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2014年上半期の劇場公開映画10選

      2016/05/05

 上半期に劇場で見て印象に残った10本(公開日順)

ジェフニコルズの映画「MUD」MUD マッド

・映画の冒頭、両親の喧嘩を盗み見した少年が逃げるようにミシシッピ川を友人とボートで上り、マッドに出会うまでの一連の流れの素晴らしさが「新たなアメリカ映画の名作が誕生した」という事前の評を確信へと変えてくれた。道を外れた男に少年が心惹かれていくという古典的な設定と泥、川、拾うことなどの細部のイメージが響きあい堂々たる傑作となっている。様々な「愛」を区別できない少年が「愛」という言葉がいかに複雑で脆いのかを知ってしまい、そのすべてをマッドに叩きつける慟哭の演技を是非見てほしい。物語の行く末を見守るのが実は・・・という構成も好み。「ダラス・バイヤーズ・クラブ」で見せたマシュー・マコノヒーの演技はもう当然のこととして(笑)、子役のタイ・シェリダンには注目。そして監督ジェフ・ニコルズにも期待。


映画「「抱きしめたい-真実の物語-」抱きしめたい-真実の物語-

・事前にこの作品の監督である塩田明彦の『映画術』という名著(上半期読んだ本の中でも特にオススメ)を読んでいながらも「難病の女性と彼女に恋した男、日本中が涙した本当にあった奇跡のラブストーリー」というハードルの高い宣伝に二の足を踏んでいた。そして、偏見で映画を見てはいけないとつくづく思い知らされた一本。きらめきは不都合な部分を描いているからこそ、輝きを増す。北川景子のリハビリシーンを目をそむけるな!と言わんばかりに長回しで観客に見せるからこそ、それを受け止める錦戸亮の格好よさに痺れ、北川景子の演技を堪らなく愛おしく思える(メリーゴーランドのシーンなどはその「きらめき」に何度見ても泣いてしまう)。北川景子を介護する錦戸亮の手際が物語が進むにつれ上手くなっていく描写にも胸が苦しくなった、そういう細部の積み重ねがこの映画を凡庸な輝きだけの映画とは一線を画すものとなっている


映画「RUSH ラッシュ/プライドと友情」RUSH ラッシュ/プライドと友情

・やっぱり邦題が良くないのか実際に劇場に足を運んだ人は少ない印象。何度も流された予告によって「対照的な二人のレーサーの話」という物語の筋がある程度わかってしまうからかもしれません、でもそれで見た気になるにはあまりにもったいない映画です。「1年で25人のレーサーのうちの2人が死ぬ」そんな1970年代の危険すぎる「F1」を背景に、普通じゃないジェームズ・ハントとニキ・ラウダという実在の天才二人をどう描き分けるか、まさに「アポロ13」の監督である職人ロン・ハワードの手腕が光るのです。F1については知らずとも、エンジンの爆音・車の描写に、ただ迫力があるということ以上の狂気寸前の鬼気迫るものを感じました。二人の因縁のはじまりから、どのような選択の果てにラストシーンへたどり着くか、最後のモノローグは本当に美しかった。


映画「ニシノユキヒコの恋と冒険」ニシノユキヒコの恋と冒険

・女性が何を望むか理解出来てしまい、実行しちゃいもするから「モテてはフラれる」男ニシノユキヒコの一代記、これがまったく嫌味じゃない竹野内豊(いつの間にか渋さも会得してて最強だった)と共演する魅力的な女優陣、魅力的とは即ち7人の女性が今まで見せたことがない表情で演技をすることです。この文章を書いている最中もいくつかの場面を思い出しニヤニヤしてしまい手が止まる始末(尾野真知子との椅子でのイチャイチャシーン等)、その人物にはその人物のもつ場所があるという風景映画としても、風の動き、犬、猫、飲み物などの細かな小道具の使い方を見る映画としても宝物のような映画。女性がだんだんと離れ出していくのも明確に「ここ!」と区切らないで徐々に・・・という演出が本当に凄い井口奈己監督(ドSとは竹野内豊談)、長回しでも見る側は緊張しないのはここに出てくる登場人物をずっと見ていたいから!


ザイドル「パラダイス愛 神 希望」パラダイス・愛

・「私はザイドルほどに映画で地獄を直視したことはない」とはヘルツォークの言葉。それを受けておそるおそる「愛・神・希望」の三部作(love/faith/hope。faithはどちらかというと信仰って感じじゃないかしら)を見に行き衝撃を受けた。それは事前に思っていたのとは違う衝撃だった。「パラダイス・愛」の物語はケニアのセックス観光が舞台となっている、ウィーンから来た太った白人女性が現地の黒人をお金で買う。偏見に満ち、リゾートの敷地を飛び越え欲望をどんどん曝け出していくグロテスクさ、しかし「収奪」の比喩なのではないのか等の倫理的な問題を超えて物語の終盤に至り、その横たわる「肉」はますます美を獲得していくように思えたのだ。美と醜悪さの境界は思ってた以上に曖昧だということ、まったく想像もしてなかった鑑賞体験であった。


