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名言も豊富!大笑い読書漫画、『バーナード嬢曰く。』感想

      2016/11/27

本についての漫画や小説は面白い。物語形式でその本についての思い入れを語ってくれると、読んでないのに読んだ気分になって面白いから・・・。

そんなグウタラ野郎、それは俺だけじゃなかったのか!!とピンポイントで笑わせてくれる物語満載の読書漫画がこれ!施川ユウキ『バーナード嬢曰く

 

 

『バーナード嬢曰く。』第一巻

この漫画一言で評するなら「読書あるある」。そして凄いのは、その「あるある」の精度。「読書が趣味」と公言したことがある人なら一度は思ったことや数々の「偏見」をピンポイントで打ち抜いてくるのだ。

まず登場人物が最高にイカしてる。

  • 本については詳しいが実際にはあまり読まずに語る、偉人の名言が大好き自意識高い女子「バーナード嬢」こと町田さわ子
  • そのバーナード嬢を観察する、ベストセラーを周回遅れで読むのが趣味のイケメン遠藤くん
  • その遠藤くんを観察する図書委員の内気な女子長谷川スミレ
  • 乱読派の行動派、SFについて語りだすと止まらない強烈なツッコミキャラ・神林しおり(時には拳が飛び出る)

この四人を軸に、大体は学校の図書館で物語は繰り広げられる。

「読書あるある」を臆面もなく口にする自意識過剰なバーナード嬢は、ある意味言えないでいたことを言ってくれる読者の分身であり、その発言に対して周りがツッコミを入れていくという構成となっているのだが、乱読家・神林しおりとのやりとりは漫才。

特に自分がこの本を読むキッカケとなった夢野久作『ドグラ・マグラ』についてのやりとりが最高なのである(第二巻に収録されている。)


バーナード嬢「今ハマってる本は『ドグラ・マグラ』って言うの恥ずかしいな。「狂気の世界に心酔しちゃってるこの私注意」・・・みたいなアピールになりそうで」

神林しおり「バン!(机をたたく音)、なんねーよ!てゆーか他人からどう見られるかとか意識して読書すんな!」「そんなん気にしてたらどんな本に対しても読者層を勝手にステレオタイプ化した挙句わたしはあえて一歩引いた距離感で読んでます」みたいな保険かけたつまんねえ読み方しかできなくなるんだよ」「人に影響を与えられる本っていうのは毒になろうとも薬になろうともそれだけで貴重な財産なんだ!」「イタイとか恥ずかしいとか思われようが読了後生き方が変わるくらいどっぷり作品世界に浸からないと濃厚で価値のある読書体験は得られないんだよ!!」

バーナード嬢「ふええ・・・。」 


 

刺さりすぎて清々しい。

本を読んでいくうちにその本の持つ常識的価値という外的な情報ばかり知るようになって、いまさら読むのは・・・とか、これを読んだら次は・・・流れ的にこれだな。とか、そういう「外」を気にして作品を選ぶようになってしまう。そんな心を打ちぬいていく見事な名言です。

第一巻に収録されている作品として、特に大笑いさせてもらったのは

  • グレッグ・イーガン『ディアスポラ
  • ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄
  • サイモン・シン『フェルマーの最終定理

ちなみに一番笑ったやりとりは、サイモン・シン『フェルマーの最終定理』


バーナード嬢「スタイリッシュに読書を嗜んでたのに、一瞬気を抜いてしまったようね」

遠藤君「何 読んでんだ?」

バーナード嬢「ばばーん 新潮文庫夏の百冊よりサイモン・シン『フェルマーの最終定理』」

遠藤君「あっ それ読んだ 面白いよね」

バーナード嬢「ナニ!?」

バーナード嬢「待って!ネタバレしないで!」「わー」

遠藤君「ネタバレもクソもねえよ最終定理が証明されるんだよ」

バーナード嬢「わー」


というわけでサイモン・シン『フェルマーの最終定理』とジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』を読んでみます!(注:ずっと棚に眠っていたのにも関わらず友人諸氏に「歴史に残る名著だよ!」と薦めていた自分

追伸)ちなみにこの本の中で取り上げれらている、志茂田景樹が書いた料理人・周富徳が事件の謎を解いていく『周ロック・ホームズ』、2014年7月現在マーケットプレイスでクソ高くなってますw。 

