【書評】ビートたけしVS大英博物館『たけしの大英博物館見聞録』(新潮社・とんぼの本)
2016/05/05
現在、東京都美術館で「大英博物館展―100のモノが語る世界の歴史」が開かれている(2015年6月28日まで)
200万年という人類の長い歴史の中で大英博物館がセレクトした100作品を並べ、人類が何を考えてきたのかという「普遍性」に迫るこの展覧会。十全に楽しむためには図版が豊富な公式ガイド『大英博物館展: 100のモノが語る世界の歴史』(画像上)や元ネタである『100のモノが語る世界の歴史』(筑摩書房。全三巻、安いが少し難しい)も良いけれど、今回はあえて別方向の本『たけしの大英博物館見聞録』を紹介。
たけしmeets大英博物館
この本はビートたけしがバイク事故を起こしてから約2年後、1996年に大英博物館へ訪れた際の印象をまとめたガイドブックである。語られる言葉は専門的ではないけれど、ふざけつつも直観的な感想は非常に鋭く、印象論の長所が存分に出ていて楽しい。
そもそも、何故たけしがここに来たか?
それはあのバイク事故から彼がずっと考えている「自分の生きている意味」へのヒントを探すためであったという。神様を信じない彼は、具体的な「物」(もの)こそ生きた証を残そうとした人々の思想の集積であるとして、「大英博物館」を膨大な「生きてた証」が保管されている場所と捉える。
乗り込んだビートたけしの言葉は脂がのりにのっていた時期なのでとにかくおかしい、随所に笑いの要素がある。展示品に関しての脚注は「すげえカツラ」「どこかの貴族」「ウナギのミイラ」と適当で、ウェッジウッドも魅了された「ポートランドの壺」の現代的なデザインに感銘を受け「お姉ちゃんの土産にしたい」と軽い。
たけし流直観が冴えわたる後半with疲れ
だが、わからないものはしっかり他の本(『達人たちの大英博物館』講談社選書メチエ)を読むというマメさもあり「いつ鉄砲玉が飛んできてもおかしくないのに、よくもまあこれが価値のある石だと気づいたもんだ」(ロゼッタストーンに関して)とたけし口調で解説してくれるので、読む方にはしっかりとその知識が頭に入りガイドブックの役割を立派に果たしている。
ページも後半に行くにつれたけしの直観がどんどん冴えていくのを実感するのも本書を読む楽しさの一つ。
例えば「パルテノン・マーヴルズ」が目の前に現れた際には疲れが吹き飛ぶほど彼は感動しマネージャーが、こんなに空間があるんだから照明を当てたりもっと物を飾ればいいのになんて言おうものなら「デカイ石碑なんか置いてみろ、せっかくの雰囲気がぶち壊しになる。まして派手な照明なんて、もっての外だよ『パルテノン』って名前の、どっかのラブホテルじゃないんだから。神殿は自然光でなきゃいけない」とたしなめつつ、しかし「この展示方法は外す可能性があった、結構勇気が必要だっただろうね」と独特の感想。
他にも、大英博物館にある円形ドーム図書館をディヴィッド・ロッジが「彼は狭い膣のような通路を抜け、閲覧室という巨大な子宮に入った」と『大英博物館が倒れる』(白水社)で書いていたのを引用し、たけしは「だとしたら卵巣に導かれる自分たちが精子である」と凄い比喩で言葉を続けていく。「性欲と同じぐらい知的欲求のある奴がスーッと中に入っていって、膨大な量の本と受精する。やがて生まれてくるのは、そこでありとあらゆる情報を貪った、知識の塊みたいな人」とマルクスが座っていた椅子で語る姿には読んでいて「おみそれしましたっ!」という気分になった。
印象論というのは外した際のダメージが大きい諸刃の剣であるが、自分の興味の赴くままに自由な視点で物事を見ることの面白さと真剣さをこの本は教えてくれる。あ、あとその直感を信じる作業が非常に大変だということも。ビートたけしVS「大英博物館」の結果、疲れ果てた彼の姿を見て心からそう思った。
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