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岩井俊二のMOVIEラボ第五回「ドラマ編Part1」まとめ

      2015/12/02

岩井俊二のMOVIEラボ第五回「ドラマ編Part1」(2015年2月5日放送)

【主宰】岩井俊二

【レギュラー講師】樋口尚文、岸野雄一

【ゲスト】大林宣彦、常盤貴子

 *今回は1分間ロードショーが5本と文字数が多め。


(『ゴッドファーザー】の画像&音楽が流れる) 

岩井俊二
「五回目と六回目はドラマというジャンルを取り上げたいと思います。以前スティーヴン・セガールさんの自宅にお邪魔したことがあるんですけど本当に映画のセットみたいなお宅で、映画監督なのか!何撮ってるねん?ドラマかい?って聞かれて、その時初めてドラマっていうのがあるんだと知ってですね、彼はアクションだったら何でも聞いてくれ、ドラマだったら勉強させてくれと冗談交じりに言っていた。(ドラマは)ラブストーリーとかも含まれたりするんですけど、非常に漠然としたジャンルで映画=ドラマなんじゃないかなと思ったりもします

(ナレーション)

映像『チャップリンの駆落』

・ドラマとは「登場人物の行動や行為を通して描く物語」で語源はギリシャ語のドラン=「行動する」からきている。

映像・大林宣彦監督最新作『野のなななのか』

「人間の行動にはその人の性格、生き方、人生があらわれます。ドラマ作品とは登場人物の人生を描く物語といえるでしょう」

第五回は人生の描き方に注目して映画におけるドラマ作品を見ていく。


(岩井俊二 ドラマ作品この1本『市民ケーン』)

岩井俊二
「市民ケーンっていう映画があって、よく世界映画ランキングとかあると一位二位を競ってる有名な映画なんですけど」

『市民ケーン』

(説明)
オーソン・ウェルズが監督主演した『市民ケーン』、大富豪ケーンの死から始まり、続いて彼の半生をまとめた約9分間のニュースシーンの挿入。その後二時間をかけて幼年期から死の直前までが描かれケーンの孤独な人生が明らかになっていくという作品。

岩井俊二
「映画を見終わった後、変な感覚に襲われたんですね。あれこの話知ってるな、と思ったんですよね。なんでだろうと、よくよく考えたら最初のニュースで見たじゃんって、特に何も変わってなかったんですよね。描かれてることが。その時にこれは凄いなと思って」

「人生っていうスライス・オブ・ライフみたいな言いかたもありますけど、瞬間を描いたりだとか、瞬間を繋いだりとか考えてみれば人の人生って80年とかあったと思うんですけどリアルタイムで80年間を描くことは不可能なので二時間で描くダイジェストなわけですよね。限界はあるんだなというか、限界があるから凄いのかとかいろんなカルチャーショックが市民ケーンについてはありました」

大林宣彦
「スライス・オブ・ライフね。人生の断片だよ。人生って生まれてから死ぬまで縦軸のこういうものがあるんだけども、そこをスゥーッとこうして差し出したのがそれ。

「スライス・オブ・ライフ」

「スライス・オブ・ライフ」

 

(ナレーション)人生の断片=スライス・オブ・ライフとは?

フランスの劇作家ジャン・ジュリアンが提唱。日常の一場面を切り取るという手法。 

 

アメリカでは1950年代、主にテレビドラマでこのスライス・オブ・ライフと言う手法が人気を博す。

代表的な作家はレジナルド・ローズ、彼が手がけた脚本『十二人の怒れる男』はテレビを経て映画化。

現代ではコマーシャルなど広告の世界でよく使われる。


 (スライス・オブ・ライフ①小津安二郎監督「父ありき」の場合)

岩井俊二
「人生ドラマで面白い作品として小津安二郎の作品、小津さんと言えばああいう感じが頭に浮かぶと思うんですけど僕が意外と好きな作品が『父ありき』という白黒の古い作品です。父親がいて彼自身の長い人生のなかで息子と会う場面だけを切り取って繋いだという作品」

『父ありき』

(説明)
ある親子の関係を息子の少年期、働いて社会人となった後の二つの時代で描いた作品。離れ離れで暮らしていた長い年月は一切描かれない

 