バーナード嬢「村上春樹作品との距離感・・・どーいうスタンスが正解だと思う・・・?」

第二巻では、ついに切り込んできました村上春樹。

遠藤君「つーか そもそも村上春樹好きなの?嫌いなの?」

バーナード嬢「まだ一冊も読んでないよ」(キリッ

名言だけを集めて記事に出来そうなほど、今回も面白かった。

バーナード嬢「読んでない本を読んだ気になるのに楽をするな!」

長谷川スミカ「ホームズに正しい順番なんてない!!」

バーナード嬢「病床で尾崎放哉読んでるとこのまま死んでしまいそうな気分になるなー」

 

前作よりも神林しおりとバーナード嬢の友情成分は多め。じんわりきました。

そして『周ロックホームズ』がアマゾンのマーケットプレイスで高くなっているのもネタとして取り上げられています。ちなみに現在出品なし、ということは誰かが2万円で買ったみたい。おそろしい・・・!!

あと水嶋ヒロ『KAGEROU』についての、ここまで愛にあふれた感想はなかなか無い。必読。

「本屋でラノベっぽい表紙になった『虐殺機関』『ハーモニー』を見てガッカリしつつも「でも文庫化する前の単行本の時キャラクターが表紙だったから戻っているとも言えるんだよな・・・!」と謎のフォローをして負の感情をなだめている表情(神林しおり)」

『バーナード嬢曰く。』第三巻

2016年11月27日更新

アニメも絶好調放映中の「バーナード嬢曰く。」このタイミングで第三巻が出ました。

『タタール人の砂漠』やら『高い城の男』やら出てくる本が最近読んでいる本と被っていたので、かなり感情移入した第三巻。

前作以上に「ド嬢」町田さわ子と神林しおりの仲が良くなっています。

女性同士の仲が良いとすぐ百合って言っちゃいそうになりますが、そういうことではありません。寒空の下アンナ・カヴァン『氷』を読んで身も心も冷たくなっている神林の手を、「神林の手すっごく冷たいよ!!」と握りしめるド嬢の天然さに救われる感じがたまらないのです。

そして第三巻も名場面ぞろい。

特に歯痛で苦しむ町田さわ子が坂口安吾「不良少年とキリスト」の一節を読むあたり。

然し、生きていると、疲れるね。かく言う私も、時に、無に帰そうと思う時が、あるですよ。戦いぬく、言うは易く、疲れるね。然し、度胸は、きめている。是が非でも、生きる時間を、生きぬくよ。そして、戦うよ。決して、負けぬ。負けぬとは、戦う、ということです。

それ以外に、勝負など、ありやせぬ。戦っていれば、負けないのです。決して、勝てないのです。人間は、決して、勝ちません。たゞ、負けないのだ。

勝とうなんて、思っちゃ、いけない。勝てる筈が、ないじゃないか。誰に、何者に、勝つつもりなんだ。

時間というものを、無限と見ては、いけないのである。そんな大ゲサな、子供の夢みたいなことを、本気に考えてはいけない。時間というものは、自分が生れてから、死ぬまでの間です。

大ゲサすぎたのだ。限度。学問とは、限度の発見にあるのだよ。大ゲサなのは、子供の夢想で、学問じゃないのです。原子バクダンを発見するのは、学問じゃないのです。子供の遊びです。これをコントロールし、適度に利用し、戦争などせず、平和な秩序を考え、そういう限度を発見するのが、学問なんです。

自殺は、学問じゃないよ。子供の遊びです。はじめから、まず、限度を知っていることが、必要なのだ。

私はこの戦争のおかげで、原子バクダンは学問じゃない、子供の遊びは学問じゃない、戦争も学問じゃない、ということを教えられた。大ゲサなものを、買いかぶっていたのだ。

学問は、限度の発見だ。私は、そのために戦う。

全文は青空文庫でもよむことができます。

「不良少年とキリスト」(http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42840_24908.html

この文章はすべてが素晴らしく輝いていて、漫画の中で引用された一節以外にも胸にグサリグサリと刺さるので是非読んでみてください。

 

あ、そういえば第二巻と第三巻の間にあの「周ロック・ホームズ」を探し当てて読むことに成功しました。

なんか普通に周富徳が軽井沢で事件を解決するというもので、合間に見事な中華料理を作ってくれます。

シャーロック・ホームズ成分はほぼありません(笑)

 

 

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