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岩井俊二のMOVIEラボ第四回「ホラー編」まとめ

      2015/12/02

 岩井俊二のMOVIEラボ第四回「ホラー編」

【主宰】岩井俊二

【レギュラー講師】樋口尚文、岸野雄一

【ゲスト】「呪怨シリーズ」清水崇、「ホラークイーン」三輪ひとみ


 (岩井俊二が凍りついた一本)

岩井俊二
「えー、今日はホラー映画について存分に語りたいと思うんですけど、意外と今回どんなのがあるかと色々思いめぐらしていくうちに、こう脳のこの辺にあんまり思い出しくない色んな映画がたまっている感覚に気づいた(笑)ああこれがホラー映画かと。

「それで、ホラー映画かどうかわからないんですけど『ツィゴイネルワイゼン』っていう鈴木清順監督の作品で。でも幽霊が絡んでくる話。なんともいえない怪談ですよね。こういう恐怖があるんだという、恐怖というか凍りつく感じにかなり眩暈がします、どこに連れてこられたんだ我々は、という。気が付いたらどっちなんだ、生きているのか死んでいるのかもうわかんなくなる。」

岩井俊二

「あの頃鈴木清順の記号論というか色々言われてて、女の人が立っているときに手を隠していたりするとその人は死んでるとか学生同士で語り合ってたことがあるんですけど」

清水崇
「突然舞台になったような。舞台演劇になったような・・・凄い影響を受けました。映画ってこんなこともしていいんだという」

(ナレーション)

「ホラー映画とは観客に恐怖を与える映画」定義は様々、ここからはどのような変遷をたどってきたのか見ていく。(参考映像『カリガリ博士』)


 「恐怖その1 モンスター」

岩井俊二
「自分たちが子どもの頃って大体、吸血鬼ドラキュラと狼男とフランケンシュタインがトリオのように有名で、それぞれ個別の作品があって。ドラキュラ映画はほぼ毎年のように新しいのがやっている感じでしたよね。子どもの頃はまあ怖かったですよね、怖いのに見て眠れなくなるのローテーション」

(ナレーション)

1930年代から60年代後半まで恐怖映画の主役はモンスターたち。ヨーロッパの古い伝承や物語がキャラクターとして確立。

「狼男」、「フランケンシュタイン」、なかでも人気だったのは「ドラキュラ」

 
三輪ひとみ
「ドラキュラって怖いんですか?私たちの世代はそうかもしれないんですけど、怖い存在じゃなくないですか?」

岸野雄一
「あの、女性は意外とドラキュラファン多いんですよ。話を聞くと白馬の王子様にも来てもらいたがって魔人ドラキュラにも来てもらいたがっているような」

清水崇
「色気があって、フランケンシュタインや狼男よりも人間の姿をしている。どっか魅力的でジェントルマンなのにいざとなったら襲ってくる。それが男の人もこう格好良いなと憧れるところもあって、それがドラキュラ俳優っていうのを生むぐらい」

 

(ナレーション)ドラキュラ俳優について

ベラ・ルゴシ→品格ある風貌、オールバック、黒いマントというイメージを決定づける。

クリストファー・リー→口元のしたたる血液の描写というイメージを決定づける。

ホラー映画の主役はモンスターたち。しかし「1968年」を境に新たな主役が登場する。


 (恐怖その2 ゾンビ)

岩井俊二

「ある年代からするとホラー映画のイメージはゾンビ映画ってことになっていくのかなと思うんですけど」

(ナレーション)

ヨーロッパの伝承に頼るのではなく自国オリジナルのアイコンとしてのゾンビというモンスターの誕生。

「ゆっくり歩く」「生肉を食べる」などの表現を決定づけたジョージ・A・ロメロ『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)

清水崇
「もともとブードゥー教の流れ。生者を夢遊病状態にして奴隷としてこき使うという伝説があって、決して死人が甦るとか人肉を食べるといったものではなかった。それをロメロ監督が映画用にして。予算もないのでカラーが全盛になってきたころにモノクロで」