岩井俊二
「意外とその父親の人生の中で二人が出会う回数って少ないんですよね。その少なさが凄いショッキングな・・・なんかこう人生って切り取り方によっては凄く残酷に見えるんだっていうことが映画の凄さでもあり怖いところだと思いました」

 

大林宣彦
「非常に日常感のある、ドラマでもなんでもない普通の日常を描くわけだけども親子が会ったところだけをスライスして取り出すとそこだけの定点観測になるんだな。定点観測することでそれが変化するのかしないのか、その変化が面白いだろう、それによってこの親子の関係が見れるだろうというね」

 

(ナレーション)小津安二郎のスライス・オブ・ライフの手法。

「父ありき」では親子が一緒にいた期間だけで父と子の関係を描いた。

「秋刀魚の味」では結婚式そのものをまったく描かず、結婚前と結婚の後の様子だけで父と娘の関係を描く。

 

常盤貴子
「正直、小津映画の俳優さんたちのお芝居の仕方がよくわからなかったんですね。というのはインタビューとかを見ると、「みなさん、ここで二歩前に行って、二秒たったら上を見て、そしてすーっと出て行ってください」で何を撮ってたかわからないって皆さんおっしゃってたんですね。そのことが俳優としてのプライドがどこにあるのかとずっと不思議だった。何も考えずにやってて、ええって、それでプロと言えるの?と思ってたんですけど、テレビドラマとかで自分が今お芝居をやった後に確認、チェックの時間があるんですけど、映画だとチェックを見る人は駄目な俳優と言うか監督に任せない俳優って風に思われる。ドラマの世界だとチェックを見ない不真面目な俳優になるんですよ(笑)」

 

大林宣彦
「そういうことか。女優は映される人で監督は映す人だから、映す人がオーケーと言えばオーケーで映される人は映される人だから見る必要がないんだよね」

「小津さんのような監督と言うのは、時間軸が、映画っていうのは時間芸術だからね、これを大事にしなきゃいけない。だから「お父様」と言い終わって「・・・」と一定の間があって「なんだい」ってなるわけ、これが1コマでもずれたら小津さんにはならない。「お父様」と言った娘がパチッと瞬きしてね、それで答えるお父様がぱちっと瞬きして「なんだい」だとどうなる?<「お父様」(パチッ)(パチッ)「なんだい」>となるからこれは駄目だと、<(パチッ)(パチッ)>のあいだには何もなくてそのあとに「なんだい」と言ってほしいと、俳優さんって緊張してるから(パチッ)ってやっちゃう。それをやるなとなると不自然になるから、やらなくなるまで何度も撮影するので30回も40回も撮影する。だから常盤さんが言ったように俳優さんは何をやらされてるのか全然わからない。でも出来上がった映画を見ると名場面なんだよね、そういう流れがあるからそこだけをスライスして取り出してきても情感が滲み出てリアリティが出てきてドラマになるということ」


(スライス・オブ・ライフ②ジョージ・ロイ・ヒル監督「ガープの世界」の場合)

岩井俊二
「映画っていうのは二時間しかない中で、どこまで、何を描くかと言うときにスライス・オブ・ライフで時間的解像度を落とさずにやるやり方もあるし、人生を全部描こうとすると凄い駆け足になるじゃないですか。で、逆にその駆け足を逆手にとって、なんかこう自転車の車輪が高速回転するとしまいには止まって見えるような、なんかそこまで行ってしまえという勢いで人生を捕まえてるような映画という、『ガープの世界』って映画なんですけど」

(ナレーション)

『ガープの世界』
・原作はジョン・アーヴィングのベストセラー小説
・主人公ガープの誕生から最期に至るまでの過程が描かれている。
・1分から3分ほどの短いエピソードを細かく積み重ねることで観客は主人公の人生を追体験する。
・小津安二郎のように日常のある一場面をじっくりと扱ったスライス・オブ・ライフとは大きく異なる人生の描き方となっている。

 

