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本能刺激のはんなりグルメ漫画『ワカコ酒』(新久千映)

      2015/12/02

最近書店に行くと、食べ物系の漫画がとても増えている。

それらを買って色々と読んで人に薦めるならこれかなという感じで新久千映の漫画『ワカコ酒』の紹介をば。書店で平積みになっているから知っている人も多いけど2015年1月8日からBSジャパンでドラマ化もされるのでこの機会に(注:2015年に3分ほどのアニメになりましたが個人的にはこちらがおすすめ!)

なんでこの漫画を人に薦めようかと思うかというと、なんといっても軽いから

グルメ漫画の系譜として極端な演出系、バトル系、うんちく系、お店紹介系、あと最近の系譜として日常生活の辛さ解消系からのロハス的指向というものがある。

でも、『ワカコ酒』は、うんちくでもお店紹介系でもなく、あくまでゆるゆると26歳女性「村崎ワカコ」がひとり酒を楽しむ、それだけの漫画。それが読んでいると最高にお腹がすいて「外で食べたい!」と思わせてくれて良いのだ。

(以下妄想、食べログ文体)

6時30分ごろに仕事が終わり、家路を急ぐ。そこで気づくのが冷蔵庫の中身、お弁当に食材を使ってしまって野菜しかない、買いに行かなければならないしそれを料理しなければいけない。面倒くさいから惣菜にしようかと思うも今からではセールの時間も微妙に外している。

そんな時、今まで入ったことのないおでん屋さんが近くにあるのを思い出す。ためしに店の前に行ってみる、しかし微妙に汚れたのれんが店の中を見えなくさせ、中からは談笑の声が聞こえるという状況。寒いのでおでんは素晴らしい、けど気まずい、でも作りたくない。葛藤の末決意して店に入ることに。

まず常連客の多さにビビる、でも一度入ってしまえばこっちのものだ。ビールもいいけど焼酎のお湯割りを頼みおでんの盛り合わせを注文する。そして、おでんがお酒と同じタイミングで出てくる。ダシがよくしみこんだ熱々の牛すじを一口頬張り、この店に入って良かったと心の底から思い噛む、口のなかに広がるうまみとコリ、少し脂の残った口のなかに焼酎を含ませ脂を切る。次は何を食べようかと嬉しい迷い。

 

oden

http://www.kikkoman.co.jp/homecook

(妄想終了)おでんの画像はキッコーマンレシピ検索から。

この漫画はこういう感覚を出すのがとっても上手い。酒にこだわるわけではなく、酒を食事全体の一部として考えるから「ポテトサラダ×名も知らぬ焼酎のウーロン茶割」、「祭りの焼きそば×缶ビール」とその時の「気分」を盛り上げてくれる最適解を提示してくれるのだ。

酒の銘柄もお店の名前も出てこない。それが人によっては退屈と言う人もいるみたいだけど(アマゾンのレビューとかね。)その軽さが気軽に「ひとり酒」をしたいという物語の雰囲気とあってい。

ひとり酒はまあ、たまに面倒くさいこともあるけど(女性一人だと特に)たいてい楽しいことのほうが多いので入りづらいが気になる店があったならば、ただ本能の赴くまま突入すべしとこの漫画は「ひとり酒」に憧れている人を後押ししてくれるのだ。

 

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