岸野雄一
「やっぱりその背景として移民社会というアメリカの状況があって、そのなかでブードゥーというのを異教として何か怖いものとしてみるキリスト教的な考えがあるんだと思います」

清水崇
「でもキチッとそういう世界を作りながら、主人公を黒人に設定するというところで当時の社会的背景を取り入れてるのが凄い

岸野雄一
「ゾンビって本当に凄いアイデアで、ロメロはそこに現代文明に対しての色々なことをうまく取り込んでる」(映画の背景、黒人の公民権運動「ワシントン大行進」1963年)

  • 『ドーン・オブ・ザ・デッド』(『ゾンビ』)・・・大量消費社会の風刺。ロメロ監督はこの作品から社会風刺的な意識を出すようになる。
  • 『ランド・オブ・ザ・デッド』・・・貧しいものがゾンビの脅威にさらされるという格差社会を描く
  • 『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』・・・重要なキーワードに動画共有サイト。

ナレーション「ゾンビはヨーロッパ生まれのモンスターと異なり、アメリカならではの自由な存在として今も増殖を続けています」


 (恐怖その3 オカルト)

『ローズマリーの赤ちゃん』(ロマン・ポランスキー監督 1968年)

~悪魔崇拝の影におびえ、目に見えない精神世界を描く。モンスターのように外から襲ってくるのではなく人間の内面から襲ってくる~

岩井俊二
「これはちょっとシャレにならないオチというか・・・」

樋口尚文
「今でも怖い」

岩井俊二
シャレにならないというのがこの映画を初めて見たときの感想。次々と裏切っていく・・・」

岸野雄一
「この映画が作られた1960年代後半、ベトナム戦争の疲弊、恐れが外側に表出してきた。隣人が怖い、夫が怖いという色々なものが信じられなくなっていく、ここがモダンホラーの転換点」

(1973年『エクソシスト』で一つの臨界点へ)

岩井俊二
「『エクソシスト』は僕もめちゃくちゃ好きで、おそらく全映画のなかでもベスト5に入れるぐらい普通に映画として見てる。本当によくできてる。なんとも言えない魅力がある」

樋口尚文
「悪魔出てくるんですけど、実体としてよりも人間のやましさ、介護をしなきゃいけないお母さんをほっぽいてたり、忙しい母が娘を構えないというめちゃくちゃ日常の感じで怖い。」

岩井俊二
「悪魔が娘に取りつかれてという話なんですけど、意外と一切悪霊がいなくても成立するんですよね。これは比喩なのかとかいろんな見方が出来る」

清水崇
「オカルトっていうのがあの映画から流行った。ホラー映画というのも今ほど市民権がなくてゲテものというイメージを持たれているなかで女優さんという職業の主人公が出てきて、宗教とかにも懐疑的で、しかも日常を描くといったああいうリアリズムの中で信じる・信じないじゃなくて起ったことをそのまま見せられるかのような、だから傑作になったんじゃないかと」

岩井俊二
「悪魔祓いをするときに息が白い。今だったら合成とかあるんですけど冷凍室のなかにセットを組んで5~10分しかいられないところで演技をさせてる、マニアックな情報を(笑)」

樋口尚文
「キリスト教を信じている人からしたら物凄い衝撃だったと思うんですよ。アメリカでも失神者が続出したという・・・」

岩井俊二
「ある意味、牧師たちが敗北していく話でもあるし」

(ナレーション)

神を唯一絶対のものとしているキリスト教において悪魔が勝利するというのは考えられないことだった。この時代に映画で描かれた悪魔は絶対的存在を脅かすものとして時代の空気を敏感に捉えていた。

その他ホラー映画名作コレクション、映像とあらすじ
・『悪魔のいけにえ』
・『オーメン』
・『キャリー』
・『死霊のはらわた』
・『13日の金曜日part3』


 (恐怖その4 POV)

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』

家庭用ビデオカメラの普及による主観ショット=POVが新たな恐怖へ。『REC』、『クローバーフィールド』の映像。

岩井俊二

「『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を見たときは1時間30分、完全無欠にやりとげていて凄いなと思いましたけど」