 大林宣彦
「スライスオブライフでその瞬間の良いところだけを持ってきて重ねていけば繋がらなくても人生が描ける、これが『ガープの世界』の素晴らしいところで、これはねスポーツ選手のいいところだけを1秒切り取ってそれを60秒繋げたらオリンピックが描けるとかね。そういう手法を映画の二時間枠のなかにね持ち込んでいった。それがジョージ・ロイ・ヒルと言う人の発明でもあったわけですよね、それこそ典型的なスライス・オブ・ライフの映画だ」

 

(ナレーション)

映画『フォレスト・ガンプ』
・短く切り取った人生の断片を細かく積み重ね人の一生を描く手法はこの『フォレスト・ガンプ』をはじめ多くの作品に取り入れられ一つのスタイルとして確立しています。

 

岩井俊二
「人間ドラマを描くときに、どのみちちゃんとは描けないという映画の時間的制限という宿命の中でどこを掬い取るかという流れの中で、どっか物語+αな果実からお酒を醸造するように、なにかこう+αを求めた結果なのかなと」

 

大林常盤

大林宣彦
「物語+α・・・わかるかい?(聴衆に向って)映像というのはこの情報(指先ちょっと)しか描けないんだよ。でも+αっていうのは想像力のなかにあるんだ。それがあるからスライス・オブ・ライフになるんだ。実はジョージ・ロイ・ヒルがやってたことも小津安二郎がやってたことも同じなんだ。根っこは。+αをやってるんだ。小津安二郎の映画に+αがなかったら「お父さん」「はい」と言ってるだけじゃない。その前後があるから想像力で見るから面白いんだね。だから俳優さんはそこだけやってくれればあとは観客が想像力で見てくれるよと。常盤貴子が「うん」と言って出ていったら後はどういう顔してたとかはお客さんが想像してくれるよという撮り方だから本だけはキチッとやってよというのが成り立つわけだ」


 (ハリウッドドラマ作品の転機)

1960年代ベトナム戦争の影響による作風の変化。そんな中、ある一本のドラマ映画が記録的名大ヒット。

フランシス・フォード・コッポラ『ゴッドファーザー』

岩井俊二
「とにかく衝撃的で」

大林宣彦
「そうだねえ」

岩井俊二
「我々世代はかなりインパクトを受けましたよね」

岸野雄一
「コッポラがこれまでのアメリカ映画を研究し尽くしてそれをどこまでも取り込んで集大成をやりたいみたいな」

岩井俊二
「自分なりの解釈なんですけど、なんですかね匂いみたいなもので・・・何が違うのかなと」

大林宣彦
「今言ったことは凄い重要で、匂いがしたって言ったでしょ」

岩井俊二
「ええ」

大林宣彦
「そこなんだよね。匂いがするっていうのは、映画は匂いしないんだよ、想像力で匂いを感じるわけだ。風景にも匂いを感じる、人の心に匂いを感じる。こういう想像力でドラマを作る、あるいはそういう想像力を持ってる人しかドラマを描けない。そういう時代に来たと思ったんですよ」

 

 (ゴッドファーザーの映像、従来のギャング映画では書かれなかった日常のシーンなど)

 

樋口尚文
「だんだん昔の映画をさかのぼって、ハワード・ホークスの『暗黒街の顔役』とか見ると『ゴッドファーザー』って映像主義の映画ですよね」

大林宣彦
「君たち(学生たち)が今見るとこの『暗黒街の顔役』なんかは味もそっけもない、つまり匂いなんか何もない映画だ。その代り見事に切れ味のいい、これぞハリウッド製ギャング映画ですよね。匂い抜きできっちりした映画になってる。その映画作法を学びながらね。そこに+αを入れてこうっていうのがね、ゴッドファーザー、コッポラの時代の映画」

 

(ナレーション)『ゴッドファーザー』について

・イタリア人原作者
・イタリア人監督
・アル・パチーノというイタリア系俳優の起用
。撮影地の一つにイタリアのシチリア島
・音楽はイタリア人のニーノ・ロータ

 

