなのひとがいるなかで
わたしをみつけてくれてありがとう(今橋愛) - たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔(飯田有子)
この空間を穂村は「酸欠世界」と呼ぶ、自然が当たり前に存在しそのあふれる空気の中で「私」を高らかに歌えた過去の時代とは違うということだ。自明な「短歌」のコードで評価できない「酸欠世界」の作品に批判の声がでるのはわかる(もしかしたら批判以前に状況は困惑のほうが正しいかもしれない)しかし、穂村はその酸欠世界においては短歌に存在するリフレイン構造が気持ち良いものではなく空気の薄さにあえぎ、それでも他者を切実なまでに希求に繋がっているように思えること。また自明の事と思えることをあえて歌うことにより言葉を軽く握ることは、ある種の短歌への武装解除かもしれないと肯定的に観察している。彼はそこに現代短歌の可能性を見出しているようだ。
・本当にウサギがついたお餅なら毛だらけのはず、おもいませんか?
・まみの話をきいてるの? 不思議だわ、まみの話をきくひとがいる
という不思議な短歌から
・夜明け前 誰も守らぬ信号が海の手前で瞬いている
・包丁を抱いてしずかにふるえつつ国税調査に居留守を使う
・このシャツを着ているときはなぜだろういつでも向かい風の気がする
関連記事
-
-
工藤啓・西田亮介『無業社会』評~根性論からの脱却~
朝日新書『無業社会』工藤啓・西田亮介(著)を読みながら、他人事じゃないという強い …
-
-
不穏と平穏とそのあいだ、いがらしみきお『今日を歩く』(IKKICOMIX)
『ぼのぼの』の原作者いがらしみきおが休刊となった月刊IKKIのWEBコミックサイ …
-
-
反スペクタクルへの意志『テロルと映画』(四方田犬彦・中公新書)感想
映画は見世物である。激しい音や目の前に広がる大きなスクリーンによって人々の欲望を …
-
-
~これからは家で留学の時代!?~重田勝介著『ネットで学ぶ世界の大学MOOC入門』(実業之日本社)評
「あなたはMOOC(ムーク)を知っているだろうか?」 …
-
-
This is eigahiho!『<映画秘宝>激動の20年史』 (洋泉社MOOK)感想
タイトルは『300』的なノリで。 現在も大々的に刊行されている映画雑誌といえば『 …
-
-
【書評】『教養は「事典」で磨け』(光文社新書・成毛眞)&おすすめの事典三冊
重く、分厚く、持ち歩くには難しく、値段も高いため余程のことがない限りは開かない「 …
-
-
女性器サラリと言えますか?『私の体がワイセツ?!女のそこだけなぜタブー』(ろくでなし子、筑摩書房)感想
検索結果の順位が下がったり、サイト全体の評価が下がったりとそういうことで、グーグ …
-
-
貞子は実在した!?『映画で読み解く都市伝説』(ASIOS・洋泉社刊)
呪い、陰謀、超能力、アポロ計画、UFO、超古代文明……。 これらの題材は映画とい …
-
-
いま「犬マユゲでいこう」を読むと。
書店をブラブラしていたら、見たことのあるタイトルが。 石塚2祐子『犬マユゲでいこ …
-
-
買う、読む、飲む。杉村啓『白熱日本酒教室』(星海社新書)書評
「わかりやすさトップクラス」 ・星海社新書の本は導入がうまく、教 …