清水崇
「この主観ショットというやり方は学生さんとか今映像を撮ろうと入口に立っている人にとってやりやすいとは思う。だから新しいものが生まれれば凄いなとは思いますし、人の真似ではなくてその手法で新たな才能があらわれてほしいなとは思っています」


 (恐怖その5 Jホラーの衝撃)

日本のホラー映画、妖怪と幽霊

幽霊と妖怪という存在が主流、そのなかで新時代のクリエイターたちのホラー映画がJホラーと呼ばれる潮流を作る。

『女優霊』・・・Jホラーの先駆けとなった

岸野雄一
「普通にバスの前でハーイ監督♪と手を振っている後ろに、い、「いた」の気づきました?ああいうのがいちばん怖い。これに先行する形で脚本家の小中千昭と言う人が「小中理論」というのを提唱してて心霊写真が一番怖いんじゃないかということを言ってたりする」

樋口尚文
「ハリウッド映画って怖いものがバーンと言うアクティブな感じで、日本の映画は雰囲気の集積」

清水崇
「それまでは女優さんに青白い光をあててたり、透けてたら幽霊ですよみたいな説明的なものだったんですけど隅っこにいてただこっちを見ているだけで怖いという。そういう心霊写真的なものを持ち込めるんじゃないかと、それをしたのが中田秀夫、高橋洋、黒沢清だったりでJホラーと呼ばれるようになっていく」

 

~小中理論とは~

脚本家の小中千昭が自らのホラー理論をまとめたもの。

テーマはファンダメンタルホラー(根源的恐怖)を生み出す方法論

代表的ルール
・恐怖とは段取りである
・幽霊はしゃべらない
・恐怖する人間の描写こそ恐怖そのもの
など

中田秀夫監督『リング』、黒沢清監督『CURE』など


 (清水崇の恐怖演出)

呪怨シリーズが2000年スタート、一作目はオリジナルビデオ版としてスタート。

3年後に劇場版。小中理論を継承しつつ大胆に演出。

幽霊をボンヤリ見せるのではなくはっきり見せる。サム・ライミから絶賛され世界のスタンダードにJホラーを推し進めた

岩井俊二
「現場を知ってる人間からするとどうやってるのか?和やかにやってるんですか?」

清水崇
「監督によりけり、中田監督の場合は違うと思うんですけど、僕の場合はもう現場は明るく楽しく、僕が笑いすぎてスタッフに止められたり

岩井俊二
「それ本番中もですか(笑)?」

清水崇
「本番中もたまにこらえきれなくて笑ったり。僕の中で笑いと怖さが混ざって訳わかんなくなってるというのがあるんで」

樋口尚文
「そういうのを演じていてどうですか?」

三輪ひとみ
「楽しいですよね。ホラーって想像でやればいいので、こういうのをやらなきゃいけないというのがない。恋愛とかってある程度の決まりがあったりとか、恋する人間はこうあるべきみたいな。それが一番楽しい」

樋口尚文
「強張り方のコツとかあるんですか」

三輪ひとみ
「よく聞かれるんですけど。怖い時ってヒクんですよねヒッて、それが一番気持ち悪い顔で」

岸野雄一
「あそこの音の演出が本当に見事ですよね(『呪怨』の幽霊が発する音)」

清水

清水崇
「あれも子供の時のイタズラを覚えていた。台本にあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛と書いてこれですと。じゃあ監督やってと(笑)」

樋口尚文
「そういうホラー映画の演出の極意っぽいのはあるんですかね?」

清水崇
「基本的には僕の原体験。子供の頃に想像していたことのほうがよっぽど怖い。その想像していたことを全部出すというのが最初の『呪怨』」


(一分間スマホロードショー)テーマ「ホラー編」

岩井俊二
「今回見せてもらってこういう言いかたはあれですけど、よくわからないのが多かった。何が怖いのかもわからなくてそれがまた怖かった作品もあって非常に選ぶのが難しかった」