大林宣彦
「この音楽がいいでしょ。ギャング映画にこんな音楽はかからない。だからねギャングが崩壊したんだよ、ギャング映画というジャンルがね。これはホームドラマみたいなもん。それまでのギャング映画は何故かアメリカ人が作ってた。でもこれはイタリア人が作ったからギャング映画を超えて家族の問題とか食べ物の問題とかイタリアの匂いが出てきた。それがねそれまでのギャング映画との違い、コッポラは匂いを出したかった」

「でもねこれは完全な商業映画だったの。エンターテイメントとして、凄い、これは良くできてるよと職人だよコッポラは、と。だけど岩井さんたちの世代はパート2のほうがいいんじゃない?」

 

岩井俊二
「そうなんですよ。まさにそうなんですよね」

 

大林宣彦
「そうでしょう。パート2というのはねパート1と全然違うのよ、作家の映画になっちゃってるの。大衆作家だったコッポラがパート2では芸術家、芥川賞の作家になっちゃったんだよ。大ヒット作を作って、本当ならそっちいけば出世するしもっとお金持ちになれるのに、あえて自分の観客を捨ててきわめて芸術的なパート2を撮ったというのがコッポラの冒険だった」

 

(ナレーション)

『ゴッドファーザー Part2』について
・映像の質感にこだわる
・前作よりも意識的に台詞を減らし登場人物の感情を映像で表現
・この時代から映像でドラマを語る作風が数多く生まれていく

 


 (日本における映像主義)

岩井俊二
「1980年高校三年の冬、NHKでやってたんですよ。最初ドキュメンタリーなのかなと思って、ドキュメンタリーだったらテーマがあるじゃないですか、特に何もないのが映っていて何だこれはとみているうちに引き込まれた不思議なドラマがあったんですけど」

 

(ナレーション)

(佐々木昭一郎)『四季~ユートピアノ~』の映像
・主人公は雪国から上京し、ピアノ調律師となった栄子
・彼女の過去の記憶と日常が映像とモノローグによって綴られていく
・演出の佐々木昭一郎は一般人を俳優として起用。ありのままの風景や生活にカメラを向けてドラマを作り上げている

 

(映像を見た常盤貴子)
常盤貴子
「なにこれ、素敵!素晴らしい」

 

岩井俊二
「素敵でしょ。70年代後半から80年代にかけて出てきた新しいもの。雰囲気だったり見えない感覚みたいなものにずいぶん触れた時期だったのかなと。学生時代にかぶれて真似したりするんですけどね体を為さないんですよ。ただ雰囲気で真似してるだけ、林檎をもって女の子を歩かせてみたり(笑)」

 

常盤貴子
「あはは」

 

岩井俊二
「結局、何が足りなかったかというと物語なんですよね。こういう形でも物語があって語りかけてくるもんがあって形になってるわけですけど

 

大林宣彦
「空気感を大事にしようと思ったのかな。岩井ちゃんのように匂いであるとか、ノーメイクだったり、その辺に歩いてる人の何でもない笑顔や悲しみや喜びにカメラを持ち込んでそこにスライス・オブ・ライフで切り取って、それがいかにドラマとして作るかを佐々木さんや僕らの世代でね」

 

 (ナレーション)
佐々木昭一郎『アンダルシアの虹』
・のちのクリエイターに大きな影響

 

大林宣彦
「映像に流されてないよね。映像がきっちり言葉を持ってる」

 

岩井俊二
「映像主義だったり、映像が持っているものに何かを見出そうとしたりとか」

 

大林宣彦
「そういうのがね、もうゴッドファーザーの時代に始まっていた。だからねコッポラだったな、これからは一台の家庭用ビデオカメラが新しい作家を作るだろうと、彼自身がそれを宣言しましたよね」


 一分スマホロードショー ドラマ編

『あくる日』(監督:井口崇)

雑然とした部屋に入ってくる一人の女性。本を取り出して座ったところでもう一人が入ってくる。彼女に向って「これ今日初めて着たんだよ」と制服を指差しながら言う。

「朝ご飯は?」
「ちよ姉は?」

妹「ちゃんと片付けたのに、片付けてから死んだのに。また散らかしたから。遺書なんかないよ」
姉「母さん、訳が知りたいんだよ」
妹「最後が一番いいのに(本をめくりながら)まだ読んでないじゃん」
姉「葬式でおわりじゃないんだよ」
妹「ちよ姉が残したままにしないと」

