シャットダウン!ゴミ情報!『情報の「捨て方」』(成毛眞・角川新書)感想
2015/11/26
一日ネットの海を漂って、ボーっとしているだけでもおそろしいほどの「情報」が溜まる。で、果たしてその情報は役に立つのか?
『情報の「捨て方」知的生産、私の方法』の著者でもあり「HONZ」という書評サイトの代表も務める成毛眞はハッキリ役に立たないと言うだろう。
『本は10冊同時に読め!』を書いた人物でもあるので「情報を摂取しないシンプルな生き方」的な傾向の本ではない。そうではなく大量の情報からゴミ情報をどのようにシャットダウンし良い情報だけを拾ってくるか、つまり、どう意識的に情報と接するかの心構えと具体的な方法がこの本には書かれている。
では良い情報とは何か?
それは少数の人だけが知っている情報である。
代表的なのは「インテリジェンス」(ここでは紙に書かれた段階で価値がどんどん下がっていくような一部の人が持つ情報と定義)、そしてそれだけでは駄目で他に我々がよく知る「インフォメーション」と「データ」が加わる、著者によるとこれらの情報をバランス良く取得することこそ現代を生きていくうえで重要なのだという。
「インフォメーションすら知らないのは非常識、インフォメーションだけを知っているのは大衆、そして、インテリジェンスもインフォメーションも両方持ち合わせているのが情報通」(本書抜粋)
人々にあまり知られてない情報ほど価値が高いと捉える実に明快な論理で、続いて著者の実践する情報摂取方法が列挙される。
特に気に入ったのは、読む雑誌は海外誌または新潮社が運営している会員制国際情報誌「Foresight」であり、観るテレビは地上波ではなくBS番組(特に「国際報道2015」)といったように誰でもアクセス可能な媒体から最大限価値の高い情報を引き出そうと試みる著者の姿勢である。
書かれてない情報の取得に関しては、テレビ番組や雑誌の内容を読むのではなく意識的に背景にある広告に着目すること、また「ビフォア」を知らなければ「アフター」がわからないという観点で著者の実践したキューバ旅行記事は読んでいる最中、実際にキューバとアメリカが国交正常化したニュースが流れてきたので変化が起こる前の状況を知ればより「アフター」がわかるということの重みを知り、「なるほど」と頷いた。
人と同じ情報だけで満足していると「忘れられた大衆」となり現代を生きていくうえでリスクが高まる。だから人と違う情報を持ち「自分に意外性を持たせることを常に意識する」、そのために安い食べ物ばかりを食べ続けてはいけないし、馬鹿情報に関わってはいけない。
この言いようにはむかつく人もいるだろう。「読書」を優先する考え方は佐藤優に代表される功利主義的読書に近いので好き嫌いは別れそうな本ではある。
しかし収入もそうだが情報に関しても格差はますます進行していることは事実だ。ほとんど知られていない美味しいお店やレジャーの過ごし方、優良株に投資案件、そこまで苦労しなくても当たり前のようにこれらの情報が上のレベルになると入ってくる。なぜならその人たちがゲームを回しているから。
それを踏まえた上で、こういう勉強系の本はそれぞれがアレンジし、いらない部分は適当に「捨てればいい」、自分の信条としてはくだらないゴシップや無料同然の値段でたたき売られているゾッキ本を自分なりの仕方で料理していくことも情報時代においてはひとつの武器であるという認識があり、あまり駄目な情報を駄目だと考えていない。
希少な情報を得たものが生き抜きやすいといったときの、その「希少性」は各個人によって認識が異なるため、それは読んだ人が細かく熟考したほうが良さそうだ。
情報取得のバランス加減は本当に難しく、意識せずに漫然とゴミ情報を垂れ流したままだと、ただの雑学野郎と化す可能性があることを思い起こさせ自分には耳の痛い本だった。「人は易きに流れる」とは昔の人はよく言ったものだ。
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