「その中で割とわかりやすいかな(笑)というのをいくつか選んでみたんですけど」


映画『言っちゃだめ』(監督:金子鈴幸)

~ストーリー~

引っ越す前の荷物が置かれてない部屋が舞台。

三人の男が笑いながら入ってきて一人はその様子をスマホで撮っている。しかし突然スマホの画面にノイズが入り別の映像が挿入される、それは彼らを隣の部屋から見ている映像だった。「どうしたんだよ」と仲間が言ったので撮影者はおそるおそるその部屋を指さす、スマホの画面にはその友人の顔が近づいてきて・・・何も起こらない。

だが次にスマホに映ったのは撮影者の後頭部だった。「言っちゃだめ」、女性の声がささやかれる。

清水崇
「凄くまとまってると思いました。最後の彼の後ろにいる幽霊を見せるか見せないかは迷いどころだと思いますね。あのスマホ画面だけでも怖いですし。手法としてあの画面を斜めに傾けたら女性がチラと映るというのも時間があれば出来たと思います」

三輪ひとみ
「それ怖いですね」

清水崇
「振り向けないんだけど、見るつもりないんだけど傾けたら映っちゃったみたいな感じで」


『鏡』(監督:楊震)

~ストーリー~

女性用トイレの部屋から出てくる中年の女性。少しあえぎながら一人の女性に「な、なにかいるみたい」と言う。女性は「見てみます」と言ってなかへと入っていく。(おどろおどろしい音楽、明滅する光、大きな音)横を見ると先ほどの女性

「どうだった」と聞く

(青白い口元のアップ)「ヴぁい、くぁかがみのなかぁにせ先生をみぃましとぁ」
水の滴る音(うっすらと現れ消える中年の女性の顔)

岩井俊二
「これ怖いですよね色んな意味で」

清水崇
「怖いですよね。なんか嫌ですよね」

岸野雄一
「リアクションの撮り方が上手いですよね、それで引っ張ってる」

岩井俊二
「どういうポイントで撮ったんですか」

監督:楊震
「女子トイレが一番怖いところだと思います。鏡を見るときに他人で見たらこれも怖いかもしれないと思って撮りました」

岩井俊二
「あの先生役の女性は?」」

監督:楊震
「指導の先生です」

岩井俊二
「凄い存在感のある(笑)学生映画っぽくなくてこういうの大事ですよね。ああいう人を何人持っているかという」


(終わりに)

(エクソシストの音楽がバックにかかりながら)

三輪ひとみ
「ホラーの中には笑いも美もあって、そういういろんな見方をしたら楽しい。私もスプラッタ物が苦手なので、面白いもの!と思ってみるようにしてるんですけど(笑)そういういろんな見方をしてもらえればホラーってマニアックなジャンルというものではなく、もっとみんなで若い人たちが作って私も参加できる世界になっていくんじゃないかと思いますけども」

清水崇
「僕も中学生ぐらいの時に、なんでわざわざそんなの作る大人がいて見たがる人がいるんだろうと思ってたんですけど、友達にお前映画好きな癖にホラーを差別するのかと言われて見る楽しさを知ったのでいろんな人に見てほしいと思う。ただ、なんかそのゲスなものでいいはずなんですよ。もっと偏見の目で見られてたときのほうが入口から怖かったかなと

三輪ひとみ
「ああ、そっかあ・・・」

清水崇
「ちょっと複雑な思いではありますよね。だんだん慣れすぎちゃうと飽きてくるし。まあとにかく絶対になくならないジャンルだと思うので人間のなかにある要素だから、出来るだけ新しいもの面白いものを見たいし作っていきたいなと思います」

岩井俊二
「怖いって感情は大人になるほど失われていく。忘れてたいろんな感覚をホラーは呼び覚ます。ある世界の豊かさをもっているジャンルだから新鮮な刺激があるんだろうなと思います」


 

ドラマ

次回はドラマ編、これも幅広いな(笑)

 

「ホラー」に関してはサタデーナイトラボのこの「ホラー映画講座」特集が面白かった、

参考文献

 

【関連記事】

 - まとめ, テレビ

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