姉「(立ち上がり妹の髪を触る姉)じゃあまた帰ってくるね。顔洗ってきな」

(部屋から出ようとする姉)

呼び止める妹「これだけ(本を差し出す)」

姉「棺に入れる?」

妹「(首を振る)いや、また私が読むから」(本を本棚に戻す)

 

岩井俊二
「これこの目的だけで作ったの?」

井口崇
「はいそうです」

岩井俊二
「なんかこうもっと長い物語の一番好きなシーンだけ取り出したような」

井口崇
「裏設定は色々あるんですけど、ここだけを」

岩井俊二
「全然一分用じゃない映画からスライスした感じが凄いなと。唸りましたけどね」

大林宣彦
「ドラマというジャンルの中で、シチュエーションドラマと呼ばれるものだよね。つまりドラマが人間の行動や言動によって展開するんじゃなくてあるシチュエーションのなかにはめ込まれた人物たちが何をするかでドラマが出来てくる。そういう意味じゃこのカメラポジションは的確ですね」

岸野雄一
「セーラー服の子の表情がほぼ鏡を通してでしかうかがい知れないという計算をしてるでしょ。ブレザーの子は見えるっていう対比がよく設計されてる」

常盤貴子
「(髪を)触るところとかいろいろ考えますね。この短い中で二人の関係性をうわーっと考えたくなる。奥行きのある」

大林宣彦
「あれいいよねえ、触るところね」

岩井俊二
「一番切り捨てられたのが役者の顔だった、それで成立してるのが凄いなと」

 


 「Never Forget」(監督:中澤友秀)

暗闇のなかライターでタバコに火をつける男性のモノローグ「俺には忘れられない恋がある。いくらタバコを吸っても胸が締め付けられて頭が重くなる」。場面は変わって明るい公園のような場所で女性に告白して手を差し出す男性、しかし顔を上げたときに女性はいない。再び別の場所、男性が顔を上げるとあの時告白した女性。

女性「あの時逃げてしまってごめんなさい、私ね・・・もうすぐ・・・」

ヘッドホンで音を遮断する男性、女性を見ず別の方向を見る。

モノローグ(「音を遮断した」)

画面の外から女性の小さい声「病気なの、もうすぐ。死んでしまうの」

モノローグ(「胸が締め付けられる」)
女性「でもね、この前ね」、モノローグ(「不協和音に聞こえた」)

男性のモノローグ「俺は胸が締め付けられる」

 

岩井俊二
「というわけで、なんすかこれは?」

常盤貴子
「ふふふ」

岩井俊二
「彼女の返事が聞こえてないということなの?」

監督:中澤友秀
「うっすら聞こえているけど、それを受け止めたくないという」

岩井俊二
「いろんな解釈が出来そうだと感じたラストに茫然としてしまったんですが、どうですか」

岸野雄一
「ヘッドホンの扱いって映画だと難しくて、よく主観ショットは視覚的なものではあるんだけど、それの聴覚版というね。登場人物が聞こえてる音を観客にも聞こえ方をさせる、だからちょっと聞こえるっていう中途半端にならざるをえなかった。それとこの女性が余命いくばくもないってことを観客にも知らせておく方法をとれば、まったくシャットアウトで口をパクパクさせてても生きたかなと」

