「ぼのぼの達と一緒に悩んで考える」いがらしみきお『ぼのぼの人生相談』(竹書房)書評
2015/12/02
シマリスくん「(悲しみに)慣れるためになにかした?」
シロウサギくん「してないよ。なにもしないでただ悲しんでただけだな」
ぼのぼの「あ、そうかぁ。」
シマリスくん「え?」
ぼのぼの「悲しみになれるためにはちゃんと悲しまないと駄目なんだよ」
シマリスくん「あ、うん。悲しむのは嫌だからなにかして気を紛らしたり誤魔化したりしているといつまでも悲しみに慣れないのね。きっと。」
竹書房『ぼのぼの人生相談』より
『ぼのぼの人生相談』と言う本が発売された。「人生相談」である。
自分が人生相談で好きなのはほぼ二種類しかない。一つは上野千鶴子や車谷長吉、最近話題の岡田斗司夫などが連載している朝日新聞「悩みのるつぼ」のような、回答がひたすら具体的で確信を付くもの。もう一つは中島らもに代表される、あのどこまでもユーモアにあふれた一連の悩み相談である。相談する人、される人、それを読んでいる自分まで含めすべてがバカバカしくなって笑っちゃう感覚が最高だった。ちなみに、大嫌いなのが啓発系である、抽象論での「説教」というものはどうにも苦手だ。
この『ぼのぼの人生相談』はこれらどの人生相談とも異なるちょっとびっくりする感じの本だった。
人間社会の悩みに対して著者いがらしみきおが「ぼのぼの」の漫画の中から回答を取り出していくのかと思いきや、「娘が無職の男と付き合い始めました」「トマトがどうしても食べられません」という人間社会の悩みにぼのぼの世界のキャラクターが「実際」に喋りはじめて答えてくれるんですもん、なんて豪華な。
そして、その答えも名言オンパレードの「ぼのぼの」漫画がそうであるようにまったく説教臭さを感じさせない。
例えば将来女優になりたいのですが「どうすれば自信が持てますか?」という質問にアナグマくんは
「やりたいんだったらやればいいだろ」とぶっきら棒に答える。?
いや、それが出来ないから自信が欲しいのではと読んでいて思うが、そしたら、すかさずこう返す。
アナグマくん:やりたい気持ちが足りないんだよ。やりたい気持ちがもっとたまったらやれよ。
それに対して、ぼのぼの&シマリスくんは「自信は関係ないの?」と聞く。当然である。それが悩みなんだから
さらに、アナグマくん凄いことを言う。
「自信があるからやるヤツはズルイよ。」と。
そして駄目押し、女優になれる自信があってそれで女優になったとする。でもそんな風に自信あるからやって、
それ「楽しいのか?」と。
ここでなるほどと気づく。と同時に揺さぶられる。そうなのだ、問題は自信をつけるつけないではなく、女優になりたいか、なりたくないか、そっちなのである。
もっともっと重い相談もくる、「父が交通事故でなくなってしまいました」という相談である。
それに対してぼのぼのは「かわいそう」と共感するが、シマリスくんは少し違う。その場合「かわいそう」と言ってはいけないのではないかと悩む、言ったことで言われた方はみじめになっちゃうのではないかと。二人は悩んで・・・悩んで・・・父親をなくしたシロウサギさんに相談する。
そして今でも時々悲しいけど、大丈夫になったというシロウサギさんの答えを聞き、二人はそうなるために何かした?とたずねる。
その答えが冒頭の引用部分である。
悲しみを誤魔化さずに向き合うこと、悲しみを一人で悲しみきることしかできない辛さ。父親を亡くした人に父親を亡くしてない人が声をかけることの怖さ、それでもシマリスくんはそういう人に何かできることはないかとシロウサギさんに尋ねる。
そしたらシロウサギさんはこんなことを想ったという、自分の父親を失くして、今悲しんでる人って世界中で何人ぐらいいるのかなあ?と
実際に目をつむって思い浮かべるぼのぼのとシマリスくん。シロウサギさんは言う。
シロウサギさん「ほら、こんなにたくさんいるんだよ。オレわかるからさ。みんなどんなに悲しいか。みんなもオレがどんなに悲しいかわかってるんだよ」
どんな問題でも、ぼのぼのとシマリスくん(そして巻き込まれるアライグマくん)は真摯に答えてくれる。が、様々な相談を受けていく中でやはり印象的なのがシマリスくんの答えだ。少し重い話になったときにそれが際立つ。
「7年付き合った彼が亡くなり、二年経つけど忘れられません」という質問に
「思い出は森に積もる枯れ葉のよう」と答えるシマリスくん。思い出すたびに辛くなる大切な人。でもその思い出には辛いことだけじゃなくて嬉しいこともあるはずで、それは積み重なっている枯れ葉のようなものだと言う。嫌なものだけ、昔の枯れ葉だけ捨てることはできない、けれど混ざったとしても忘れられないその枯れ葉はいつか積もってフカフカになると。
本編の最新刊辺りを読んでいる人は知っていると思う、弱い人にどこまでも労わるシマリスくんのこの感覚を、この本でも少し書かれているが、シマリスくんは親の介護について苦しんだ経験をしている。その経験によってシマリスくんは意図せず大人になってしまった。
だから「嫌な事ばかり思い出してしまいます」という質問には「絶対思い出さないって自分に誓うの」と強く答え「同性の友達を好きになってしまった」という質問にはシマリスくんは「大変なこと、辛いことが増えて、だんだんとみんなはみんなと違う人生になる。別れ道を経験し自分だけの人生になる」と語る。
もうシマリスくんはみんなが知っているシマリスくんではないのだ。
でも、ぼのぼのは変わらない。「別れ道が増えて別の道に行って自分だけの人生になる」というシマリスくんに対して「でも別れ道の先にまた別の人がいるんじゃない?」と言いシマリスくんを深く納得させる。
みんなで楽しくワイワイやっていたあの時代にはもう戻らない。でも、ぼのぼのとシマリスはいつまでも親友なのだ。だから大人になったシマリス君は今日も遊ぶ。親の介護を続けながら昔のように。
「人生が二度あれば」という質問はそれゆえに何度読んでも涙が出てくる。ぼのぼのは「でもさ、ボクさ、生まれ変われるんだったら、もう一回同じひとたちが出てくる人生がいい」とつぶやき、それを聞いたシマリスくんは「ぼのぼのちゃんは幸せだったのねえ」と感動する。ぼのぼのは言う
「うん、ボク幸せだったんだと思う」と。
この人生相談本の答えはときに迂回してまったく具体的じゃないときもある。でもなんだかわからなかった回答が何回も読んでいるうちにじんわり効いてきて、心の奥底に確かに届く、そんな実感を得ることの出来るとても優しい本なのだ。ちょっと思い出し涙が出てきたのでここで終わりっ(笑)
(追記)終わりに「連載三十年みんな続けたいですか?」という、とある漫画家のぼのぼのたちへの質問がありファン必読。あと個人的には「バカになりたい」という質問に対するフェネックギツネくんの答えが最高。解説の松井雪子さんの文章も、涙が出る素敵さです。
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