映画「ホビット竜に奪われた王国」ホビット 竜に奪われた王国

・前作の「ホビット」を見て改めて「ロード・オブ・ザ・リング」が絶望的な戦いだったんだと思い知ったものだった。それは前作が「LTR」におけるゲームクリアの指輪を普通に使用でき仲間たちとも和解し「俺たちの闘いはこれからだ!」的ラストで終わったことに起因する、けれど続編である本作は絶望が背後からヒタヒタと忍び寄るそんな怖さがあった。徐々にビルボの精神に闇が侵食する描写(フロドと違ってサムはいない孤独)、「旅をする前の自分には戻れない」と言うのなら王国を取り戻した後にビルボはどうなってしまうんだという不安を観客が抱えたまま、現れる邪竜スマウグの圧倒的強さ、すべてがスケールアップした物語が唐突に終わりスタッフロールが流れた時の場内のざわめき、「次」への期待という熱がいまだにくすぶり続けています、もう、ここまで来てしまったんだというスケール感に「どう幕を引くんだ」という三部作完結篇の邦題は「ホビット 決戦のゆくえ


映画「LEGO(R) ムービー」LEGO(R) ムービー

物語の主人公は才能を持つ人以外はなれないのか?という問いにひとつの回答を与えてくれる映画である。が、そうした少し流行の脚本を軸にひねりを3回加えてある。1つ目、まず凡庸さといっても、その描き方が徹底している。主人公エメットは朝起きるとまずマニュアル本を見て動く、みんなと同じ音楽を聴き、建物を作りその建物を壊す仕事をして一日を終える。「秩序」が称揚される街の中でもとびきり一番「凡庸」である。そんなエメットがある偶然から「穴」に落ち美女と出会い、「選ばれしもの」としてレゴ・ワールドを支配している「おしごと大王」と戦う使命を帯びる。あらゆるキャラの立ったヒーローが立ち向かうが打開策を見出せない、しかしその突破口はエメットの能力だった・・・。二つ目のひねりはそんなエメットが見つける「選ばれしもの」の本当の意味である(ライムスターの曲に似たようなのがあるけど伏せます)そして、3つめのひねりはこちらの想像を上回ってきます。レゴの思想とは何か、物を作るとはどういうことか?形式と内容が完全に一致したときの 衝撃に「やられた!」と映画館で叫びそうになりました。この映画「とにかく驚くから」是非あまり事前に情報を入れないで見てほしい。確か8月にツタヤからレンタルされる予定。


ワール映画「ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う」ズ・エンド 酔っ払いが世界を救う

・学生時代、一晩のあいだに十二軒のパブを回るという計画を立てるも最後の店「ワールズ・エンド」(世界の終わり)にたどりつくことが出来ずに失敗した5人の仲間たち。月日は流れ、中年となったリーダー格のゲイリー・キング(サイモン・ペッグ)が再び仲間を招集し学生時代に出来なかった「ワールズ・エンド」までの計画をやり直そうとする、しかし故郷「ニュートン・ヘイブン」に舞い戻った5人を待っていたのは、エイリアンに侵略されていた街の姿だった・・・。「宇宙人ポール」「ホットファズ」と設定の奇妙さを予測もしない方法でまとめるエドガー・ライト監督の最新作。ボンクラが世界を救うというような単純な終わりではないので、過去とどう折り合いをつけるかという構造に着目して、最大限に広げた風呂敷をどのように畳むのかを見てほしい。結局、自分の好きな映画は一つの物語がより大きな物語の一篇にすぎなかったという構造を持つのだと再認識。ラストは本当に胸が痛くなって「案外お酒飲むシーン少なかった、微妙」と言われたら自分が傷つくそんな自分にとってのバイアス映画、最後に主人公が飲む飲み物にご注目あれ!


映画「野のなななのか」野のなななのか

・オープニングで前作「この空の花」を思い出して泣いてしまった。前作ではテロップによってキーワードを文字にするという手法をだったが、今回それが適用されるのは登場人物の名前のみ。その登場人物も次から次に出てきて誰がどういう関係なのか最初はわからず、そこに大量の物、場所などの情報が過去と現在関係なく次々と入ってくる。それでも2時間51分、散らばることなく映画をまとめあげていたのは作り手の凄まじい「情念」だったように思う。

日本の近現代史の中で忘れつつある一つの歴史を提示するという前作の共通点はそのままに、一人の男の死を軸として語られる北海道・芦別の歴史、そこの炭坑で働いた朝鮮人、赤毛のアンの家、高度経済成長での過疎化、ソ連との戦争などの物語が時代関係なく前後左右入れ替わり、まるで一枚の絵のように、しかし決して平面ではない立体的な構造をもった歴史として見るものに迫ってくる。


映画「グランド・ブダペスト・ホテル」グランド・ブダペスト・ホテル

濃密な100分の幸せ体験、そして最後はほろ苦いウェス・アンダーソン印。すべての物事を徹底的に構築して、それが衰退する様を描くことで最良の良き時代を物語る。けれどその物語る行為によって「グランド・ブダペスト・ホテル」は失われたかもしれないけど、その遺志を受け継ぐものはいつの時代も現れるっていうことをサラリと書いていくのが、もう何という幸せな時間なのだろう。伝説のホテル・コンシェルシュのやり方を真似る青年、そこに「戦争」の影が忍び寄るという話の構造に私はフラバル原作のイジー・メンツェル監督「英国王給仕人に乾杯!」を思い出した。パンフレットは絶対に買い。ウェス・アンダーソンがこの映画を作るうえで影響を受けた映画や出演者のコメント、ここ数年で一番のパンフレットの出来栄えでした


 

上半期はまだ見てない映画がたくさんありますが、とりあえずこんな感じで。

 

 

 【関連記事】

 - まとめ

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