岩井俊二
「ヘッドホンが巨大な小道具で、急に出てきておっとなった」

大林宣彦
「あなたにとってこの少女はどういう人ですか?」

監督:中澤友秀
「友達の女優さんで」

大林宣彦
「愛してた?」

監督:中澤友秀
「この時は恋してました。やっぱり撮る時どうしても女優に恋してしまうので、ただ恋かなぐらいの感じだったので」

大林宣彦
「足りなかったな」
「もっと恋さなきゃいかんよ。あなたがこの少女を恋して初めて切なさが伝わるんですよ」

監督:中澤友秀
「はい」

大林宣彦
「それが監督の役割よ。恋されると少女が輝くんだもの、そうすると彼女が美しく映像に映る。俺がどんだけ貴子ちゃんに恋したか」

常盤貴子
「恐れ入ります」

大林宣彦
「でもシナリオとカット割りは上手いと思った。ただそこの一番大事な恋心が・・・サボってたなあ


 岩井俊二
「ここからは僕も見てないんですけど」

「何をさがしてたの?」(監督:坂本悠花里)一般投稿部門

部屋で寝ころんで窓を眺めている女性。窓から見る夜景の映像がうろうろと、再び女性の映像。(背景の音「夜には毎秒・・・イルミネーションが輝きます」そして再び女性の寝るシーン

 

岩井俊二
「まさかこのまま終わるんじゃないかと思ったらこのまま終わりましたねwどうですか」

大林宣彦
「でも、あなたは何をさがしてたの?ってくるとドキッとくるねえ。何をさがしてたんだろう」

常盤貴子
「私たちのことですかね?」

大林宣彦
「だったらすごいよね」

常盤貴子
「私がこの映像で何をさがしてたのかって、なんかがあるとおもって探してたけど・・・あれなに探してたんだろうって(笑)」

(会場笑い)

岸野雄一
「けっこう懸命に探しましたよね。(夜景が)不鮮明だから」

岩井俊二
「あの絵にやられちゃいましたね」

岸野雄一
「なんとなく彼氏が海外に行って悶々としてるような雰囲気はありましたよね」

岩井俊二
「ありました」

大林宣彦
「観客は何か意味を見つけようとする。そうするといろんなものが見えてくるもんね。ここからだって。だから寝ている女性だけだったら明快なんですよ。彼女が何を探しているのかわからんし、こっちもわからないしというところで、コミュニケーションがあるよね」

 


 (一般投稿作)「扉が開く」(監督:深町美音子)

キッチンで身支度をする女性の足、スーツとパンプスで部屋から出ていく足、エレベーターで「ドアが開きます」という音声、夜部屋に帰ってくる女性の足、部屋でマニキュアを塗り出ていく足、映像が急に鮮明なカラーになる、ピンクのカバンを持ち町を歩く女性の足、走る女性の足、ファーストショットの朝の足、傍らには投げ捨てられたピンクのカバン。

 

岩井俊二
「スライス・オブ・足って感じですね」

常盤貴子
「途中までは女が階段を上がる時みたいな感じかと思ったんですけど、最後のキッチンタイマーの音で迷路に」

大林宣彦
「扉を開けるところだけでスライス・オブ・ライフをやろうっうていうのはこれは面白いアイデアだよね」しかもその中で扉があきますなんてエレベーターの音が入るとギャグみたいだし」

「なんだったんだろうね最後は、ファーストシーンと同じかね」

岸野雄一
「だれか解釈できる人?」

聴講生・堀川恭平
「たぶん最初と最後は日常で、台所かなと思ってて、そのあとの出ていくシーンはパンプスとスーツで日常生活、灰色っぽい世界で最後に落ちてたバッグだけビビッドなピンクでたぶん変身願望じゃないですけど走ってるときは派手な格好をしてた。そういう扉が開いたのかなと?」

全員「あー」

(もう一度映像を見る全員)

岩井俊二
「一人の女性の昼と夜を足だけで描いたということですかね」

大林宣彦
「面白いねえ・・・色んなことがわかってくるね」


最後に一般投稿作品

「大晦日」(監督:弓指寛治)テーマ「ホラー」

「2014年さようなら」という忘年会の飲みの様子、店の外に出ると変な音が聞こえ空を見上げるメンバー。次の映像は仲間の一人が急に「もう2015年は来ない」と立ち上がり外に出ていくシーン、再び外に出た時にはそのメンバーがいなくなっていて全員で探すことに。揺れる映像、階段を駆け上る、屋上にたどりつくと、口から謎の光を発するメンバーを見つけたところで画像が途切れる・・・。

大林宣彦の感想文
「大晦日」日常のざわめきのなかに忍び寄る透き闇(間?)既知が未知に喰われる新年。

2月12日の「ドラマ編Part2」に続く・・・

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 - まとめ, テレビ

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